2025/09/15
菜乾排骨粥
(チョイ ゴン パイ グァッ ジュック:廣東語発音)
干し菜っぱのとんこつ粥
最近のニュースによれば、香港の外食産業はかつてない閉店ラッシュに直面しており、今年上半期だけで1,000軒以上の飲食店が姿を消し、街の風景は大きく変わりつつあります。その象徴が「海皇粥店(ホイウォン・ジュッディム)」でした。最盛期には30店舗以上を展開した香港最大のお粥チェーンも、5月に全店閉店を発表し、33年の歴史に幕を下ろしました。
1992年に紅磡(ホムハム)で創業した同店は、日本式の「5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)」を取り入れ、清潔でモダンなイメージを打ち出しました。庶民のお粥を日常のファストフードへと押し上げた存在で、日本でいえば「吉野家」のようなポジションでした。
閉店の原因は「北上消費」だけではなく、香港特有の高すぎるコスト構造やキャッシュフローの断絶が致命的だったと思います。北上消費とは、香港人が週末に深圳や大湾区で買い物や外食を楽しむ現象を指します。物価の安さ、多彩な体験型サービス、進んだデジタル化が魅力で、その結果、香港飲食業の売上は大量に流出したと考えられています。
もっとも、お粥は香港では「毎日の朝食」として定着しており、週末需要の影響は比較的小さいはずです。それでも海皇粥店が立ち行かなかったのは、家賃の高騰、人件費増加、最低賃金の引き上げ、人材不足といった複合的な外部要因が大きいでしょう。固定費の負担が重く、質の低下から客が離れ、収入減少、資金不足という悪循環に陥ったと考えられます。
現在の香港の外食市場は二極化しているように見えます。淘汰されるのは中価格帯の中華レストランやバー、凡庸なチェーンです。一方で生き残るのは、資金力のある大手飲食店か、コスパが高い小店、強い独自性を持つ小規模店でしょう。「膨大な資金を持つ」「圧倒的な安さ」「際立つ個性」のいずれかがなければ生き残れないのかもしれません。
では、日本の吉野家や松屋が同じ運命を辿る可能性はどうでしょうか。日本では、郊外出店による賃料リスクの分散、中央厨房や物流網による効率化、生活インフラとしての安定需要、金融制度や社会的支援といったセーフティーネットが整っており、香港のような事態にはなりにくいと思われますが……どうでしょうね?
閉店後の海皇粥店のネットショップを覗くと「菜乾排骨粥(チョイ ゴン パイ グァッ ジュッ)」のレトルトが目に入りました。
菜乾(チョイゴン)とは、中華野菜の大白菜(ダイバックチョイ)を干した広東の保存野菜で、スープや粥に長時間煮込んで使う食材です。わたしにとっては、親が宴会で持ち帰った焼豚の切れ端と一緒に煮込んでくれた、家庭の味そのものです。素朴で、余り物を活かすお粥がレトルト化されていることに、少し驚かされました。
香港飲食業が苦境にあっても、こうした「家の味」が形を変えて残ってくれるなら嬉しいものです。やはり、家庭料理にはほっとする力がありますね。
Tips:日本では「菜乾」が手に入らないため、搨菜(タァツァイ)や山東菜、大根の葉っぱで7割まで茹でて、天日干ししたものを使いました。
材料(4人分)
【スペアリブの下味】※一晩を冷蔵庫で漬ける
スペアリブ … 200g
塩 … 5g
【材料】
菜乾 … 20g
米 … 50g
塩 … 少々
サラダ油 … 少々
お湯 … 1リットル
作り方
1.スペアリブに塩をまぶし、冷蔵庫で一晩置く。
2.分量外の熱湯でスペアリブを霜降りし、きれいに洗っておく。
3.菜乾は柔らかくなるまで戻し、きれいに洗って水気をしっかり切る。短冊切りにしておく。
4.米を洗って水気を切り、塩とサラダ油を加えて全体にまぶす。
5.鍋に湯を沸かし、米を加える。続いてスペアリブ、菜乾を順に入れ、沸騰したら中火に落として、とろみのあるお粥になるまで煮る。
雲姐(ワンジェ)
料理研究家。香港に生まれる。幼少期、平日は祖母、週末は料理が趣味だった父の手料理を食べて過ごす。オーストラリアへ移住を経て、結婚を機に日本へ移り20年以上。中国国際薬膳師、発酵食品ソムリエ、発酵ライフアドバイザーの資格を持ち、中華圏および日本の食文化への造詣も深い。現在は、日本の人々に香港料理を伝えるべく東京で活動中。
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