2024/08/10

こんにちは。沙季です。

日本食レストランの商品開発として香港ワーママ生活を経て、地元仙台に移住し、両親と息子の4人で暮らしています。

第11回目のコラムではわたしが香港を去る理由を綴っているのでよろしければご覧ください。

 

今回は「香港で生まれる金継ぎの新しい価値観」というお話です。

レッスン風景。当時は店の横に巨大クルーズ船が停まっているこの光景は日常でしたが、今見るとすごい光景ですね。

 

傷ついたからこその美しさ

第10回目のコラム「傷は隠さず金で彩る」で金継ぎに対する思いを綴ったので、今回は割愛しますが、ざっくりこのような理由でわたしは金継ぎが好きなのです。

 

「金継ぎも人生も同じ。

どんなに大切にしていても、割れたり欠けたりすることはあります。

傷ついてしまったのなら仕方ない。

隠さずに、むしろ傷を金で強調して前よりもっと美しくすれば良いのです。」

 

金継ぎワークショップのはじまり

ワークショップのきっかけは、当時勤めていた日本食レストラン。

店の欠けたお皿をちょこちょこ金継ぎしていたこともあり、金継ぎという文化を知らないお客様にも、なぜ皿の欠けている部分に金がついているのか、背景にどんな思いがあるのかを伝えたい。

また、ワークショップを通じてお店の事を知ってもらいたい。という狙いがありました。

モダン金継ぎは単発で2時間ほどのレッスンで完結できますので、金継ぎという文化を気軽に楽しんでいただけるのにちょうど良いなと思い、企画しました。

そこで、Hong Kong LEIのサイトで募集をかけ単発のワークショップを数回開いたところ、毎回予約開始数日で満席に。

こんなに金継ぎに興味のある方がいるのだ!と驚きました。

金継ぎしたお皿をあえて店内の見えるところに飾ったりしていました。

 

在港日本人としてのアイデンティティ

海外にいるからこそ自分の日本人としてのアイデンティティを意識したりしませんか?

現在わたしは日本にいますが、香港にいた頃の方が着物を着ていたし、眉毛も髪の毛も真っ黒で、日本人らしさを追求していた気がします。

それはさておき、香港にいるからこそ、日本にはこんなに素晴らしい文化があるのだと香港人や在港日本人に伝えたい、という気持ちがわきました。

 

広東語レッスンにかけた思い

香港人向けレッスンには一つこだわりがありました。

香港では多くの方が英語を話しますが、香港人の母国語である広東語での金継ぎワークショップを開きたかったのです。

これは、完全に自己満足なのですが、わたしたち外国人が香港の言葉である広東語を話せなくても、いつも快く英語でコニュニケーションを取ってくれる、いわば外国人に寄り添ってくれる香港人への、わたしなりの広東語へのリスペクトと感謝の気持ちでもありました。

 

そこで、友人であり、香港と日本の文化差異を発信しているインフルエンサー、なみちゃんにその旨を話したら快く協力してくれて、念願の広東語でのレッスンが叶ったのです。

広東語を操る頼もしい友人達。

 

異文化からでしか見えないことがある。

ワークショップでは、それぞれご自分の壊れた食器をお持ちいただいたのですが、(無い方は店の食器を使用していただきました。)

ある香港人の方は、壊れていない食器にこんもりとパテを乗せていたのでなぜか聞くと、気に入っている食器を自分らしいアート作品に仕上げたいとのことでした。

なるほど。

言われてみれば、欠けた部分にしか金継ぎをしてはいけない決まりなんてないのですが、わたしにはそれまでその発想が無かったのです。

個人の考え方の違いなのか、それとも育ってきた文化が違うからなのかは分かりませんが、その文化に対して固定概念がないからこその新しい発想もあるのだと再確認しました。

 

そして、早速次のレッスンで、金継ぎは壊れていない部位にも行えること、欠けた範囲を越えてあえてこんもりさせるのも素敵だということを、前回の香港人の彼女の作品写真と共に紹介しました。

 

そこで、数名の生徒さんが「素敵!やってみたい」とのことで、こんもり金継ぎムーブメントが起こりました。

伝統を守り続けることも美しいですが、海外の方のアイディアも取り入れると、新しい芸術が出来上がることもあるのだなと実感した出来事でした。

 

さて、現在、わたしは日本にいますが、ありがたいことに未だに香港の方からも金継ぎレッスンをやってほしいとのリクエストをいただきます。

 

一回でも完結できるワークショップですし、ほとんどわたしの自己満足にお付き合いいただいていたようなものなのに、何度もやりたいと思ってくださった方がいることが嬉しくて。

同時に、せっかくのお声に応えられないことが悔しくもありました。

 

そして現在、毎日、大切そうに食器を削ったり、漆を塗ったり、金粉を撒いたりしている母を見ていると、いつかもっとこの素敵な文化を、世界のどこにいても楽しんでもらえるようなことができないかな? なんて考えたりしています。

なんて、まだ何もビジョンはないのですが夢は膨らみますね。

いつかまた金継ぎの世界でみなさまとお会いできたらいいなと願っています。

 

それでは今回も読んでいただきありがとうございました。

また次回もお待ちしております!

 

※コラム内の写真は掲載許可をいただいています。

筆者プロフィール

沙季(Saki)

東京の大手料理教室で講師を5年程務め、
その後独立。妊娠出産を機に湘南へ移住し、
レシピ開発やフードコーディネーターとして活動。
2022年香港に移住。
某日系F&B Companyにメニュー開発者として所属。
息子とヘルパーさんと3人で暮らしながら仕事をしていたが、2023年末に仙台へ移住。
フリーランスでレシピ開発や料理講師、モダン金継ぎ講師などを行う。

instagram https://www.instagram.com/_sakioo_

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