2022/03/15

バブル期の日本から香港へ

バブル期の日本から香港へ世界最大級のアートフェアと言われ、香港で毎年開催される「アートバーゼル」。2021年の会場で、ドウダンツツジが飾られていて、その枝ぶりと静けさは、会場でも存在感を放っていた。これを手がけたのが黒田雅美さんだ。

まるで花屋かと勘違いするほど、花にあふれた自宅兼アトリエでは、社名になった3匹の猫たちが思い思いにくつろいでいる。この部屋の主であり、フリーランスのフローリストとして活躍するのが黒田さん。「30年前に香港へきて以来、新しいアレンジメント・色彩感覚で、香港の花業界に大きく貢献してきた。日本のさまざまな花を香港に広めた立役者でもある。

「学生時代はバレーボール一筋。体育大学を卒業後、スポーツトレーニングジムに勤めました。花屋って、何百本と仕入れた花を運んだり、水を入れた花器を動かしたりと体力のいる仕事なので、役に立ってるのかな」と黒田さんは笑う。

生け花を始めたのがきっかけで、花を仕事にしたいと生花店に転職したのが1980年代。当時はバブル期で「花ブーム」の時代。行列をなすお客の注文に応えながら、黒田さんは経験を積んでいったという。その頃香港では、大丸、伊勢丹、三越などの日系百貨店が次々と出店。1990年にオープンした西武百貨店内の生花店スタッフとして香港へ来たのが、すべての始まりだった。

「海外で花屋の仕事ができる機会なんて、めったに無いと思って手をあげたんです。ワクワクして香港へ来てみたら、手に入る花の種類は少ないし︑アレンジ方法も日本と違っていて、正直びっくりでした。広東語もわからないのにどうして来たの?なんてお客さんに言われたこともありましたね」

もちろん今では、問題なく顧客と花の相談ができるという黒田さん。彼女の才能を”開花“させたのが、2000年の「フランネルフラワーズ」への入社だった。

当時フランネルは、「香港初の高級スーパー」であるシティスーパー内にオープンして年目。そこで黒田さんは、マネージャーとして仕入れから接客、スタッフの育成、店舗のディスプレイなどを任され、のちに共同経営者となった。

「フランネルを立ち上げた日本人の友人が帰国したため、彼女が築いてきたものを壊さずに新しいものを、と必死の年間でした。独自に珍しい花や枝ものを日本から取り寄せたり、高品質の花をそろえることで、他店にはできない花の提案を心掛けていましたね」

ユーカリなどの葉ものを混ぜたナチュラルでセンスの良いアレンジメントは、当時の香港では最先端。花を買うならフランネルと言われるまでになり、黒田さんはインテリアショップやギャラリーの装飾も手掛けるようになった。

「ドウダンツツジや桜を日本から持ってきて飾ったのも、香港ではフランネルが最初なんです。わたしはアレンジメントに枝を合わせるのが好きなのですが、枝ぶりを楽しむという考え方も、香港でだいぶ定着してきましたね」

今では香港でも、さまざまな花を組み合わせたブーケやグリーンの多いアレンジメントを見かけるが、「そうなるまでに、香港の一時代をリードしてきたという自負はあります。手前味噌ですけどね」と黒田さんはほほ笑んだ。

会社名「PLUS QOB」は「Qちゃん」「Oちゃん」「Bちゃん」という黒田さんが保護した3匹の猫の名前からつけたそう。
花を贈り合う習慣は日本以上

「香港と日本では花との付き合いかたは違いますね」と黒田さん。実は、フランネルに務める前に、黒田さんは日系スーパーAPITAの食品売り場で生花店を出したが、思うように売れず閉店してしまった。

「香港では、何かと花を贈り合いますが、ただでさえメンツを重んじる香港人。食品売り場の花屋で贈り物の花を買おうとしないのは無理もないですね」香港では、バレンタインデーに男性が花を贈り、しかも、女性の職場へ午前中に届けるのが基本だというのは有名な話で、これもメンツを気にするがゆえ。「日本人は、小さな楚々とした花にも価値を見いだすけれど、香港ではシャクヤクやアジサイなど、見栄えがよく大きな花の方が好まれる」というのもうなずける。

「オフィスに届けた花が立たないというクレームを受けたこともあります。ラッピングをほどかない人が香港には多いみたいですね。ですから、花束のときはできるだけ水をキープできるラッピングにします。日頃から花を生けて四季を楽しむ日本人とは、花の楽しみ方が違うようにも思いますね」

例えば、香港では月ごろ、卒業式のブーケにヒマワリの花がよく使われるが、「ヒマワリ=夏」とすりこまれている日本人は、少々違和感を覚える。

「わたしなら、秋にはヒマワリ以外の花を使います。お客様の気持ちに添いながら、自分らしさを出すのは難しいですが、旬のもの・季節の花を使うことにはずっとこだわってきました」

生花店「Hay Feber Floral & Gift」でのクリスマスリース制作レッスン。葉ものや珍しい生花をたっぷり使い、仕上がりも豪華。
 
進化し続ける香港フラワー業界

黒田さんは6年前、花にまつわる仕事をもっと広く手掛けたいとフランネルを退職し、フリーランスになった。彼女の洗練されたアレンジメントのファンは多く、花束の注文やフラワーアレンジメントレッスン、個人宅やギャラリーなどの生け込み、企業とのタイアップなど、活動は幅広い。

顧客のニーズも花屋のレベルも高くなってきている香港。「SNSなど自分で発信するのは得意じゃなくて」とマイペースの彼女も、雑誌やインスタを見たり街歩きをしたりと、情報収集は欠かさない。最近は、鮮やかな色やアンティーク色に染められた花をアレンジに使うフローリストも増えているのだとか。その新しい感覚にハッとさせられることもある。

「香港のフラワーマーケットには世界中の花が集まってきます。最近はバラやアジサイなど、中国からの花の質も良くなっていますね。特に枝ものは、山から切ってきたの?と思うようなワイルドなものが多く、種類が豊富です」

ナチュラルな花が好き。花びらが落ちる姿、枯れていく様子も楽しみたい。ガーデニングにも興味がわき始めていて、今一番好きなのは、庭に咲くオールドローズなどのバラだという黒田さん。花を仕事にして年たった今も、花を愛でる気持ちは募る一方だ。

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*Hong Kong LEI vol.48 掲載

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