2022/10/20
「Hong Kong LEI – Cover Story」は、香港でがんばる人をご紹介するシリーズ企画です。当記事は、健康と食の安全をお届けする Tasting Table Japan Premium より当企画への賛同と協賛をいただき制作しています。
撮影:久米美由紀
一人ひとりの1時間で、世界はもっと良くできる
(目次)
<地域社会のために企業ができる貢献活動とは?>
<「何をやったか」ではなく「社会にどんな変化を起こせているのか」>
<イギリスで「人権」を学ぶ>
<あなたの1時間で、誰かの人生が変わるかもしれない>
<堀さんへの3つの質問>
<地域社会のために企業ができる貢献活動とは?>
UBSの社会貢献を統括する部署で、アジア太平洋地域の責任者を務める堀久美子さん。社員のボランティア活動や寄付を通じて、社会経済的に厳しい環境にある子ども・若者たちに成長機会を提供するプロジェクトを推進している。2007年にUBS日本支社に入社、6年前からアジア太平洋全域を統括し、香港オフィスへ移籍。2011年東日本大震災の復興支援では、総額4億円の寄付を元に5か年計画を立て、1千人の社員ボランティアと共に復興まちづくりをしてきた実績から、堀さんは今「釡石市地方創生アドバイザー」も務めている。
「社会貢献活動といっても、国や地域によって必要な支援はさまざまです。例えば、学校を作るところから必要な国もあれば、インフラや公的教育制度が整った国では、出自や経済状況にかかわらず、全ての子どもたちの可能性が最大限に拓かれるようなプロジェクトで貢献していきます」
香港では、幼稚園児のプログラミング思考教育や、香港大学と提携したNGO向けリーダーシップコース等を提供。地元のアーティストと子どもたちが一緒に2階建てバスをペインティングするなかで、コミュニケーション力、自尊心を高めるプロジェクトなどを行っている。
現在、アジア全域で進行中のプロジェクトは約50件。堀さんは、その全てを把握しているという。
アジア最大のスラム街とも言われるインド・ムンバイ市のダラヴィ(Dharavi)の学校での社員ボランティア・プログラムにて。
<「何をやったか」ではなく「社会にどんな変化を起こせているのか」>
世界的に「何をやったか」ではなく、「社会にどんな変化を起こせているのか」という「インパクト」で社会活動を測るという動きが生まれているという。
そして、そのインパクトを見据えて、寄付と社員のボランティア活動を考え、かつ支援する非営利団体を決定するのも堀さんの役目だ。そこで「各国地域の社会状況を把握し、かつ、現場のニーズに対し有効な手段を取らなければいけない」と堀さんは語る。
「例えば日本では、コロナ禍に収入が激減し生活困窮した1人親世帯では、お子さんの体重が減っているというデータが出ました。この緊急事態に、UBSは子ども宅配のプロジェクト支援を決定。政府からの支援金が届く前に動き始めました。でも貧困家庭に食べ物を届けようとしても、なかなか申し込みが来ないんです。なぜかというと、そこには親が『苦しい状況を近所の人達に知られたくない』『支援を受けることで子どもを不安にしたくない』『子どものアレルギーに対応できるかわからない』などさまざまな事情があるんです」
その現実を見て、申込方法の変更、(社会福祉団体や行政による配布ではなく)宅配会社に配達をお願いするなど、お腹をすかせた子どもに食べ物が届く方法をみんなで考えなければ「子どもの体重を減らさない」という目標を達成できない。インパクトを見据えるとはそういうこと。
「引きこもりなど、課題を抱える若者に関しても、お金を与えれば彼らが社会で活躍できるようになるわけではない。彼らに期待してくれる人や、成長できる機会を与えてくれる人が必要です。そういう点でも、社会人のボランティアだからこそできることがあると思いますし、社会貢献の意識の高まりも感じています」
<イギリスで「人権」を学ぶ>
和歌山で桃とみかん農家でのびのびと育った堀さん。小さいころから地元で唯一の外国人だったカナダ人宣教師から英語を学んできた。
「その先生が、カナダの小学校を紹介してくれると言うので、母に『カナダへ行く。学校も決めてきた』と話したら、『小学校だけは卒業して』と言われて思いとどまりました(笑)。でも結局14歳で中学校を中退して、イギリスのボーディングへ行きましたから、もう両親も諦めていたでしょうね」
