2021/11/15

香港のアフリカセンターで働く日本人

「観光業を学ぶために香港へ来たのに、今はアフリカセンターで働いているのですから、人生何が起こるかわからないですね」と笑うのは、現在香港のアフリカセンターで働く清水千都さん。センターの立ち上げから携わり、たった1人の日本人スタッフとして、ブッククラブ、アフリカンダンスレッスン、キッズクラブ、重チョンキン慶大マンション厦ツアーなど、イベントの企画・実施を担当。アフリカセンターは、香港に住むアフリカに関わる人々の集いの場となっている。

「アフリカセンターは、香港にいるアフリカ系の人々のコミュニティースペースとして、また、ビジネスコンタクトのハブとして設立されました。アフリカというと、貧困や支援が必要な国というイメージが先行し、周囲と対等な関係を築くのが難しいことが多いです。アフリカには豊かな文化があり素晴らしい人々がいることを、ここから発信していきたいのです」とひかえめながらもしっかりとした口調で、清水さんは語る。

清水さんは、名古屋大学4年生のときに香港中文大学へ留学した。留学先に香港を選んだ理由は、父親に勧められて読んだ『深夜特急』。小説で登場した重慶大厦の混沌とした雰囲気になぜか惹かれたのだそう。

彼女には幼いころの忘れられない記憶がある。

「幼少期に、父の仕事の都合でインドネシアのジャカルタに住んだのですが、駐在員だった父には運転手つきの車が与えられ、わたしも外出はだいたい車でした。ある雨の日、車内から外を見ると、わたしと同年齢の女の子が、ぬれながら新聞を売っていたのです。自分は心地よい車の中にいるのに、あの子は雨の中、裸足で働いている。あのときの違和感は今でも鮮明に覚えています」

当時のモヤモヤとした気持ちが、いつしか「少しでも世界を良い方向へ変える活動をしたい」という思いになっていった。だが、そのために自分には何ができるのかが具体的には見えない。自問自答していた清水さんが「これだ」と思ったのが、アフリカセンターだった。

センターの広報誌の挿絵は、すべて清水さんが描いている。幼いころから絵を描くのが好きだったそう。
自分の人生だから本当にやりたいことを

アフリカセンターを発案、創始したイノセント・ムタンガさんと清水さんが知り合ったのは香港中文大学在学中。清水さんと同じ大学4年生だった彼の身の上話は、清水さんを心底驚かせた。生まれ育ったジンバブエで命の危険を感じ、難民として香港へ渡ったというイノセントさん。当初はベンチで寝るしかなかった生活で、そこから移民局との2年にわたるやりとりの末、大学への入学を果たしたのだそう。

「彼を通じてアフリカ系の方々と知り合ううちに、地下鉄に乗ると自分の隣の席だけが空席になる、ビザがあっても他国への入国を許されないことがあるなど、彼らを取り巻く厳しい現実を知りました。日本にも香港にもアフリカ系やミックスの方はたくさんいます。彼らが自分のルーツに誇りを持てないのは悲しいことです」

だからこそ、アフリカセンター設立の話を聞いた清水さんは「自分が本当にやりたい道はこれだ」と感じた。現実を悲観するだけでは何も変わらない。自分から発信し、問題を訴えていかなくては、世の中は勝手に変わってくれないのだと。

「2年前に訪れたジンバブエでは、人々の心の温かさに感動しました。貧困というのはひとつの側面でしかなくて、彼らは電気やガスがなくても底抜けに明るい。いつでもなんとかなるという考え方で、さまざまなクライシスを乗り越えてきた。コミュニティーの強さを感じましたね」

大学を卒業後、日本に帰国し「香港のアフリカセンターで仕事をしたい」と両親に想いを伝えた。しかし、大学院へ行くものだと思っていたご両親にとっては寝耳に水。「計画性がない」と猛反対され、在学していた名古屋大学の教授にも「もう一度考え直しては」と諭された。それでも、清水さんは反対を押し切って香港へ戻った。自分が納得する人生を送るた
めに。

「日本の夏祭り」も大盛況。織田信長に仕えたアフリカ系武士「弥助」に扮するのがイノセントさん(中央)。

 
人とつながりながら大きな力へ

アフリカセンターは、社会的企業(有料のサービス提供による収入により、社会的課題の解決をめざす)のため、イベント企画と実施がコミュニティー活動の要となっている。仕事中にスタッフとの考え方や文化の違いを感じることもあると語る清水さん。例えば、イベントで使用した備品の個数や金額を記録していると、アフリカ人スタッフに「細かい記録は必要
ない」と言われる。

「日本人同士ではないので、自分の意見ははっきり言わないと相手に伝わりません。お互いを尊重しながら、両者が納得のいくように意見をすり合わせていく。毎日、そういう地道な作業の積み重ねです」

アフリカセンターを立ち上げて2年。限界を超えてもやりたい、自分をもっと成長させたいという気持ちが強いあまりに、仕事を引き受けすぎて余裕がなくなってしまうこともあるという。そんな清水さんを、アフリカ特有の大らかさで受け止めてくれるスタッフには、何度も救われてきた。

時々、日本にいる家族や友人と話をするのも、リフレッシュのために大切な時間。同じころに就職した友人と話すと、誰もが悩んだり大変な経験をしていることに気がつかされる。環境や国が違っても、社会に出て日々迷いながら成長しているのはみな同じ。いつも刺激になっているのだそう。

そんな清水さんに、仕事のやりがいを尋ねると「アフリカセンターに来る子ども達が、肌の色に関係なく楽しそうに遊ぶ姿を見ると、うれしさがこみ上げてきますね。ここでは誰の目も気にせず、ありのままの姿で楽しんでほしいのです」と答えた。

日々、アフリカの人たちと共に格闘中だが、アフリカセンター主催の「日本の夏祭り」では、関係者に協力を要請する中で日本の社会人マナーも教わった。アフリカセンターを舞台にキャリアを形成している最中の清水さん。とにかく日々前進なのだ。

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*Hong Kong LEI vol.46 掲載

WRITER書いた人

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