2026/06/05
“The Hong Kong Jockey Club Series: The Forbidden City and the World—Cultural Encounters” thematic exhibition© Hong Kong Palace Museum
香港故宮文化博物館で始まった特別展「紫禁城と世界――中外文化交流の相互光彩(The Forbidden City and the World-Cultural Encounters)」は、北京の故宮博物院、香港故宮文化博物館、そしてカタール・ドーハのイスラム美術館という、3つのミュージアムがコラボレーションを果たした展覧会です。北京から貸し出された18点の「国家一級文物(最高ランクの国宝)」をはじめ、香港屈指のコレクターであるクリス・ホール氏のコレクションなどから厳選された130点以上の至宝が一堂に会します。
“The Forbidden City and the World: Cultural Encounters”, a video produced in collaboration with the Design and Cultural Studies Workshop led by Mr Chiu Kwong‑chiu, uses animation to illustrate how the Forbidden City was shaped by its encounters with the world. © Hong Kong Palace Museum
しかし、この展覧会が本当に面白いのは、貴重な宝物だけではなく、わたしたちが歴史の教科書で習った「堅苦しく、近寄りがたい中国の皇帝たち」のイメージが180度覆る、彼らの驚くべき“西欧マニア”っぷりや、知られざる国際感覚が見えてくるのです。そこで今回は展示会がより楽しめる見どころを大きく3つご紹介しましょう!
見どころ①:教科書に載っていない皇帝たちの素顔。「数学オタク」に「西洋コスプレ」!?
本展の大きなハイライトとなるのが、清朝の最盛期を築いた皇帝たちのプライベートな情熱や知的好奇心に焦点を当てた、第3セクション「東と西の出会い――清代の芸術と科学の交流」です。
The interactive “What Did the Kangxi Emperor Study?” shows how knowledge from Europe was selectively received, studied, and integrated into the Qing court in the Kangxi period, offering insight into the processes that underpin Sino‑European intellectual exchange. © Hong Kong Palace Museum
1)幾何学を愛しすぎた「康熙帝」
名君として名高く、文武に天才的な才能を発揮したと言われる清朝の第4代皇帝、康熙帝(こうきてい)ですが、実は宮廷の誰よりも熱心な「数学・科学オタク」でした。彼はヨーロッパからやってきた宣教師たちを熱心に宮廷へ招き、自らの家庭教師に任命。わずか数ヶ月でユークリッド幾何学をマスターし、なんと自分自身で数学に関するエッセイまで執筆したという逸話が残っています。会場には、彼が勉強のためにわざわざ作らせた、分解可能な「紫檀(したん)製の幾何学多面体模型」が展示されています。皇帝自らが手で触れ、世界の最先端科学を学んでいた熱気が、数百年の時を超えて伝わってくるようです。
Geometric polyhedron model Imperial Workshops Qing dynasty, Kangxi period (1662–1722) Zitan wood.©The Palace Museum
2)ヨーロッパのウィッグで仮装!?「雍正帝」の秘密の趣味
中国の歴史の中でも「最も勤勉な皇帝」として有名で、真面目で一日中仕事をしていたイメージのある清朝の第5代皇帝、雍正帝(ようせいてい)ですが、実は超モダンでユニークな感性の持ち主でした。展示される『胤禛行楽図(Fighting tiger from Yinzhen’s Amusements)』という絵画には、なんと「西洋風の衣服をまとい、イギリスの貴族のような巻き髪のウィッグ(カツラ)を被って、三叉の矛で虎を退治する」という、今でいうコスプレをした彼の姿がリアルに描かれているのです。当時の西欧のトレンドをいち早く取り入れ、自らを異国の英雄に見立てて画家に描かせた皇帝の遊び心は、現代のSNS世代にも通じるものがあります。
見どころ②:元・明・清の3王朝、600年にわたる「世界のトレンド」をたどる4つの旅
展覧会は、元(1271–1368)、明(1368–1644)、清(1644–1911)の3つの王朝にまたがる600年以上の歴史を、 diplomacy(外交)、trade(貿易)、science and technology(科学技術)、philosophy(思想)、craftsmanship(職人技)という多角的なテーマで編み込んでいます。会場は4つのセクションに分かれており、一歩進むごとにドラマチックな異文化交流の歴史が紐解かれます。
“The Hong Kong Jockey Club Series: The Forbidden City and the World—Cultural Encounters” thematic exhibition© Hong Kong Palace Museum
シルクロードの陸路や、大航海時代の海路を通じて、中国がどのように世界と繋がっていったかをダイナミックに描きます。明代の伝説的な外交官・鄭和(ていわ)が、東南アジアからアフリカ東海岸にいたるまで、同盟の証として携えた貴重な「金銀糸織りのテキスタイル」などが展示されます。また、元代末期から明代初期に作られた、イスラムの詩(クアラーン)が刻まれた美しい「モスクのランプ」など、中東と中国の深い結びつきを示す最古級の作品も登場します。
Mosque lamp with a verse from Qur’an Mamluk dynasty (1250–1517) Glass with polychrome enamels and gilding© Hong Kong Palace Museum
