2023/02/24

前回のあらすじ

昨年2月から断続的に続く腹痛。病院で検査をしても原因は不明だったが、夏の終わりに長らく続いた離婚調停が成立した途端、腹痛もなくなったのでストレスだったんだと安堵したさきさん。しかし、しばらくして受けた健康診断で便潜血陽性となり大腸内視鏡検査をすることに。全身麻酔での検査が終わり、だるさの中にいるさきさんにドクターは深刻な顔でこう言った。「大腸に異常が見つかりました。手術が必要になります」


 

正直なところ「やっぱりね」と思いました。あんなにお腹が痛かったんだもの、そりゃ異常くらい見つかるでしょう。でも手術は考えてもみませんでした。
「来週から冬休みで日本に行くんですけど……」とドクターに言ったら、「旅行は延期した方がいいと思います」と言われてしまいました。それでも「絶対行く! 日本へ行って、そこからフランスに行く予定で、チケットも予約済みだし、すごく楽しみにしていたんだから」とこの時は思っていました。
ドクターから「明日、PETスキャンをすぐするように」と言われ、病院をあとにしました。PETスキャン? なんだろうそれ、聞いたことないな。家に帰る途中調べてみると……。
PETスキャンとは、病気やがんの進行具合を調べるスキャンと書いてありました。
がん? わたし、がんなのか? でもドクターはなにも言っていなかったし、きっとなにか違う病気なのかな?

 

嫌な予感がしつつも、いい方に考えるようにしていました。でも次の日スキャンをしても、その場にいるのは検査技師のみで、ドクターが説明してくれるわけでもないし、次の診察までの数日間、なにも分からないのです。それが耐えられず、ネットで大腸がんの画像を検索しまくりました。そして、わたしの腫瘍にそっくりの画像が見つかったんです。
そこに書いてあったのは、「大腸がんの進行がん」。
ぞっとしました。まさか、きっと勘違いだよね?

 

日本で大腸がんの専門医を親戚に持つ知人がいるのを思い出し、ダメ元でわたしの大腸写真を診てもらえないか聞いてみることにしました。なんと、知人は快諾してくれて数時間後にはお返事をいただきました。知人は電話口で暗い声でした。
「さきさん、親戚から返事がきました。写真を見る限り、99%悪性のがんだって……。しかも腫瘍がかなり大きくて腸を閉塞しかけているので、『これが自分の患者だったら即手術する』と言っていました」

 

やっぱり。やっぱりと思ったけど、ショックでした。がんはどれくらい進行しているんだろう? 私は長く生きられるのだろうか? 娘の成長を見届けられるのだろうか?
頭の中は真っ白、胸はドクドクしました。
この時午後20時頃。横にいて電話を聞いていた小学生の娘は、わたしの真剣な表情を見て、「ママやっぱりがんなの?」と聞いてきました。
わたしは日頃から娘たちにはなんでも隠さず話すことにしていたので、この日までの経過も伝えていたし、「便潜血のうちの2%が大腸がんらしいから、ママはきっと大丈夫だけど、可能性はゼロではないよ」と伝えていました。
でもこの日は「うん、がんだって」と告げなければいけませんでした。娘は、すぐに「ママ死ぬの?」と聞いてきました。子どもにとって、がん=死の病。
「ううん、そんなことないよ。ママは絶対大丈夫だよ。きっと手術すれば治るよ!」

 

この夜はさすがに、よく眠れませんでした。
翌朝、日本にいる母に電話をしました。母も実は嫌な予感がしていたらしく、一緒にすすり泣きました。でも「きっと大丈夫。さあ、がんと分かったからにはいろいろ調べよう」と言ってくれました。また知人女性のお父様が香港でドクターをしているというので、彼女に連絡を取ると、白血病専門医のドクターを紹介してくれて、大腸がん専門ではないけれど、いろいろ意見がきけるだろうとのことで予約することにしました。朝一で電話して、午後の予約が取れました。娘のお迎えはヘルパーさんにお願いして、そのドクターの元へ。
診察中に分かったことですが、昨日PETスキャンしたセンターのオーナーとドクターは友人とのことで、すぐに電話をしてスキャンの結果を聞いてくれました。こういうところに香港を感じます。すごいネットワークです。PETスキャンの結果は、かなり深いがんで、リンパ転移の有無は不明、抗がん剤治療は絶対必要になる、旅行も絶対キャンセルとのことでした。ドクターから「1年後だったらもう危なかった」と言われ、またぞっとしました。
診察室を出ると涙があふれてきます。運が良い人生だったのに、運を使い果たしちゃったのかな? 人気のない所で、顔がぐしゃぐしゃになるまで泣きました。怖くてたまりませんでした。

なんとか家へ帰り、ヘルパーさんにもがんのことを伝えました。ヘルパーさんも身内に乳がんサバイバーがいるので、とても心配そうにしていました。
娘が帰ってきて、今後のいろんな可能性を話しました。
「ママは手術しないといけない。旅行には行けない。抗がん剤治療をやって、体がすごく弱ったり、髪が抜けたりするかもしれない」
すると12歳の娘は、「ママは100%大丈夫だって信じてる。それに死ぬ以外なら、なにがあっても受け止められるよ!」と言ってくれました。
なんて力強い言葉、強くて優しい子に育ってくれていると感じて胸がつまりました。よし、なんとかポジティブな気持ちになってこの難しい人生の壁を乗り越えようと、心に決めました。

 

つづく


福山さき

2012年、東京から香港に移住。フリーランスインストラクター。小学生、中学生のママ。趣味は、料理とピアノ。


 

コメントをありがとうございます。コメントは承認審査後に閲覧可能になります。少々お待ちください

意見を投稿する

Hong Kong LEI (ホンコン・レイ) は、香港の生活をもっと楽しくする女性や家族向けライフスタイルマガジンです。

Translate »