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2025/06/15

裹蒸糉

(グオジェーンジョン:廣東語発音)
枕型で具だくさんな大型廣東粽

裹蒸糉(グオジェーンジョン)──1000年を越えて「蒸し」の名をもつ、茹で粽の記憶

2025年5月31日、端午の節句を迎えました。
東京の朝は、いつも通り静かに始まりました。
けれど、中華圏では、粽の販売や消費が最高潮に達し、街中が賑わっていました。
生成AIが当たり前になったこの時代でも、中華圏では千年以上も変わらず、「粽(ちまき)」が食卓に並び続けています。
日本の中華料理店で見かけるのは、小ぶりな三角形の粽が主流です。
けれど、わたしが子どもの頃から慣れ親しんできた粽は、もう一つあります。
それは広東・広西・香港・マカオなど南方地域で作られる、枕型で具だくさんな大型粽:裹蒸糉(グオジェーンジョン)です。

この粽には、いくつかの特徴があります。
包む葉: 竹の葉と蓮の葉を重ねて使用し、香りと強度の両立を図ります。
形: 枕のような四角い形をしています。
調理法: たっぷりのお湯でじっくり茹でて仕上げます。
食感: 具材がぎっしりと詰まり、とろっとねっとりした口当たりが魅力です。

けれども、ずっと気になっていたことがあります。
「実際には茹でて作るのに、なぜ“蒸”という漢字を使うのだろう?」
その素朴な疑問をきっかけに、私は唐代へと、ささやかな文献の旅に出ました。

唐の詩人・杜甫が詠んだ『十月一日』という詩に、こんな一節があります:

有瘴非全歇,為冬亦不難。
夜郎溪日暖,白帝峽風寒。
蒸裹如千室,焦糖幸一柈。

「蒸裹如千室」:蒸し器にずらりと並んだ粽が、まるで千軒の家のようだの意味です。

この表現から、当時は本当に“蒸して”粽を作っていたことがわかります。
現代では茹でるのが一般的ですが、1000年前には“蒸し”が主流だったのかもしれません。

次に湧いた疑問は、「なぜ詩のタイトルが『十月一日』なのか?」
粽といえば旧暦五月五日の端午節が定番。にもかかわらず、詩には冬の情景が描かれています。

有瘴非全歇,為冬亦不難。
夜郎溪日暖,白帝峽風寒。

「瘴気(湿気による体調不良)はまだ消えていないが、もう冬を迎えても不思議ではない。谷は暖かく、峡では風が冷たい」。
これは明らかに晩秋から初冬の情景です。

この詩が詠まれた「夔州」(現在の四川省奉節)という地には僚人(今のタイやベトナムに繋がる少数民族)が暮らしていました。
僚人にとっての正月は、旧暦の十月一日でした。
これは秦の時代から伝わる「顓頊暦(せんぎょくれき)」に由来し、十月を年の始まり(歳首)としていたためです。
つまり、杜甫が目にした粽は、端午節のものではなく、僚人たちの新年を祝う粽だったのです。
現代でもこの文化は受け継がれています。
ベトナムでは今も、旧正月「テト」に四角くて大きな粽を食べる風習があります。
そして裹蒸糉とベトナムの粽は、形も意味も驚くほど似ています。
文化は、静かに、確かに、つながっているのです。
詩の中で、もう一つ印象的な一節があります:

焦糖幸一柈
「焦がした糖(飴)を一椀に盛る」

まるで沖縄の黒糖シロップのようです。
「ちまきに甘いシロップなんて」と思うかもしれませんが、実際に四川や雲南では、黒糖やバラのシロップをかけてちまきを食べる文化が今も残っています。
香港も白砂糖を添えて食べるのが定番です。
1000年の時を超えて、杜甫が見た蒸気の立ちのぼるちまきの光景と、今、東京の台所で私が包んでいる裹蒸糉の姿が、ふっと重なって見えるような気がします。文化は、自分自身の中に生き続けているのです。

