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2025/11/20

 

聞き手:紅磡リンダ
編集:野津山美久


〈目次〉

〈音楽愛を培った日本、そしてNYへ〉
〈香港のジャムセッションが教えてくれたもの〉
〈ドラムジャムへようこそ!〉
〈増永さんに3つの質問〉


〈音楽愛を培った日本、そしてNYへ〉

ドラムサークルをご存じだろうか。参加者が輪(サークル)になり、ファシリテーターと呼ばれるサポート役のリードに従って打楽器を即興で演奏するセッションのことだ。演奏を通じて、ストレスが和らぎ、心がほぐれる感覚を得られると同時に、それまで他人同士だった参加者の間に繋がりが生まれる。近年、企業研修や地域コミュニティー活性プロジェクト、教育現場などで広く活用されるようになってきている活動だ。今回ご紹介する増永さんは、このドラムサークルのファシリテーター。 彼女が主催するドラムサークルの動画では、入場時に堅い顔をしていた参加者が増永さんの指示でドラムを叩き始めると、あれよという間に笑顔になり、最後には踊り出してしまうといった様子がよく見られる。確かに、スリムでシャキッと背筋が伸びた増永さんはハッピーなオーラをまとっている。こんなファシリテーターなら、参加者の気持ちのしこりをほどいていけそうだ。

増永さんは小さい頃に両親が離婚。父親に引き取られた。父は厳しく恐い一面もあったが、音楽を習う環境は整えてくれ、3歳から習い始めたピアノは17歳まで続けた。しかし、彼女の音楽への情熱を芽生えさせてくれたのは、小学校時代の音楽の先生だった。「ごく普通の公立小学校でしたが、生徒のために、自腹で楽器を買うような先生だったんですよ!」と言う増永さん。先生は自らもジャズやロックのバンドをやっており、生徒たちにもこれらの音楽に触れさせた。

「小学校の音楽の全国コンクールに出場したんですが、他校の生徒たちが軒並みクラシックを演奏する中、わたしたちが演奏したのはジャズ。子ども心に『どうだ、カッコいいでしょ?』って鼻高々でした(笑)」

増永さんが最初にドラムのビートを習ったのもこの先生から。音楽への愛と情熱もたっぷり受け取った。

高校卒業後に就職。そこで増永さんが経験したのは、男性中心の昭和の会社システムだった。日本の男性社会の中で思うように力を発揮できず、鬱屈した日々を過ごしていた。同時に恋人との別れ、さらに予期しなかった父の突然の死が重なった。気持ちが沈んでいたそんなとき、ニューヨークに移住した知り合いが留守中のハウスキーパーを探していると聞き、変化を渇望していた増永さんは飛びついた。ニューヨークでは毎晩のように街へ出て刺激を浴びて過ごした。新進気鋭のアーティストやミュージシャンたちと交流を重ね、街の活気に身を委ねた。日本で押し付けられた「女性だから」という価値観も、「外国人だから」という差別もここでは無縁。音楽さえできれば「Kumi、こっちへおいでよ、一緒にプレイしよう」と行く先々で声がかかった。「音楽って境目がないんだ」と、自由なマインドが心に刻まれた。

〈香港のジャムセッションが教えてくれたもの〉

日本に帰国すると、母代わりとして増永さんと弟の面倒をみてくれていた祖母が体調を崩した。介護施設に、という周囲の提案をよそに、彼女は自らの手による自宅介護を選択した。

