2023/03/23

前回のあらすじ

大腸内視鏡検査で大腸に異常があると分かり、医師の様子から深刻な事態だと感じ始めたさきさん。久しぶりの長期旅行の予定もキャンセルせざるを得ない状況に。PETスキャン結果が出る前に、知人を通じて日本の大腸がん専門医に自分の大腸写真を見てもらったところ、「99%悪性のがん」と言われ頭の中は真っ白に。わたしは長く生きられるのだろうか? 娘の成長を見届けられるのだろうか?


大腸内視鏡検査をした日から、次の主治医の診察までの4日間は本当に目まぐるしかったです。かなり進行した大腸がんと分かってから、家族、友達、仕事関係者以外でも、いろんな人に大腸がんであることを伝えました。自分の状況を隠さず伝えることで似たような経験をした人と繋がり、経験談を聞けるかもしれない、と思ったから。そのおかげで直腸がんになったイギリス人のEさんと繋がることができました。Eさんから香港で一番腕がいいと言われているドクターPの情報やEさんの病状と療養の詳細など、いろいろなことを教えてもらいました。

わたしの診断は結腸がんですが、直腸がんのEさんはかなり大変そうでした。直腸がんは腫瘍が肛門に近いので、手術も難しく複雑。一時的または永久的人工肛門を作ることが多く、人工肛門でなくても、肛門まわりの筋肉を切る影響で、排便障害が残ることがあるとのこと。なんというか、結腸がんで不幸中の幸いだったのかもと思ってしまいました。主治医の診察日まで待てず、大腸がん手術専門のドクターPの診察をすぐ予約しました。

主治医の診察は、すでに知っていること――生体検査の結果は大腸がん、手術はドクターPがいい――を確かめに行っただけでした。次の日、ドクターPの診察へ。早く手術をして、一刻も早くがん細胞を取り除きたかった。ドクターPは、大腸がんの手術を日常的にこなしているので、淡々と入院、手術内容、リスクについて分かりやすく説明してくれました。最初は不安だったのに、ドクターの自信にあふれた説明を聞いていたら、まるで親知らずを抜くかのような、簡単なことをするような気がしてきて不思議でした。「このドクターならきっと大丈夫」と確信を持てました。

ドクターによると、手術は腹腔鏡手術で、大腸のおよそ3分の1を切り取る、時間は3時間ほど、入院期間は5日間。クリスマス前に退院できるように、何とか手術の予定を組んでくださいとお願いしたら、なんと3日後の手術が決まりました!

内視鏡検査をしてから9日で手術。こんな早く対応できるのも香港私立病院ならでは。公立病院だとよほどの緊急でない限り数か月、数年は待たされるし、日本でも数週間は待つことが多いらしい。早速手術に向けて、大腸を空にするための準備の説明を受けました。先週の内視鏡検査で同じことをやったから全部分かってたけど、今回は3リットルの下剤ではなく、2リットルで済むらしい! なんか楽勝かも。

手術が決まってからはポジティブな気持ちで入院する日まで仕事を休まず頑張ることにしました。あまりに明るく振舞っていたので、クライアントから驚かれました。子どもと過ごす限られた時間も貴重でした。子どもたちはわたしの手術の日に元旦那とクリスマス休暇旅行に行く予定だったので、これも何かの縁だと思えました。手術後、体の回復に集中できるし、辛い姿を子どもに見せずに済む。子どもたちには久しぶりの旅行を楽しんでほしいと、心の底から思いました。

さあ手術前日、下剤2リットルも余裕でこなし、水分だけで一日過ごす。旅行用のスーツケースに入院の準備。お気に入りの本、雑誌、パソコン、大好きなTWGのお茶、愛用の枕、必要最低限のメイク道具など、旅行に行くはずだったことを考えるとちょっと悲しかったけど、入院中毎日だらだらできると思ったらなんか楽しみにすら思えました。

入院当日。この日は8時に病院へ。子どもたちは学校最終日なので、見送る時間もちゃんと持てました。子どもたちをスクールバスに乗せる前に、力強く抱きしめました。2週間以上も会えなくなるなんて、産んでから初めての経験。寂しいし、手術への恐怖も芽生えて、見送った後涙がとめどなく溢れてきました。子どもたちが帰ってくる前に少しでも元気になりたい。少しでも元の自分に戻れるようにしよう。

子どもたちと別れた後、いま付き合っているパートナーと一緒に病院へ向かいました。彼はいつも病院へ付き添ってくれて、この運命を一緒に乗り越えようとしてくれる大切な存在。わたしの心の支えです。

病院についてからはコロナの簡易テスト、病院アプリのダウンロード、いろんな書類へのサインなどでバタバタ。手術が始まる14時までの間、採血、体重測定、問診などをナースルームでしました。体重を測っている時、数値の部分をナースと覗き込んでいると、突然数値が60キロ、70キロと増加。ナースと「あれ?」と驚いていると、なんとパートナーが後ろから隠れて足で体重をかけているではないか! みんなで大爆笑して、一気に手術前の緊張がほぐれました。

実はわたしのパートナー、父親を大腸がんで亡くしています。今回わたしが大腸がんになって、人一倍ショックで心配しています。なぜ自分じゃなく彼女がなったのかと。でも、身内にがんがいると定期的に検査を受けるから、がんが見つかったとしても進行する前に対処できるケースがほとんどだと思います。わたしのように、若くて、家族に一切がんの人がいないと発見が遅れるケースが多いそうです。

今回のがん発覚でもポジティブに頑張れるのは、子どもたちや家族、そしてどんな時も味方でいてくれるパートナーがいるおかげです。

いよいよ手術室へ……。「頑張ってきて。大丈夫だよ」とパートナーに言われ、最後の抱擁を交わしました。

つづく


福山さき

2012年、東京から香港に移住。フリーランスインストラクター。小学生、中学生のママ。趣味は、料理とピアノ。


 

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