2025/08/15
鹽焗沙薑雞
(イム ゴック サー ギョン ガイ:廣東語発音)
沙薑という生姜科のスパイスチキン
わたしはこれまで、一度も万博に行ったことがありませんでした。「EXPO」という言葉は何度も耳にしてきましたが、それが実際にどんなものなのか、まるで未知の世界でした。
そんなわたしが大阪・関西万博を知ったきっかけは、広報活動の中でマスコットキャラクター「ミャクミャク」の存在を目にしたことでした。
そしてこの年になって、ようやく自由な時間を手に入れたわたしは、「よし、行こう!」と決意。6月下旬からは、まるで学生時代に戻ったかのように、万博の攻略法を調べる日々が始まりました。朝はパートに出かける前に情報収集、帰宅して夕飯の支度を済ませた後はYouTubeで万博関連の動画を見る──そんな毎日が続きました。
そして、ついに訪れたのが7月上旬。気温35度超え、体感温度はなんと40度を超える過酷な暑さの中で、万博会場を体力の限界まで三日間歩き回りました。
とても疲れましたが、「やりきった!」という達成感に満ちていて、人生で一度は万博を経験できて本当に良かったと思っています。おそらく、これが最初で最後の万博になるかもしれません。
万博とは、一か所で世界一周ができるような場所なんだ──そう実感しました。そして今年のテーマ「いのちの未来」や「いのちのデザイン」は、単なる展示ではなく、未来への問いかけとして心に深く響きました。
旅が好きなわたしでも、世界中のすべての国に行くのは現実的に難しいことです。特に入国が困難な国となると、なおさらです。だからこそ、今回の万博で「トルクメニスタン」「カザフスタン」「サウジアラビア」「チュニジア」など、普段なかなか行けない国々のパビリオンを訪れ、それぞれの料理を味わえたことは、本当に嬉しい体験でした。
それらの国々の料理は、スパイスの使い方が非常に印象的でした。日本や香港では、そこまでスパイスを多用する料理は一般的ではないため、万博での食体験はとても新鮮でした。
東京に戻る道中、ふと「香港には日本人にとってあまり馴染みのないスパイスがあるのでは?」と思い、記憶をたどってみたところ、「沙薑(サー・ギョン)」というスパイスを思い出しました。
これはショウガ科の一種で、日本名では「バンウコン」と呼ばれます。個人的には、生姜のような香りはあまり感じませんが、香港では鶏肉の香り付けに使われることが多く、独特な東南アジアの香りが特徴です。言葉でうまく説明できないような香りですが、気になる方はネット通販で手に入れることもできると思います。
ちなみに、香港のスーパーでよく見かけるスパイスソルトミックス「鹽焗雞粉(イムゴックガイファン)」には、必ずこの「沙薑(サー・ギョン)」の粉がブレンドされています。
これを鶏肉にまぶして、フライパンやグリルで焼くだけで「鹽焗沙薑雞(イムゴックサーギョンガイ)」が簡単に作れます。日本でいう「から揚げ粉」のような感覚で使えばいいのです。香港に住んでいる方や旅行に行かれる方には、ちょっと変わったお土産としてもおすすめです。
ちなみに「鹽焗雞」(イムゴックガイ)という料理名は、香港ではごく一般的です。「鹽」(イム)は塩、「焗」(ゴック)はベイク(焼く)という意味で、伝統的には塩釜で鶏を焼く調理法を指します。
わたしが子どもの頃に家で食べていた「鹽焗雞」(イムゴックガイ)には「沙薑(サー・ギョン)」は入っていませんでした。だからこそ、「沙薑(サー・ギョン)」入りのものを区別する意味で、わたしは「鹽焗沙薑雞(イムゴックサーギョンガイ)」と呼びたいのです。
見たことのないスパイスや、香りの未知なるものには誰しも最初は抵抗があるかもしれません。でも、それこそが万博の体験と同じだと思うのです。見たことのないもの、体験したことのないもの、食べたことのないもの──それに飛び込んでみることで、世界は確実に広がっていきます。
Tips:ネットで購入した乾燥「沙薑(サー・ギョン)」は、ミルで砕いて粉末にしてお使いください。スパイスの香りは加熱により飛びやすいので、仕上げのタイミングでさらにかけたらより「沙薑(サー・ギョン)」の香りがします。
材料(2人分)
【肉の下味】※最短15分漬け混む
鶏のモモ肉 … 250g(約1枚)
沙薑粉 … 小さじ1½
にんにくの粉… 小さじ½
麹粉 … 小さじ1
砂糖 … 小さじ½
塩 … 小さじ1
サラダ油 … 小さじ1
【薬味】
紫玉ねぎ … ¼個(一口大に乱切り)
生姜 … 20g(皮付き軽く潰して乱切り)
青ネギ … ¼把(短冊切り)
ピーマン … 1個(短冊切り)
にんにく … 2かけ(皮なし、つぶして)
沙薑粉 … 小さじ1
【仕上げ調味料】
醤油 … 小さじ1
ナンプラー … 小さじ1
紹興酒 … 大さじ1
胡椒 … 少々
沙薑粉 … 小さじ1
作り方
1.鶏モモ肉を唐揚げ用サイズに切りボウルに入れ、沙薑粉・麹粉・砂糖・塩・サラダ油をまぶしてよく揉み込む。ラップして冷蔵庫で15分以上置く(できれば30分以上冷蔵庫で一晩がおすすめ)。
2.油をひいたフライパンに下味をつけた鶏肉を皮目から入れ、両面をキツネ色まで焼く。鶏肉に火が通ったら、いったん取り出す。
3.土鍋を熱し、分量外のサラダ油を入れ、紫玉ねぎ・生姜・青ネギ・にんにく・沙薑粉を加えて香りが立つまで炒める。
4.鶏肉とピーマンを土鍋に戻して、醤油・ナンプラー・紹興酒・胡椒をまわしかけて、香りが立つまで手早く炒める。最後に沙薑粉をかけて、かき回したら完成です。
雲姐(ワンジェ)
料理研究家。香港に生まれる。幼少期、平日は祖母、週末は料理が趣味だった父の手料理を食べて過ごす。オーストラリアへ移住を経て、結婚を機に日本へ移り20年以上。中国国際薬膳師、発酵食品ソムリエ、発酵ライフアドバイザーの資格を持ち、中華圏および日本の食文化への造詣も深い。現在は、日本の人々に香港料理を伝えるべく東京で活動中。
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