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2026/06/09

香港の旧テキスタイル工場をリノベーションしたアートスポット、荃湾(チュンワン)の「CHAT六廠(六廠紡織文化藝術館/ CHAT 紡織文化芸術館)」では、糸と布が織りなす3つの特別な展覧会が開催されています。どれもちょっと心が温かくなるような、素敵なストーリーがあります。もうすぐ終了してしまう展示会もありますので、香港の歴史や文化が好きな方、布や糸を使って作るのが好きな方はぜひ足を運んでみてください。

Exhibition view: Artefacts of ‘Blue’, CHAT (Centre for Heritage, Arts and Textile), Hong Kong, 2025

1)「藍的痕跡(Artefacts of ‘Blue’)」インダンサレン・ブルーが映す、美しき青の歴史 2026年6月28日まで

ここに展示されているのは、1930年代に一世を風靡した合成染料インダンサレン・ブルー(Indanthrene Blue)にまつわるコレクション。当時、広告ポスターでこの鮮やかな青いチャイナドレスを粋に着こなし、誰もが憧れたアイコン「ミス・ハピネス(福神)」が目印です。

「いくら洗っても太陽に干しても絶対に色褪せない!」というこの魔法の青い布は、それまで高級で繊細だったチャイナドレスを、一気に「安くて丈夫で動きやすい日常着」へと変えました。これを機に、香港の女子学生や社会へ進出する働く女性たちがこぞってこの青を身にまとうようになります。

Exhibition view: Artefacts of ‘Blue’, CHAT (Centre for Heritage, Arts and Textile), Hong Kong, 2025

ちなみに、現代の香港でも、水色や青のチャイナドレス型の制服を着た女子学生を街で見かけることがありますよね。実はあの制服こそ、この1930年代の「インダンサレン・ブルー」の大流行の直系の名残り。 当時、時代の最先端をいく知的な女子学生たちの間でこの青いドレスが象徴となり、それが名門校の制服として定着しました。 今わたしたちが街で見かけるあの爽やかな青い制服は、およそ100年前の女性たちが手に入れた「知性と自立の精神」を今に伝える、誇りのような存在なのです。

つまり、この青は単なるトレンドカラーではなく、当時の女性たちの「自立と自由」を支えた最先端の応援服だったのですね。色褪せない青い布に込められた、当時の女性たちのたくましいエネルギーに、思わず背筋が伸びる思いがします。


Exhibition view: Snuggle and Stitch: Childhood Textiles of Hong Kong, CHAT (Centre for Heritage, Arts and Textile), Hong Kong, 2025

2)「香港の伝統的な手作りブランド(溫暖牌)」が語る、香港の子どもたちの記憶 2027年2月21日まで

続いて、どこか懐かしい気持ちにさせてくれるのが「飛越溫暖牌:香港童年布藝(Snuggle and Stitch: Childhood Textiles of Hong Kong 「時空を飛び越える手作りブランド:香港の子ども時代のテキスタイル」)

1950年代の香港といえば、街を歩けば2人に1人が子どもや若者だったという、活気あふれる時代。スマホもゲームもなかった当時、子どもたちは手作りの背負い紐おんぶ(背兒帶)に揺られ、お母さんが端切れで縫ってくれたお洋服を着て、くたくたになるまで愛された手作りの布人形で遊んでいました。

Exhibition view: Snuggle and Stitch: Childhood Textiles of Hong Kong, CHAT (Centre for Heritage, Arts and Textile), Hong Kong, 2025

会場には、1930年代から2020年代にいたるまでの約90年間にわたる香港の「子どものための布製品」がずらりと並びます。代々受け継がれてきたお下がりの服や、かつて香港の工場で大量生産されたおもちゃ、職人技が光る人形など、どれも温もりでいっぱいです。あやとりや、お豆の入ったお手玉(抓子)といった、当時の遊びを実際に体験できるコーナーもあり、不便だったからこそ生まれた「ものを大切にする知恵」や、人と人とのリアルな結びつきを肌で感じることができます。

Exhibition view: Snuggle and Stitch: Childhood Textiles of Hong Kong, CHAT (Centre for Heritage, Arts and Textile), Hong Kong, 2025

実はタイトルにもある広東語の「溫暖牌(ワンヌンパイ)」は、香港や広東語圏の文化に深く根ざした、とても愛おしいユーモアのあるスラングなのです。中国語の「牌(ぱい)」には麻雀牌だけでなく「ブランド」という意味もあります。つまり「溫暖牌」を直訳すると、お母さんや恋人の手作りという名の『ぬくもりブランド』という意味です。