思い返せば、子どもの頃:
母はこの季節になると、祖母の工場からたくさんの粽をもらって帰ってきました。
母の実家はレストランに既製品を卸す食品会社の家系。うちは粽は「買うもの」ではなく、「もらうもの」でした。
それが、当たり前だったのです。
でも今は、人生の半分以上を日本で過ごしています。
祖母の工場も、母の姿も、もうあの頃とは違います。
それでも、この季節になると、不思議とわたしの手は勝手に動き出すのです。
「今年こそ作らない」と毎年思います。
忙しいし、面倒だし、なによりわたしは地道な作業が苦手です。
なのに気づけば、竹の葉を重ね、もち米を包み、豚肉、豆、卵黄と諸々の具材を詰めて、糸で縛っています。
竹の葉と蓮の葉を熱湯で柔らかくしながら、祖母の工場から貰って来たちまき、あの懐かしい香りを思い出します。
そして、また今年も小さな枕型の裹蒸糉を包みました。
裹蒸糉:それは、食べる文化遺産です。
時を超えて、国を超えて、想いをつなぐ。
今年も敬意と気合いを込めて、包みました。

 

Tips:茹でると全体の塩味が抜けていくため、もち米と緑豆にはあらかじめしっかりと塩味をつけておきましょう。

 

材料(2人分

【包む材料】
乾燥蓮の葉 … 2枚
乾燥竹の葉 … 16枚
たこ糸またはひも … 適量

【もち米】※一晩冷蔵庫で浸水
もち米 … 360g
塩 … 小さじ1
砂糖 … 小さじ2
サラダ油 … 15g

【緑豆(皮なし)】※一晩冷蔵庫で浸水
緑豆(皮なし) … 160g
塩 … 小さじ½
砂糖 … 小さじ1
サラダ油 … 10g

【具材】
干し貝柱 … 4個
干し椎茸 … 2枚
栗(甘栗でも可) … 4個
塩漬け卵の黄身 … 2個

【豚バラ肉 下味用】
豚バラ肉 … 約200g(塊で)
砂糖 … 小さじ1
塩 … 2g
水 … 小さじ1
紹興酒 … 小さじ1
五香粉 … 小さじ¼
サラダ油 … 小さじ2

 

作り方

【豚バラ肉の下ごしらえ】

豚バラ肉を4等分に切り、調味料(砂糖・塩・水・紹興酒・五香粉・サラダ油)の順に加えてもみ込み、一晩冷蔵庫で漬けて味を染み込ませておきます。

【葉の下処理】

鍋にたっぷりの湯を沸かし、乾燥蓮の葉と竹の葉をそれぞれ茹でて柔らかくします。鍋にサラダ油(小さじ1)を垂らすと葉がしなやかになり扱いやすくなります。茹でた葉はキッチンペーパーで汚れを拭き取ります。

【米と豆の下味】

浸水しておいたもち米と皮なし緑豆は、それぞれの調味料(塩・砂糖・油)で下味をつけておきます。干し椎茸と干し貝柱を戻します。

【ちまきを包む】

蓮の葉の上に竹の葉を3枚横に並べて重ね、その上に以下の順で材料を重ねます:
もち米 → 緑豆 → 味付け豚肉 → 干し貝柱 → 塩漬け卵の黄身 → 干し椎茸 → その上にさらに緑豆ともち米を軽くかぶせ、竹の葉で覆って全体を枕のような四角い形に整えます。

【ちまきを縛る】

蓮の葉でしっかりと包み、隙間ができないように四辺を丁寧に覆います。ひもで「井」の字に十字に縛って固定します。

【茹でる】

鍋にたっぷりの水を入れ、包んだちまきを沈めて3時間茹でます。途中30分ごとに火加減と水の量を確認し、減っていれば湯を追加します。

【完成】

茹で上がったら、お好みで砂糖や醤油を添えてお召し上がりください。※ラップで包んで冷凍保存も可能


雲姐(ワンジェ)

料理研究家。香港に生まれる。幼少期、平日は祖母、週末は料理が趣味だった父の手料理を食べて過ごす。オーストラリアへ移住を経て、結婚を機に日本へ移り20年以上。中国国際薬膳師、発酵食品ソムリエ、発酵ライフアドバイザーの資格を持ち、中華圏および日本の食文化への造詣も深い。現在は、日本の人々に香港料理を伝えるべく東京で活動中。

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