「早めにお嫁に出したと思うことにします」と送り出したご両親だそうだが、「せっかく行ったのなら、イギリスで大学を卒業してきなさい」と応援してくれたという。
イギリスのヨーク大学では「人権」を専攻。それは幼いころに付き合いのあった西光万吉さんのご家族の影響だという。西光万吉さんは日本最初の人権宣言といわれ、被差別部落の人々の差別からの解放をめざす「水平社宣言」の起草者。堀さんにとって、自分を見守ってくれていた人々の課題は、人間の尊厳について考えるきっかけになったという。
「社会にあるべき、と思える仕事ができているのは幸せですね」
今夏、スキルアップのため留学したスタンフォード大学経営大学院では朝5時半からのブートキャンプで体を動かし、その後は20時過ぎまで90分授業が7-8コマ、という日々だったそう。写真は「両利きの経営」を提唱された同大学院教授のチャールズ・A・オライリー先生と。
<あなたの1時間で、誰かの人生が変わるかもしれない>
これまで、堀さんが人権や社会貢献という分野で続けてこられた理由は2つあるという。1つ目は「素晴らしい人々に出会ったから」。
「人権というと、国際人権規約など高次元で抽象的なレベルの話もありますが、何より人間を知らないと前に進まない。駆け出しの研究員時代に、同和地区を訪れて名刺を出しても、受け取ってもらえないばかりか『あんた、人権啓発とか言うて、人を変えられるとか思いなや』って怒鳴られるんです。でも、その後すごくおいしいホルモンを食べさせてくれたりする。差別などの困難に向き合う人の生き様に触れ、人の尊厳とは何か、学ぶことも多かった。だからこそ、自らもより良い未来のためにできることをやろうと思ってきました」
もう1つは「プログラムによって、人生を変えていく人々を目の前で見てきたから」だそう。
UBSでは、虐待や貧困、障害など様々な困難を抱える中高校生が、一緒にさまざまな活動にチャレンジするプログラムがある。これまでにプログラムに参加した100名近い卒業生の中には、起業してUBSの顧客を目指すほど成長した子や、海外へ進学した子、母子家庭を持つ選択をした子、などさまざま。
「子どもたちの中には、過去の虐待や生育環境のために人との信頼関係を築くことが難しい、世間を斜めに見ている子もいます。10ヶ月のプログラム中は、もめることも、泣く子も、逃げようとする子だっている。それでも、その子なりの、人として成長する素質は誰にでもありますから、社員たちは、本気で伴走します。大人が向き合ってくれる機会があれば、彼らは変わっていくんです」
「今、目の前の子の年齢だったときの自分に会えるとしたら、何を伝えたいか」、そんな気持ちで子どもたちと話をしてほしいと堀さんはいつも社員ボランティアたちに話すという。社員にとっても、共通体験によるチームワーク、部署を超えてのネットワーク機会になる。また、ボランティアに参加して人の成長を目にした社員の中には、子どもや両親など家族を連れてボランティアに参加する人もいるのだそう。また、UBSを退職後も活動を継続する人、転職先で新たなボランティア活動を立ち上げた人などもいるという。
だからこそ、堀さんが社員に協力をお願いするときはこう語りかける。
「あなたの1時間には、誰かの人生が変わるほどの力がある。それはお金だけでは成しえないものなのです」
堀さんへ3つの質問
Q1 ご自身はどんな性格だと思いますか?
利他的、誰かのためには頑張れる人。自分ひとりだとナマケモノです(笑)。
Q2 堀さんにとっての香港の魅力とは?
様々な国の人々とその文化(特に美味しい各国料理!)が交り合うと同時に、脈々と続く香港の伝統や慣習が共存するところ。エネルギーと創意工夫に溢れていますよね。
Q3 ストレス発散方法は何ですか?
何も考えずに運動する。あと、落ち込むと「ガトー・ショコラ」を焼く。仕事とは真逆で科学的でレシピ通りに焼けば必ず成功します。これほどストレス発散できる作業はないです(笑)。
登山も趣味の一つ。香港島のトレイルはほぼ制覇。 日本百名山も32座登ったそう。
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