2026/09/26

日本で昨年から開催されているAI Film Festival Japan(AIFJ :AI日本国際映画祭)。今年で2回目を迎える映画祭の全貌をお届けしています。
目次
AI Film Festival Japan(AIFJ)とは
AI日本国際映画祭創設者、栗本一紀氏に聞く
香港出身のクリエーター、ケニックス・マ氏にAI映画製作について聞く
今回は香港出身のケニックス・マ(Kennex Ma) 氏に、彼の経歴や製作方法、AI日本国際映画祭への思いなど興味深いお話を伺いました。これを読めば自分もできそうと思ってもらえるほどの深い内容です。
彼は元々はテレビや広告業界で脚本家としても活躍しているベテランです。今回独学で製作した『What is Real』(何が本物?)というアニメーションが、2026年春『AI Film Festival Japan(AIFJ)× LOOP 2126』のグランプリを受賞しています。
https://www.kennexma.com/
授賞式にて 『AI Film Festival Japan(AIFJ)× LOOP 2126』のグランプリを受賞したケニックス氏(左)
この度はインタビューの機会をいただきありがとうございます。
まずはケニックスさんのご経歴や、AIによる映像表現へ足を踏み入れたきっかけについて教えていただけますか?
-わたしは香港で生まれ育ち、幼い頃から頭の中で物語を作るのが大好きでした。大学では社会科学を専攻しましたが、卒業後は脚本や広告コピーライターとして働き、19年にわたり広告業界に携わってきました。わたしにとって脚本も小説も、物語を伝えるためのメディアに過ぎません。そんな中、AIとの出会いはとても自然なものでした。最初はChatGPTを英語コピーの作成支援に使っていましたが、MidjourneyやSoraといった画期的なツールの登場で、広告制作のコストを大幅に削減できる可能性を直感したんです。従来の広告業界を捨てるような大げさな「転換」というよりは、1人のクリエイターとして自らの表現領域や副業の可能性を広げるための「新しい道の発見」でしたね。
-AIで自分が本当に語りたい物語を、初めて自由に語ることができる。-
2026年の『AI Film Festival Japan(AIFJ )× LOOP 2126』でのグランプリ受賞作『What is Real』も話題を呼びました。こちらの製作プロセスや作品に込めた想いをお聞かせください。
-AI製作の最大の魅力は、アイデアから直接映像を作り出し、試行錯誤できる圧倒的な柔軟性にあります。『What is Real』には従来のようなテキスト脚本がなく、頭の中のアイデアをもとに約2週間で一気に仕上げました。「100年後の世界で、何が本物なのか?」というテーマを掘り下げるため、AI恋人や精巧な偽物が溢れる未来で、人間同士の感情の「本物らしさ」を少女Aliceの視点から描きました。言葉が不要になった未来を想定してあえて台詞なしのアニメーションにすることにしました。
これまで脚本や広告の仕事をしてきた中で、わたしの創造性は基本的に会社、上司、あるいはクライアントに対して責任を負うものでした。しかし、このコンペティションでは、自分が本当に語りたい物語を初めて自由に語ることができ、その作品がこれほど高く評価され、心から感謝しています。受賞によって、AI映像作家として今後も成長していこうという自信も強まりました。
『What is Real』を形にするうえで、最も難しかったことは何ですか?また、創作に行き詰まったとき、どのように乗り越えますか?
-最大の課題は、AIが自分の求める映像を生成できないことがある点です。たとえば、テキストプロンプトだけではAliceの特定の動きを生成できない場合、AIが参照できるように写真を用意します。また、AI画像生成ツールは数多くあり、それぞれ異なる学習方法や計算方式を使っているようです。あるツールで求める映像を作れなくても、別のツールならできることがあります。
さらに、AIが生成した素材をそのまま使う必要もありません。ポストプロダクションでの編集やカラーグレーディングによって、狙った効果を実現できることもあり、ときにはそのほうがより細かくコントロールできます。
AI国際映画祭会場にてスクリーンに大きく映し出された作品『What is Real』の前で。
AI生成映画において、最も重要な要素は何だと考えますか?
