2023/05/26
五月。ずっとスッキリしない天気が続く香港。先日の母の日もあいにくの雨模様でした。それでもコロナ収束後、3年ぶりに一族総出でお祝いできる母の日ということで、点心レストランは大繁盛したようですね。
さて、先日「今晩のおかずは何にしよう」と考えながらぼんやりエレベーターを待っていたところ、お隣のヘルパーさんがちょうどお買い物から帰ってきました。今晩のおかずのヒントになるものがあるかもしれない、と思ってさりげなく彼女のお買い物バックの方に目をやると……
『肉丸先生』『蔬菜(野菜の意)先生』
どうやら、肉丸先生でお買い物をしてきた模様。そして、肉丸先生のお供になるのであろう蔬菜先生もバッグから少し顔を覗かせておりました!
『肉丸先生』と『野菜先生』。自分のクラスの担任になるとしたらどっちがいいかな、肉丸先生は「肉と言う字は〜」などと言う熱血漢なのかな、などと今晩のおかずはそっちのけで、どうでもいいことを考え始めたわたし。他には一体どんな先生達がいるのかと気になり調べてみると、香港には『先生』という名を使ったお店がちょくちょくあるということに気づきました。
火鍋レストランの『火鍋先生』、プラモデル専門店の『模型先生』、それから鉄板焼きの『鉄板先生』……。
『火鍋先生』では、店主が出てきて、いちいち食材を入れる順番から食べるタイミングまで細かく口出しをしてくるので落ち着いて食べられない……のかどうかは知りませんが、なんとなく『先生』がついていると偉そうな店主がいそう!
でも実はこの『先生』、コラム第7回でもご紹介していますが、中国語圏では教師という意味はなく、男性の敬称『ミスター』という意味ですのでお間違いのないよう。
日本のミスタードーナツは、香港に上陸したら『甜甜圏先生』となることでしょう。そしてもしわたしが日本アニメグッズの店を開くならば『マイッチングまち子先生』と命名しようと思います。あ、まち子はミスターじゃないから使えないか!
俺の自慢の料理を出す店に、ミスターという敬称では事足りない、というシェフも存在します。そんな場合には『師傅』を使う、という手もあるようです。
『師傅(シーフー)』とは『師匠』の意です。カンフー映画好きの皆さんは、よく弟子達がお師匠様に向かって『師傅』と呼びかけているのを聞いたことがあるかと思います。また香港では、くわえ爪楊枝のミニバス運転手も、乗客から『師傅』と敬われています。自分の希望の降車地点で降りられるかどうかは師傅次第ですから、師傅が偉いのは当然のこと。ミニバス乗車時、わたしは自分のバス停が近づいてくると胸の鼓動が早まります。自分の座っている座席から『師傅』までの距離、周囲の雑音、そして『師傅』は今、オーダーを受けられる態勢にあるかなど全てを総合的に判断し、「次、降ります!」と絶妙な声量とタイミングでお願いしなければなりません。『師傅』がバックミラー越しにチラリと横目でわたしを見て左手をあげてくれたら大成功。師匠に認められた弟子の気分です。
さて、話をお店に戻しましょう。牛頭角にて師傅のこだわり粥店を発見しました。その名も『大師傅粥品』。朝9時近くに通りかかると、さすがは師傅の店、もう満席でした。
『大師傅粥品』『蛇王』
『先生』でも『師傅』でも言い尽くせない、『王』級の技をもってした料理を提供している! と豪語する香港名物の店もあります。それは蛇スープ屋。香港にある蛇スープ屋の名前は、ほぼ間違いなく『蛇王』+『店主の苗字』となっています。
蛇王達は代々伝わる秘伝の蛇スープを調理するだけでなく、お客様に新鮮な蛇を提供するために、生きた蛇を扱い、さばく、という高度な技を持ち合わせている強者です。中には毒蛇もいるわけですから、相当肝が座っていないと難しい職業です。しかも、彼らにはちょっとした副業があります。それは警察から「民家に蛇が出た!」との連絡が入ると捕獲に駆けつけると言うもの*。 退治した蛇が今宵のスープに化ける……のかどうかは知りませんが、蛇王達が香港の他の伝統工芸同様、深刻な後継者不足に悩まされているのは事実です。
最後、王よりも偉い、俺様は大王だ! という店も発見。
『椰汁大王』『糍到大王』『雞仔餅大王』
『椰汁大王』は何故か店先にココナッツではなくコンデンスミルクの缶を大量に詰んでいましたが、大行列のできる人気店でした。一方、その先にあるお餅のお店『糍到大王』では、ランニングシャツに短パン姿の老眼鏡をかけた大王が新聞を読んでいました。香港名物マンゴー餅を注文すると、大王自らお餅を一つ一つ丁寧に箱に包んでくれ、優しい笑顔と共に商品を渡してくれました。
皆様も、香港の街を歩く時はキョロキョロしながら、ぜひ、色々なお店を見てくださいね!この他にもきっとオモシロ楽しい名前の素敵なお店が街のあちこちに隠れていますから!
ではまた次回!
*https://zh.wikipedia.org/zh-hk/蛇王
小林杏 (Anne Kobayashi)
東京都出身、青山学院大学仏文科卒。ニュージーランド、日本、フランス、英国での就業経験あり。ロンドンでの出産子育てを経て、2020年に来港。今まで住んできた土地のように、香港も愛おしい場所となりつつある今日この頃。趣味は読書、舞台芸術鑑賞とカンフー映画鑑賞。
Hong Kong LEI (ホンコン・レイ) は、香港の生活をもっと楽しくする女性や家族向けライフスタイルマガジンです。
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