2023/07/29

第2回のあらすじ

2年半ぶりに一時帰国した日から始まった両親の介護。役所の福祉課で紹介されたケアマネさんが、海外からの介護になることを理解してくれて、様々な手配を手際よくしてくれた。ケアマネさんと繋がったことで、日本での高齢者介護の手順や現状がわかってきた。


病院の付き添いでまさかの、、、

「海外に住んでいる娘が一時帰国している間にどうしても話がしたい!」

という要望を病院は聞き入れてくれ、父の呼吸器内科の担当医のアポ取りに成功しました。医師は症状を丁寧に説明してくださったあと、わたしだけに話をしたいということで、車椅子の父は待合室へ。

「単刀直入に申し上げます。お父様の余命は長くて半年です。ご本人は延命治療はしないと希望されています。」

突然の余命宣告に頭が真っ白になり、それが自分の身に現実に起こっていることだと理解するのに時間がかかりました。深呼吸をして、その場で不安に思っている質問をしてわかったのが、

・入院をしても治療法はないため点滴をするくらい

・治療できない患者は病床をあけるため、1か月後には緩和ケアの施設へ移ることになる

・コロナ禍なので入院をしたら面会はできない(2022年9月)

・会わせたい人がいるのなら1カ月内に会わせた方がいい

・今のうちに管理しているものについて聞いておいた方がいい

父は病気のことも、先が長くないことも知っていたのに、誰にも言わず一人で抱えていたのです。診察室を出て待合室にいる父の後ろに座ると、
「いい人生だったなあ」とどこかホッとしたように、つぶやきました。

falkonhk

在宅介護か入院か

人生の最終章をどこでどのように過ごすかは、本人の意思を尊重できるのが一番です。QOL(Quality of Life 生活の質)とQOD(Quality of Death  死の質)を考え、家族会議をしました。「治るのなら入院して治療に専念するけれど、治らないのだったら家で穏やかに過ごしたい」という父の願いを叶えるため、在宅介護をすることに決めました。ここで大事なのは、同居人が介護疲れしないようまわりのサポートを得ること。あとは、どのような状態になったら、在宅ではなく入院または施設に行くかなどを、本人が納得いくようにあらかじめ話し合っておくことだそうです。

 

在宅介護はチームワーク

在宅介護に決めたのはいいけれど、一体何をどうすればいいのかわかりません。ここでまたスーパーケアマネさんの出番です。
「心配しないでね、大丈夫よ。必要なことは手配しますからね」
とその日のうちに計画書を作成して持ってきてくれました。
介護保険を使って利用できるサービスの中から、訪問入浴介護と訪問看護を利用しました。訪問入浴では介護士さんが簡易浴槽をキッチンに運び、お風呂に入れてくれるのです。訪問看護は看護師さんが週に2~3回訪問してくれて、療養上のお世話をしてくれるだけでなく24時間訪問看護ステーションに電話できるサポートがあります。週1診察に来る訪問医師の「好きなものを食べたらいいんです。時間とか回数とか関係なく、食べたい時に食べたいものをね」というアドバイスで、父は大好物のショートケーキやプリンを毎日食べていました。
民間サービスで訪問散髪もお願いしました。身だしなみにこだわる父は髭が伸び放題というのが気になっていたらしく、さっぱりしてうれしそうでした。
実家の駐車場は車一台分のスペースしかないので、毎日のように訪れる訪問者の車は道に駐車してもらわないといけません。ご近所さんに事情を説明してご迷惑をおかけすることをお伝えしたところ、何かあったらいつでも声をかけてくださいねと快く理解してくれました。

 

遺産について話す

几帳面な父は金融関係、不動産関係、保険関係などの書類は全部まとめてありました。ログインパスワードなどネット関係の情報も一覧表にしてあり、わたしに全てを託してくれました。会いたい人や行きたいところはないかと聞くと、
「やりたいことはやって、行きたいところにも行ったからなあ。寿命だな」と宿命を受け入れているようでした。子どもたちにじいじへビデオレターを送ってもらったところ、それを穏やかに眺めて、孫と過ごした楽しかった日々を思い出しているようでした。
職場の理解があり数週間お休みをいただいて日本滞在を延長した間、香港にいる娘とは毎日チャットで学校であったことなどを聞きました。アマさんがいない我が家では夫が掃除、洗濯、買い物、食事の担当をし、娘がお弁当を持って、アイロンがかかった制服で登校できるようにしてくれました。香港でのサポートがなくては、日本の家族と貴重な時間を過ごすことはできなかったので、心から感謝しています。

 

以下はわたしがつらくなった時に読んだ本です。ご参考まで。

僧侶であり看護師でもある玉置妙憂さんの
『死にゆく人の心に寄り添う』
『逝く人を支える』
『最期の対話をするために』

日本TFT協会理事長であり心理士でもある森川綾女さんの
『つぼトントン』

 

今回の介護ポイント

★在宅介護のチーム作り
★遺産について話す
★ご近所さんに在宅介護をしていることを伝える
★職場、香港の家族の理解と協力は不可欠
★自分にとってストレスをためないコーピング方法(ストレスの基にうまく対処しようとすること)をみつける

 

次回は最期とお悔やみ窓口です。


りんみゆき
カノッサ病院日本人通訳/グリーフケアアドバイザー2級/メディカルアロマインストラクター

香港を含め30年以上の海外生活体験と語学力を生かし、香港では医療通訳としてカノッサ病院で活動する傍ら同病院の日本語ケアラインサービスという無料のお悩み相談窓口もチームの1人として担当している。趣味はマラソン。著書に「海外のいろんなマラソン走ってみた!」(2019年5月、彩図社)がある。

どんな小さなことでも1人で悩まずにご相談ください。
無料日本語ケアラインサービス
電話:2825-5849 (月9:00-13:00、水13:00-16:00、土10:00-12:00)
カノッサ病院への日本語によるお問い合わせ
https://www.canossahospital.org.hk/ja/

IG:canossahospitalhk_jp

 

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