2026/05/20
Instagram: femina_jewellery
聞き手:紅磡リンダ
編集:野津山美久
〈目次〉
〈『歯科医に』と言われ続けた少女時代〉
〈美食に導かれ、香港へ〉
〈人生の舵をしなやかに〉
〈うらべさんに3つの質問〉
〈『歯科医に』と言われ続けた少女時代〉
香港のセントラル(中環)にあるPMQ(元創方)。この場所は元々1889年に創設された、孫文を始め香港の歴史に名を刻む偉人を多く輩出した学校だった。その後警察官舎となり、現在はアート感漂うショップやギャラリーなどが軒を連ねる複合施設となっている。
そんなPMQに「FEMINA」と呼ばれるジュエリーショップがある。オーナー兼デザイナー、さらにクリエイターでもあるうらべちえこさんは、香港に居を移して30年。彼女の作品は、貴石が主役でありながら、「飾り立てる」というより持ち主の個性に寄り添ってちょっと輝きを足してくれる、そんな印象のジュエリーだ。大量生産では決して味わえない、デザイナーの体温が宿るこれらのハンドメイドジュエリーは香港人、西洋の方を問わず人気を博している。
FEMINAは大きな窓から光が差し込む透明感ある、凛とした空間だ
うらべさんは京都の歯科医の家に生まれた。母親に「物心つく前から」と呆れ半分に言われるほど幼いころから絵を描くことが大好きで、落書きで埋め尽くされたスケッチブックが自宅にどっさり保管されていたというが、彼女自身はアートを職業の選択肢に入れたことはなかった。
「小さい頃から『将来は歯医者に』と言われ続けて、洗脳されていたんでしょうね。現実路線を進みました」
難関の試験や研究、実習など大変なことも多かったが、うらべさんは歯科医師資格を取得し、最終的には博士号までたどり着いた。
〈美食に導かれ、香港へ〉
歯科医という線路にはのったものの、うらべさんは実はひそかに、地元を離れたいという思いを持っていた。良くも悪くも人間関係が濃厚な土地柄が、少し窮屈に思えたのだ。初対面の人が自分の名前はおろか家庭の状況も知っている。そんな環境の中で、いつしか海外に出ることに魅力を感じるようになっていた。
「日本を離れた後も、自宅から離れた初めて訪れる場所で店員さんから『いゃぁ、香港から帰って来はったの?』って声をかけられて。驚きました」
うらべさんはそう振り返る。
ロータリークラブのニューヨークへの奨学金を得たこともあった。しかしふと「ご飯がおいしくないと、長期の滞在は難しいかも」と思い直し、最終的にこの奨学金をキャンセル。かつて訪れ、おいしいものをたらふく食べてその食文化に魅了された香港に、私費で渡ることを決断した。
まだ英国統治下だったこの土地は、中国でも西洋でもない中間地帯。一事が万事、「ひとつの正解」に縛られない解放感があった。外国人であることで、「こうあるべき」という周囲の目に縛られない。うらべさんは、生まれて初めて自分の思い通りに、自由に振る舞うことができる気がした。
うらべさんの作品。「繊細だけど存在感のあるデザインで、個性的。目にするたびに気持ちが上がります」とは愛用者の弁。
それでも当初は、香港で歯科医として開業しようと考えていた。ところが調べてみると日本の資格ではどうやっても開業が叶わぬことが分かり、断念。しかし縁あってそのまま香港に居住することとなった。
やがて家族を持ち、日々を過ごす中で、うらべさんは創作活動に没頭するようになる。
「わたし、モノづくりが好きで好きで……手が勝手に動いてどんどん作ってしまうんです。創作の過程そのものが、自分にとって癒しになっているのだと思います」
ジュエリー制作も、創作の一つとして始めたもので、それはきっかけも思い出せないぐらい自然なことだった。完成したジュエリー作品は友人にプレゼントしていたが、そのクオリティーの高さから「売ってみたら?」という声が上った。そこで知り合いの店先を間借りして作品を展示販売したところ、予想以上に買い手がついた。その後、たまたま同じ敷地内に空き店舗が出たため、彼女は出店を決意したのだ。
白を基調にした店内に、様々な表情を持つ貴石が映える。
〈人生の舵をしなやかに〉
うらべさんは、どこまでも自然体だ。これまでどんな努力を重ねたのかを尋ねても「ただ好きなものを作っているだけなのです」という言葉が返ってくる。それは彼女自身が、自分の歩みを「努力」とは捉えていないからなのだろう。けれど、傍から見ればその献身ぶりは凄まじい。没頭するあまり腰を痛め、再発を繰り返してなお、手を動かし続ける。ショップ経営に関しても、決して平坦ではない。万引き被害とも無縁ではないし、裁判になるほどのトラブルに巻き込まれたことさえある。でも、それですら彼女は「そういうこともありますよね」と穏やかに微笑み、淡々と乗り越えてきた。
天然石ジェイド(翡翠)は美しいだけでなく、パワーストーンしても知られている。
なぜ、これほどまでにしなやかに前進し続けられるのか。彼女はこれまでの道のりで、それが学問であれ、ジュエリーの制作であれ、ただ目の前の対象に誠実に向き合い、より高い完成度を突き詰めることのみに全神経を注いできた。
自分に嘘をつかない仕事をすること。その一点においてのみ厳しく、それ以外のことにはとらわれず、どこまでも自由。そんな彼女が自由の街、香港で水を得た魚のように活躍しているのは偶然ではないのだろう。
FEMINAの「社長」は、こちらのアンアンちゃん。お客さまを丁寧に迎えてくれる。
指先から生まれるジュエリーに全神経を傾ける。お店を訪れる人は、そんなうらべさんの静かな情熱をジュエリーから感じ取り、ファンになるのかもしれない。彼女は今日も、この香港の街でしなやかに、そして楽しそうに、世界でただ一つのジュエリーを紡いでいる。
〈うらべさんに3つの質問〉
Q1 過去にハマった趣味はありますか。
少女漫画に一時熱中していたことがありました。1本だけですが、自分で描いたこともあります。萩尾望都さん、木原敏江さんとか、懐かしいですね。
Q2 ショップにはアクセサリーの他に、ジェムストーンアートと呼ばれる、かわいらしいアート作品がありますね。中には心に響くメッセージが付いたものもあります。こういった言葉はどこからやってくるのですか?
メッセージはアートを制作しながら、自然に頭に浮かんできた言葉なんです。これまでわたしがどこかで見聞きして、メモリーのどこかに蓄積されたものが制作過程に刺激されてポロリと出てくる、制作物に呼ばれて出てくる、そんな気がします。
Q3 一番のお勧めジュエリーはどれでしょう?
FEMINAは開店1周年を迎え、記念ジュエリーボックスを発表したところです。ベースとなるピアスに、表情豊かなパーツを組み合わせるセットです。ベース単体で日常使いができるのはもちろん、パーツを重ねることで、カジュアルからゴージャスまで幾通りものスタイルを叶えられます。
人工ダイヤモンドのフープピアスに、淡水真珠やシェルパール、天然石のチャーム3種を添えた贅沢なセットは、かわいいだけでなく陰陽五行の思想を取り入れています。ご自身の気になる悩みに寄り添ってくれる、お守りのようにもお使いいただけます。
ワンセットHK$1,100、日本への発送も可。今回、Hong Kong LEIの読者にはHK$250相当のギフトあり。詳細はお店にお問い合わせください。
Hong Kong LEI (ホンコン・レイ) は、香港の生活をもっと楽しくする女性や家族向けライフスタイルマガジンです。
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