-本当に1つだけ選ぶとすれば、最も重要なのは、観客が時間を使って見たいと思い、さらにはソーシャルメディアで共有したいと思えるようなテーマや作品を築けるかどうかです。わたしたちはソーシャルメディアの時代に生きており、実際、多くの成功したAI作品がソーシャルプラットフォームを通じて広まっています。現在、多くのAI作品は無料で見ることができます。それらが映画館や大手ストリーミングプラットフォームに登場したとき、観客が実際にお金を払って見る意思を持つかどうかが、映画スタジオの制作モデルに大きな影響を与えるでしょう。
-劇伴音楽部門の公式課題映像制作へのチャレンジ-
普段の実際の製作環境について教えてください。どのようなコンピューター、ツール、プラットフォームを使っていますか?AIの進化は早く、仕様を更新するのも大変そうです。
-わたしの制作環境に特別なものはありません。CapCutのような編集ソフトを快適に動かせるコンピューターがあれば十分です。わたしが生成するコンテンツの種類と量であれば、現時点ではComfyUIのようなツールをローカル環境で動かす必要はありません。映像素材のほぼすべてをオンラインプラットフォームで生成しているため、コンピューターに求められるスペックもそれほど高くありません。最もよく使うプラットフォームは、OpenArt.ai、Google Flow、Jimengです。
スキルを継続的に高め、更新する方法について言えば、学べることがあまりにも多いため、自分の仕事に最も関係するものを選ぶしかありません。AIクリエイターにとって最も重要な能力は、二つのレベルに分けられると思います。制作面では、画像生成AI、言語モデル、Sunoのような音楽ツール、ElevenLabsのような音声ツール、そしてCapCut、Photoshop、Blenderのように全面的にAIへ依存しないソフトウェアまで、さまざまなツールを統合する力が重要です。創作面では、既成概念にとらわれず、観客が本当に見たいと思う作品を作る力が必要です。
AI映画制作については、実際に自宅で1人ですべての作業を行っています。
ケニックス氏の公式課題映像『Un-silent』をご覧いただきたい方は画面をクリックしてください。
2026年の『AIFJ 』では劇伴音楽部門の公式課題映像『Un-silent』を制作されましたね。どんなものなのでしょうか?
-この新しい部門の素材を提供できたことを、大変光栄に思います。今回は参加者の皆さんにご自身の創造性を表現できる場を用意することがわたしのミッションだったため、とても興味深いプロジェクトでした。わたし自身も一人のクリエイターとして、表現の余白(クリエイティブな空間)がどれほど大切かを理解しています。そのため、最初から最後まで、世界中の作曲家ができる限り大きな自由度の中で、自由な発想からの音を重ねられるキャンバスを目指しました。
課題映像『Un-silent』では、「宇宙の静寂(無)」から「音の誕生(有)」への旅を描きました。つまり、「音がない」ことを意味する「Silent」から、「音がある」ことを意味する「Un-silent」への旅です。そのため、作品の冒頭に登場する空から降り注ぐ光や不思議な生き物たちには、創世記を思わせる雰囲気を少し持たせています。そしてラストでは、「無」から「有」へ移り変わるプロセスそのものが、いかに強いインパクトを与え得るか表現したいと考えました。もちろん、これらはあくまでわたし自身のアイデアに過ぎません。わたしの想像を遥かに超えるような、参加者の皆さんならではの解釈に出会えることを心から楽しみにしています。
- 現代は人類史上で最も映像製作への参入障壁が低い時代-
AIの登場によって、今後の映画製作や映像産業のあり方はどのように変わっていくとお考えですか?
- AI映画で最も大切なのは、豪華なレンダリング技術そのものよりも「観客が時間を割いてでも見たいと思い、人に共有したくなるテーマ性」です。AI技術は日々進化していて、カメラワークを正確に制御するためにBlenderなどの3Dソフトを組み合わせて使うなど、幅広いスキルの統合が求められます。ただ、この進化によって映像製作のハードルは激変しました。かつて数千万円規模の予算が必要だった数分のアニメーションも、今やパソコン1台と最小限のツール利用料、そして一人の情熱があれば自宅で作れてしまいます。今後は映画スタジオの大規模チームのあり方が変わり、少人数で複数のIPを同時に立ち上げる新しいスタイルの製作会社が主流になっていくでしょう。
最後に、これからAIで映像を作ってみたいと思っている初心者の方へ、メッセージをお願いします!
-これからはAIの表情や動き、髪のゆれ・衣服のなびきのような物理挙動がさらに自然になり、実写に近づいていくはずです。わたし自身も今後、YouTubeを中心に『What is Real』のAliceを主人公にしたSF探求の物語と、可愛らしいスタイルで描く「死後の世界」をテーマにしたアニメーションの2作品を始動させる予定です。これからAI映画を作り始める皆さんにお伝えしたいのは、現代は人類史上で最も映像製作への参入障壁が低い時代だということです。プロの作品と比べて気後れする必要はありません。OpenArt.aiのようなオールインワンプラットフォームを使い、自分のひらめきを信じてまずは1つの作品を形にしてみてください。AIが生活の一部となった今、表現したい物語があるなら、作らない理由はありませんよ!
AIが便利になるにつれ、かつて莫大な費用と時間を要した表現の壁はこれまでにないほど低くなり、これからアニメの制作現場も大きく変わっていくことが予想されます。けれど、私たちが本当に大切にすべきなのは、最新技術による綺麗な映像ばかりではなく、作品の奥にある「人間の琴線に触れるテーマ」なのだと改めて感じさせられました。
「伝えたいメッセージがあるけれど、今まで形にできなかった」、そんなすべての人に、いま大きな扉が開かれています。このインタビューが、あなた自身の創作の第一歩を照らすきっかけとなれば幸いです。(編集部)
第2回 AI Film Festival Japan: AI日本国際映画祭
会期:2026年10月31日(土)から11月2日(月)まで
会場:東京・丸の内の「Tokyo Innovation Base(TiB)」
第2回、作品出願締め切りは2026年9月30日
映画祭Webサイト:https://aifilm.jp/
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