「2年近くにわたる介護生活で、生きる意味を考え、幸せとは何かを考えたとき、与えられた時間を大切に使わなくてはと悟りました」

祖母の光(みつ)さんと共に。

その後、祖母は専門ケアの必要性が高まったため増永さんの手を離れ長期入院を余儀なくされた。 そんな時、アメリカ人の彫刻家であるボーイフレンドが香港で個展を開くことになった。新たな挑戦をするタイミングだと感じた増永さんは、香港に居を構えることを決断。その後18年に渡って住むことになるのがラマ島だった。時は1980年代後半、この島はクリエイティブなマインドを持つ仲間が集まる自由な場所だった。増永さんは仲間の1人が作った大テント「ティピー」を舞台に、自然発生的に音楽ジャム・セッションを行うようになった。「楽譜に頼らず自由に演奏し、誰もが気軽に音を楽しめるような場だったんです」。ここで何年も仲間たちとドラムを叩き続ける生活を送るうちに、増永さんはそのリズムが音楽以上の力を持つことに気づき始めた。

「叩いている人が、涙を流したり、仲間との絆を強めたり……。音楽以外の心理的効果があるぞって思い始めたんです」

いつしか彼女にとってドラムは「セルフケア」や「仲間との共感を生む手段」という、音楽を超えた意味を持ち始めた。

 

〈ドラムジャムへようこそ!〉

そして増永さんはアフリカンドラムへの理解を深めるべく、何度もドラムの発祥の地であるアフリカを訪れた。困窮と言っていいほどの経済状況なのに、楽しそうな人々が印象的だった。マンゴーの木に自然と人が集まり、誰からともなく音楽が始まり、それが次第に大きな合奏となるーーそんな音楽の楽しみ方に精神的に豊かなライフスタイルが体現されていた。人と人が強くむすばれ、 よそ者の増永さんですら、寂しい思いとは無縁だった。

「それに比べて日本や香港では孤独死、自殺、引きこもりなどが蔓延しています。人との結びつきが必要だと感じました。わたしはドラムを使って心の扉を開き、コミュニティーや他者との結びつきを促進すれば、こういった問題の解決につながると考えました 」

増永さんはドラムサークルの第一人者アーサー・ハル氏に師事し、ドラムを通じて社会の問題に取り組むことにした。

「打楽器でも、大きいドラム、小さいカスタネット、どちらかが秀でている訳ではありません。お互いが一緒に、それぞれのいい所を引き出すことが大事。皆が違ってそれでいい、皆が違ってそれでもまとまる。そんなことをドラムのセッションを通じて感じてもらいたい。来る人みんなに幸せになって欲しいんです」

増永さんはそんな思いで、今日もドラムと向き合っている。

 


〈増永さんに3つの質問〉

Q1 「どこでもドア」がありますが、故障していてヨーロッパにしか行かれないとしたら、どこに行きますか?

そうですね。ヨーロッパにも、さまざまな理由で自国を追われた難民がたくさん集まっていると聞きます。苦しい体験をした難民の集まるキャンプに行って、そこの人たちを笑顔にしたいですね。

 

Q2 香港で好きな食べ物は何ですか?

正確に言うと香港の物ではないんですが、とってもおすすめしたいので……。銅鑼湾などにある「鼎泰豊」(ディン・タイ・フォン)の小籠包です 。このお店があるエリアで仕事の時は「鼎泰豊」の小籠包を食べるのが楽しみなんです。

 

Q3 香港に遊びに来る日本の方たちに、おすすめの場所はありますか。

いま住んでいるランタオ島ですね。香港には多くの離島がありますが、その中で一番大きな島がランタオ島です。大仏があって、ディズニーランドがあって、空港もあるんですが、わたしが住む場所は山を臨み、滝がある村です。野性の水牛がいる平和な場所なんです。香港にいらっしゃる方にはこのように、一般的にあまり知られていないところを訪れていただけたらなと思います。

 


増永さんがファシリテーターを務める、ドラムジャムセッションが11月25日に開催されます。体験してみたい方は以下Webサイトより詳細をご覧ください。

【Community Drum Jam @Fringe Club】
開催日時:11月25日8:00pm
場所:Fringe Club, 2 Lower Albert Rd, Central, Hong Kong
詳細:https://www.drum-jam.com/event-details/community-drum-jam-9

 

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