第2セクション:「輸入された至宝―明代の宮廷芸術と世界の新しい知識」
東南アジアや南アジアから中国へともたらされた珍しい交易品が、中国の宮廷芸術に与えた影響を探ります。ミャンマー産の貴重な極上翡翠を丸ごと一本削り出して作られた国家一級文物のきらびやかなサファイアのペンダントはため息ものの美しさ。また、乾隆帝(けんりゅうてい)が世界の珍しい生き物を記録させた壮大な博物図鑑『鳥譜(Album of Birds)』からは、当時シャム(現在のタイ)から宮廷に献上された美しいカワセミの絵画が公開されます。
Copy of Jiang Tingxi’s Album of Birds © The Palace Museum
第3セクション:「東と西の出会い―清代の芸術と科学の交流」
前述の康熙帝の数学モデルや雍正帝の仮装絵画に加え、当時の中国人がヨーロッパ人をどのように見ていたかがわかる「洋人(西洋商人や使節)が描かれた宮廷のベッド(羅漢床)」などが展示され、東西の職人技を目撃できます。
第4セクション:「皇帝の南の宝庫―広東税関(カントン・カスタムズ)と世界」
1757年、清朝は広州(広東)の税関「十三行(じゅうさんこう)」を実質的に唯一の海外貿易港として、外洋交易の窓口を制限しました。ここからヨーロッパへと輸出された「中国茶」は、イギリスやフランスで爆発的なティータイム文化を生み出します。逆に西洋からは、小鳥が飛び出して美しくさえずる「歌う鳥籠のからくり(オートマタ)」や、皇帝たちを驚かせた「調節機能付きの近視眼鏡」などの最先端ガジェットが宮廷へともたらされました。また、展示されている日本で作られたアイリス装飾のケトルなども、西洋の銀器のデザインを意識したもので、グローバルな美の循環を感じさせます。
見どころ③:何度来ても新しい!「3ヶ月ごとの展示替え」と「五感で楽しむマルチメディア」
本展は、なんと3ヶ月ごとに大幅な展示替えが行われます。常に合計約80点の至宝がギャラリーに並びますが、テキスタイルや絵画など、光に弱い繊細な国宝級の文化財は、最初の3ヶ月間しか見られません。シーズンごとに足を運ぶリピーターにとっても、常に新鮮な驚きがある仕様です。
“The Hong Kong Jockey Club Series: The Forbidden City and the World—Cultural Encounters” thematic exhibition© Hong Kong Palace Museum
さらに、会場のデザインや最新のデジタル演出も秀逸です。
空間のカラー演出: 前半の紫禁城の厳かな宮廷をイメージした「赤」の空間から、後半の広州の活気ある海上貿易をイメージした「青」の空間へと、歩くにつれて色彩がドラマチックに変化します。
デジタル「乾隆庭園」: 西洋の直線透視図法(遠近法)を取り入れた当時の宮廷壁画をデジタルで再現。世界中から集まった珍しい動物たちが生き生きと動き出す、幻想的な庭園を散策できます。
18世紀の商人体験ゲーム: 広州の「十三行」での、サンプルの検査、価格交渉、お茶の計量や梱包などの一連のプロセスをアニメーションで再現。来場者は当時のヨーロッパ商人になりきって、お茶の貿易ビジネスを疑似体験できます。
美しいビクトリアハーバーのパノラマ夜景が広がる西九龍エリア。今週末は、心地よい海風を感じながら香港故宮文化博物館へ足を運び、かつて世界の最先端トレンドを追い求めた皇帝たちの、きらびやかで刺激的な「推し活」の世界を覗きに行ってみてはいかがでしょうか?
“The Hong Kong Jockey Club Series: The Forbidden City and the World—Cultural Encounters” thematic exhibition© Hong Kong Palace Museum
紫禁城と世界――中外文化交流の相互光彩
The Forbidden City and the World-Cultural Encounters
香港故宮文化博物館 ギャラリー1
観覧料(一般入場券): 大人 HK$70 / 特典対象者(7〜11歳、フルタイム学生、60歳以上のシニア、障がい者、CSSA受給者) HK$35 / 6歳以下の子供は入場無料 (こちらのチケットでギャラリー1から7まで観覧できます)
より深く物語を知りたい人のために、広東語・英語・北京語に対応した「20トラックにおよぶ特別拡張オーディオガイド」も用意されています。
© Hong Kong Palace Museum
Hong Kong LEI (ホンコン・レイ) は、香港の生活をもっと楽しくする女性や家族向けライフスタイルマガジンです。
Fighting tiger from Yinzhen’s Amusements Qing dynasty, Kangxi period (1662–1722) Album leaf, ink and colour on silk ©The Palace Museum
Luohan bed with figures “The Hong Kong Jockey Club Series: The Forbidden City and the World—Cultural Encounters” thematic exhibition© Hong Kong Palace Museum
The video “From the Forbidden City to the Hong Kong Palace Museum” chronicles the Palace Museum’s contributions to Sino-foreign cultural exchange over its centennial history, alongside the HKPM’s efforts to foster global cultural dislogue since its opening in 2022. © Hong Kong Palace Museum
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