2023/04/12

コピティアム:コピティアム(kopitiam)は、主に東南アジアのマレーシアやシンガポールなどで見られる、コーヒーや伝統的な朝食を販売する店舗(Wikipedia「コピティアム」の項より)。

茶餐室で飲むコピ(コーヒー)

わたしが「茶餐愛好家」を勝手に名乗りはじめてから一年ちょっとが経過しましたが、実はわたしには「茶餐愛好家」というもう一つの顔があります。なんだか間違い探しのようですが、一文字違いの「茶餐”廳”」と「茶餐”室”」は似て非なる存在。でもどちらも、わたしたちにおいしい食べ物や飲み物を、そして居心地のいい空間を提供してくれる場所です。

香港にたくさんある「茶餐“廳”」については、このコラムをお読みいただいている方にはもう語るまでもないかもしれません。香港を中心に今やアジアの各地に広がる茶餐廳は、代表格の香港式ミルクティーをはじめとした特徴あるドリンク類、サンドイッチなどの軽食や麺類、さらにはご飯ものも出す庶民派カフェレストラン。大衆食堂に近い存在です。

香港の茶餐“廳”

一方の「茶餐“室”」は、日本や香港にお住まいの方にとってはあまり馴染みのない存在かもしれません。それもそのはず、「茶餐“室”」は冒頭のWikipediaからの引用にある「コピティアム」の中文(中国語)でのよくある名称で、特にマレーシアの、中華系の住民が多い都市でよく見かける飲食店です。どちらも食事の場であることに変わりはありませんが、大きく異なるのがその提供スタイルです。「茶餐“廳”」が飲み物も食べ物もそのお店のスタッフが調理している普通のカフェ・レストランスタイルなのに対し、マレーシアによく見られる「茶餐」の多くは、店自体は飲み物と、トースト、ゆで卵などごく簡単なメニューだけを提供し、主食となるような麺類やご飯ものはお店の中にある屋台が調理し、提供しています。お店に払う場所代のような感覚でまずドリンクを注文したら、雲吞麵(ワンタンミー)の屋台で汁なしのワンタン麺を頼んでもいいし、ちょっとスパイシーなラクサの屋台を選んでもいい。茶餐室は言うなれば、あれこれ選べるちょっとしたフードコートのようなもの。チキンライスや中華式のちまきを出す屋台、はたまたデザートを扱う屋台が同居しているケースもあれば、朝と夜で違う屋台が入っていることもあったりして、その食のバラエティは、茶餐廳の朝食メニュー(早餐)や昼食メニュー(午餐)とはまた違った方向性で楽しめます。

マレーシアの茶餐室にある屋台

わたしが茶餐室”も”好きな理由は、茶餐廳と同じように庶民的な食事の場で、そこにやって来るお客さん皆が思い思いのメニューを楽しんでいるところ、そして茶餐廳ではあまり体験できない、目の前で料理を作っている場面が見られるところです。屋台形式なので、注文を受けてから屋台のスタッフが麺を茹でたり、トッピングをしたり、お肉や野菜を切ったりと腕を振るっている光景が目の前で見られるのは、奥のキッチンで調理することが多い茶餐廳では味わえないお楽しみです。「今日はラクサの気分だな!」と心に決めて茶餐室に入ったのに、麺を炒める姿と立ち上る香りとのダブルパンチで「やっぱり福建麺(ホッケンミー)にしよう!」と一瞬で心変わりしてしまうことがあるのも、茶餐室の醍醐味なのかもしれません。

屋台での調理風景

茶餐室の中でも、マレーシアの古い街でよく見られる「角地の素敵な建物に入店している茶餐室」は、その歴史も、雰囲気も、そこにやって来るお客さんも、もちろん飲み物や食べ物もわたしの大好物です。数は減らしながらも、歴史と風情ある茶餐廳は香港にもまだまだありますが、マレーシアのペナンやマラッカ、バトゥパハといった都市を歩いていると、築100年近い建物を使いながら今も現役の茶餐室にあちらこちらで出会うことができます。

バトゥパハの茶餐室

少し朽ちかけていても、どこか威厳が感じられるような建物の装飾と、そこで流れるゆっくりとした時間は、せわしない香港で日々を過ごすわたしが旅先で一番欲するもの。そんな茶餐室に腰かけて、シーリングファンの下でコピ(コーヒー)をゆっくりと飲んでいると、中華系の人たちが100年、200年前から辿ってきた道が頭の中で浮かんできて、海外で暮らすということについて思いを馳せずにはいられなくなります。

茶餐室の軒下で過ごす時間

茶餐廳が好きな方ならきっと、その違いと共通点とに心がときめいてくる「茶餐室」の世界。海外旅行をするハードルがすっかり低くなった今、マレーシアに足を延ばして茶餐室のドアを開けてみると、もしかしたらあなたも「茶餐室愛好家」になってしまうかもしれません。コピを飲みに、間近で調理してくれる屋台の食を味わいに、「茶餐”室”」へも行ってみませんか?


akiramujina

九龍を拠点に「茶餐廳愛好家」を勝手に名乗り、ほぼ毎日茶餐廳や冰室に足を運んでいる在港日本人。
趣味は旅行と茶餐廳めぐり。コロナ禍で旅行ができない今は年100店以上の茶餐廳訪問と、年300杯以上の港式奶茶を目標にしています。
どこへでも行くフットワークの軽さが自慢ですが、どこででも食べてばかりいるせいで自身の重さが悩み。
TwitterとInstagramでも食べ物の話ばかりしています。

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