例えば、それが、お母さんや恋人が心を込めて手編みしてくれたセーターやマフラーのことを、親しみを込めて「今年の冬は、溫暖牌のセーターを着ているんだ」と言ったりします。既製品の高級ブランド(名牌)をもじって、「ブランド品じゃないけれど、世界で一番温かい手作りブランド(溫暖牌)だよ」という、ちょっと照れくさくて温かいユーモアが込められています。

Exhibition view: Snuggle and Stitch: Childhood Textiles of Hong Kong, CHAT (Centre for Heritage, Arts and Textile), Hong Kong, 2025

英語のタイトルにもあるSnuggle and Stitch」は、1950年代から高度経済成長期にかけての香港のお母さんたちは、家族のために夜なべをしてミシンを回したり、毛糸を編んだりするのが日常の風景でした。今回の展覧会は、そんな香港の人々が子どものころに身につけていた「手作りのぬくもり(=溫暖牌)」の歴史を振り返る、ノスタルジックな内容になっています。

キリさんが訪れた時の記事です。ぜひお読みください。
キリ流香港散策 第39回 CHAT 紡織文化芸術館に、昭和レトロ ダッコちゃん人形と喜如嘉の芭蕉布着物発見⁉︎


郭晟邦,《遺棄》,2025 Marcos Kueh, Abandonment, 2025

3)糸が紡ぐ、アジアの心と祈りの景色「縷縷入心(Threading Inwards )」展、2026年6月28日まで。

まず足を運んでいただきたいのが、アジア全域から14人の現代芸術家が集結した国際展「縷縷入心(Threading Inwards )」

縷縷入心」展では、タイトルにある「縷縷(細く長く途切れないさま)」という言葉の通り、アジア14名のアーティストによる、糸や布を使った深い精神世界が広がっています。

アジアの暮らしにおいて、織物(テキスタイル)は単なる衣服を超えて、神聖な儀式や人生の節目、祈りの場にいつも寄り添ってきました。会場に並ぶ、丁寧に紡がれ、染められ、縫い合わされた作品たちは、アーティストたちの個人的な記憶だけでなく、それぞれの地域が持つ歴史や信仰を伝える「触れる言葉」のようです。布が持つ柔らかさと強さに包まれながら、大自然や祖先とのつながりを感じる、まるでスピリチュアルな地図を旅するようなひとときを体験できます。

胡尹萍,《魂瓶》,2026 Hu Yinping, Soul Bottles, 2026
金沙織,《與織機一起,身體就在此》,2024-2025(局部)Kim Sajik, Together with HATAMUN, the body is there now, 2024-2025 (Partial) 合作機構:Asian Art Roundtable organised by the Agency for Cultural Affairs, Government of Japan,/ In collaboration with Asian Art Roundtable organised by the Agency for Cultural Affairs, Government of Japan

日本国指定重要無形文化財である最高級の夏織物、沖縄伝統の喜如嘉(きじょか)の芭蕉布の着物と生地
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も合わせてご覧ください。

3つの展示をとおして、一本の糸、一枚の布がいかにわたしたちの記憶や文化を優しく包み込んできたのかに気づかされます。大きな窓から差し込む光のなか、かつて多くの工員たちが汗を流した紡績工場の面影を感じながら、ノスタルジックで心豊かなアートの時間を過ごしに出かけてみてくださいね。無料で観覧できるのに見応えたっぷりな展示の数々です。

「CHAT六廠」の後は、隣接する「The Mills(南豐紗廠)」の館内をゆっくり歩いてみるのもおすすめです。カフェや雑貨屋さんなど色々あって楽しいですよ!


CHAT六廠(六廠紡織文化藝術館/ Centre for Heritage, Arts & Textile/ CHAT 紡織文化芸術館
住所: 4/F, The Mills, 45 Pak Tin Par Street, Tsuen Wan, Hong Kong
アクセス: 港鉄(MTR)荃湾(チュンワン)駅A4出口から無料シャトルバス、または徒歩約15分
開館時間: 11:00〜19:00(毎週火曜日は休館)
入館料: 無料

開催中の展示:
『縷縷入心(Threading Inwards)』(2階 展示室 〜2026年6月28日)
『飛越溫暖牌:香港童年布藝(Snuggle and Stitch)』(2階 The D. H. Chen Foundation Gallery/ 〜2027年2月21日)
『藍的痕跡(Artefacts of ‘Blue’)』(2階 CHAT Lounge / 〜2026年6月28日)

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