2023/05/12

アフタヌーン・ティー:イギリス発祥の喫茶習慣で、午後4-5時頃に紅茶と共に軽食や菓子を喫食する茶会である(Wikipedia「アフタヌーン・ティー」の項より)。

麥生記冰室のアフタヌーンティー

「ヌン活」なる言葉がメディアを賑わせてから早数年、ホテルのアフタヌーンティーは、日々の疲れを癒すプチ贅沢としてすっかりお馴染みの存在になっていますよね。ここ香港はかつて英領であった歴史的背景もあり、あちこちのホテルが魅力的なアフタヌーンティーを提供しています。

わたしも先日、機会があってホテルでのアフタヌーンティーに興じてみましたが、瀟洒なインテリアとゆったりとしたソファはそこに居るだけで幸せになれるし、所作も優雅なスタッフにサーブされる食器は家に持ち帰りたくなるようなかわいさだし、思わず興奮してしまいました。そして食器の上に広がるのは、手に取るだけで心躍るセイボリーに、ちいさくてかわいいだけじゃない、口の中で夢と甘さが広がる魅惑のスイーツたち。気が済むまでお茶を楽しめるあの空間は、思い返しただけでも夢ごごちで、また行きたい気持ちが溢れてきます。

ホテルでのアフタヌーンティー

翻って、茶餐廳。

雑然とした店内に所狭しと並ぶテーブルと椅子、大人二人が座ったらギッチギチになりそうなゆとりのないボックス席、まるで怒っているかのような怒涛の勢いで人数やオーダーを尋ねられ、ガチャガチャ! ドン! とテーブルに並べられる食べ物たち。使い込まれた食器は欠けている箇所が目につき、ちいさくてかわいいどころか、ボリューム満点すぎる大きくて頼もしいメシ! 麺! マカロニ!
食後の優雅なおしゃべりタイムなど夢のまた夢、最後の一口を食べ終えた瞬間にテーブルの上の食器を片付けられ、さあ出ていけと言わんばかりの茶餐廳タイム。そう、茶餐廳とホテルのアフタヌーンティーは見事に真逆の存在だとわたしは思うのです。

雑然とした茶餐廳

しかしそんな香港の茶餐廳でも、正真正銘の「アフタヌーンティー」を楽しめるお店があります! え? 午後の隙間時間帯にちょっとお得な価格で提供される「下午茶餐(ティータイムセット)」のことをホテルのアフタヌーンティーと同一視しているんじゃないかって?
いやいや、茶餐廳愛好家のわたしでも、さすがにその分別はついていますよ!

麥生記冰室

のんびりとした雰囲気が魅力な街、ランタオ島・梅窩(Mui Wo)にある1954年創業の茶餐廳が「麥生記冰室」。老舗らしい味わい深さが店のあちこちから感じられるものの、一見するとただの茶餐廳です。しかしこのお店こそが、世にも奇妙な「アフタヌーンティーを提供する茶餐廳」。壁に目を遣ると「港女3層架下午茶」の文字が飛び込んできます。

『港女3層架下午茶』メニュー(最近はHK$148に値上がりしたようです)

港女3層架下午茶、「香港レディのための三段ティースタンドアフタヌーンティー」とでも訳したら良いのでしょうか。メニューを読み解いていくと、ティースタンド一番上の第3層はスペシャルデザート(特式甜品)、一番下の第1層はシグネチャークラブハウスサンドイッチ(皇牌公司三文治)。そして真ん中、第2層はエビフライ(炸蝦餅)、春巻、カレーサモサ(咖喱角)にフライドポテト(薯條)・・・? セイボリー比率が高めなだけでなく、なんだか揚げ物が多すぎる気がしますが、とりあえず頼んでみましょう。しばらく経つとやってくるあれこれ載ったティースタンドは、紛れもなくアフタヌーンティーです!

「港女3層架下午茶」の実物

お飲み物はティーポットでは出て来ませんが、その代わり好きなドリンクを3杯まで飲めます。そう、港式奶茶(香港式ミルクティー)や、輪切りのレモンたっぷりの熱檸茶をお供にできるのです!ティースタンドの3分の2が揚げ物たちと、厚さバッチリなサンドイッチに支配されたアフタヌーンティーですもの、お飲み物にもパンチを効かせなければ、この戦いには勝利できません! あれ、アフタヌーンティーってそんな気合が必要なものでしたっけ・・・?

ボリューム満点の『港女3層架下午茶』

友人とのおしゃべりに花を咲かせつつ食べ進めていくと、あっという間にサンドイッチが、フライドポテトが、そして最上段のゼリーやプリンたちがお腹の中に消え、満腹で幸せな気持ちと、茶餐廳なのになぜか優雅な時間を過ごしたような気分とが心の中にあふれていきます。

食べ終わるころには満腹間違いなし、ゼリーの瓶もにっこり!

おそらく麥生記冰室でしか楽しむことができない貴重な「茶餐廳のアフタヌーンティー」ですが、なんとこのお店、夕方4時過ぎにはもう店じまいを迎えてしまいます。アフタヌーンティーがスタートするのは午後2時半からなので、オーダーできるのは1時間少々のわずかな時間のみ。ホテルの人気アフタヌーンティーを予約するのと同じくらい強い気持ちで臨んでください!

アフタヌーンティーという意外すぎる楽しみ方が、意外な場所で出来てしまう、これも自由な発想が魅力的な、香港の茶餐廳の良さなのかもしれません。ホテルのアフタヌーンティーには敵わないけれど、ほんの少しだけ優雅な気分を味わいに、世界中探しても香港にしか無さそうな「茶餐廳のアフタヌーンティー」を楽しんでみませんか?


akiramujina

九龍を拠点に「茶餐廳愛好家」を勝手に名乗り、ほぼ毎日茶餐廳や冰室に足を運んでいる在港日本人。
趣味は旅行と茶餐廳めぐり。コロナ禍で旅行ができない今は年100店以上の茶餐廳訪問と、年300杯以上の港式奶茶を目標にしています。
どこへでも行くフットワークの軽さが自慢ですが、どこででも食べてばかりいるせいで自身の重さが悩み。
TwitterとInstagramでも食べ物の話ばかりしています。

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