2024/03/22

先週の記事で告知した通り、第48回香港国際映画祭(HKIFF48)が2024年3月28日から4月8日までの12日間開催されます。香港国際映画祭では、毎回国内外から1人「注目の映画人(Filmmaker in Focus)」を選出し、関連作品を集中上映します。

その「注目の映画人」に、今回は『メイド・イン・ホンコン』、『リトル・チュン』など、香港の市井を描く映画監督として知られるフルーツ・チャン監督が選出されました。

チャン監督に、「注目の映画人」に選出された感想と、これまでの映画づくりについてお話をお伺いする機会を得ました。

聞き手:深川美保、大久保健

 


 

「香港は、『大きな時代』から『錯綜する時代』に変わった」

編集部:今年の香港国際映画祭の「注目の映画人」に選ばれたことについてご感想を聞かせてください。

チャン監督:選ばれたことはもちろん嬉しいですよ。私のような独立系映画の監督はメインストリームの映画に比べたら、小さい存在、いわばスモールポテトですから。そういう私を選んでくれたのは嬉しいですね。

フルーツ・チャン監督のデビュー作『メイド・イン・ホンコン』(1997)。スターが出演する映画が主流だった香港で、チャン監督の作品の国際的なヒットは異色のことだった。

編集部:監督は、なぜ「香港に住む人々」を題材にされてきたのでしょうか?

チャン監督:香港で暮らす、いわゆる底辺の人々を撮った映画は、数年前のことで、いまでは何でも撮っているんですよ。

映画人としては、貧しい人の中から物語を掘り起こすと、真に迫った、いいものが撮れるんです。香港は、もちろん国際都市ですよね。そこには必ず貧富の差があり、ピークに住んでる人はお金持ちだし、旺角に住んでいればあまりお金はない人たち…というのが以前の定説だったのですが、いまは違いますね。社会的弱者層だけの話では描ききれない世の中になっている。

編集部:監督は昔、「大時代のもとに暮らす小人物を描く」とおっしゃっていました。大時代とは、何でしょうか?

チャン監督:「大時代」は、1997年の香港返還のことを指していました。これは大きなことでした。それに比べて、この数年は大時代なんでしょうか。少し違いますね。いまは、「大時代」のように1つの問題があるわけではなく、イイことも悪いことも錯綜して、大げさに起こるような時代です。その振れ幅が大きく、大げさな変化を考えてみると発見があるのかもしれません。

香港で働く娼婦たちを描いた「娼婦3部作」の第2作、『ハリウッド★ホンコン』(2007)。

「香港に来て、映画に夢中になった。中毒になった」

編集部:監督は海南島で生まれて、10歳で香港にいらっしゃったわけですね。海南島での少年時代はどのようなものだったのでしょうか?

チャン監督:普通の、ありふれたものでしたよ。1970年代の文化大革命の末期の頃でした。私はまだ幼かったですけど、香港に来てみたらこんなに自由なのかと驚きましたね。面白かったです。

香港の男の子と、大陸から移民したばかりの女の子との交流を描いた『リトル・チュン』(1999)。

編集部:広東語も問題なかったわけですね。

チャン監督:海南島にいた当時は普通話と海南語を話していました。数年前に海南島に帰りましたけど、海南語を話す人はほとんどいなくなっていましたよ。

香港に来た時は子どもでしたからね。テレビを見て生活をこなすうちに難なく習得できました。海南島時代はテレビが家庭になかったんですよ。だから、香港に来てからは毎日テレビを見ました。

映画は中国にもあったけど、旧共産国の映画しか見られなかった。香港に来て初めてブルース・リー映画も観たし、いろんな外国映画も観られて世界が全く違ってみえた。映画というのは非常に力を持っているものだ、と夢中になりました。大麻みたいな中毒性があった。

編集部:その毒に当たったんですね。

チャン監督:そうです。非常に当たりました。

「娼婦3部作」の最終章『三人の夫』(2018)。2019年香港電影金像獎にて作品賞、監督賞ノミネート。主演女優賞を獲得。

「電影文化中心に出入りしながら、映画を学んだ」

編集部:『メイド・イン・ホンコン』で主演を務めたサム・リーが人気を得ました。2019年の香港電影金像獎では、『三人の夫』でご自身も作品賞、監督賞にノミネートされ、主演のクロエ・マーヤンは主演女優賞を受賞。そして、同年プロデュースをした『淪落の人』では、オリヴィエ・チャン監督が新人監督賞を受賞しました。チャン監督が組む若い人材は、必ず大成するといわれています。

チャン監督は、若いころ電影文化中心に出入りしながら、映画を学ばれたそうですね。

チャン監督:いま土瓜湾にある電影文化中心は、自分が通っていたころとは違うものなのですよ。わたしたちが通った後、いったん閉鎖してしまったけど、映画界の有志が土瓜湾の建物を提供して復活したんですね。

わたしが通ったころは、若手監督だった舒琪さんなどが設立したフィルムセンターで、そこで上映会をやったり、プロが映画製作を教えるコースがあったりしました。

例えば日本の1970年代の若い監督たちの作品とか、台湾映画、フランス映画など一般の映画館では上映されない作品を観ては、「これは新しいね」「違う表現方法だ」などと、研究することができました。

いま、香港には新人監督がたくさんいますね。多くの監督が、香港演藝學院の卒業生が多いです。例えば、いきなり映画業界に入ってアシスタントから始めると、一人前になるまで8年、10年とかかりますけど、学院でしっかり勉強すれば、卒業してその次の年からもう監督ができる。そういう人たちが良い成績を上げています。業界にとっても素晴らしいこと。

我々のような、ずっと映画畑でやってきた人たちの考え方とは少し違いますが、時代の流れなのです。

編集部:次の作品の構想は何かありますか。

チャン監督:まだわかりません。どこかで出会った人間の物語が面白いかどうか、あるいは頭で作り出した物語が面白いかどうかという問題です。これは簡単ではないんですね。非常に難しいですよ。

 


 

フルーツ・チャン

陳果。1959年中国、海南省に生まれる。映画監督、脚本家、プロデューサーとして香港を拠点に活動する。1997年に伝説的インディーズ作品『メイド・イン・ホンコン』を監督。国際的なヒットを得る。『花火降る夏』(1998)『リトル・チュン』(1999)と併せて香港三部作を完成させた。続いて、娼婦三部作として、『ドリアン ドリアン』(2000)、『ハリウッド★ホンコン』(2001)、『三人の夫』(2018)を発表。『三人の夫』は2019年香港電影金像獎にて作品賞、監督賞にノミネートされ、主演のクロエ・マーヤンは主演女優賞を獲得した。今映画祭では、チャン監督のこれまでの作品をほとんどすべて上映する。

 

第48回香港国際映画祭のキービジュアルのうち1点はフルーツ・チャン監督の『三人の夫』の舞台となった、ランタオ島の大澳の風景が採用された。

第48回香港国際映画祭  2024年3月28日~4月8日

 

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