2023/02/20

Tasting Table Japan Premium

「Hong Kong LEI – Cover Story」は、香港でがんばる人をご紹介するシリーズ企画です。当記事は、健康と食の安全をお届けする Tasting Table Japan Premium より当企画への賛同と協賛をいただき制作しています。



「香港でみつけた私の居場所は、八百屋さんでした」

 

 


(目次)
〈天后のローカル八百屋に立つ日本人嫁〉
〈私だからできることとは?〉
〈汚い仕事ですか?わたしはそうは思わない。〉
(番外編)知っていました?ローカルの八百屋さんのお仕事ルーティーン
〈磯部さんに3つの質問〉


〈天后のローカル八百屋に立つ日本人嫁〉

「なんで、こんなところに日本人が?ってびっくりされます」と笑顔で語るのは、八百屋「周記蔬菜」に立つ日本人女性として知られる磯部尚子さん。天后駅近くのこちらのお店は、1948年の創業から今年で75周年! 家族経営の老舗八百屋として、地元の人々やレストランに安心安全な野菜を提供している。
磯部さんが来港したのは10年前。大学在学中、留学先のカナダで知り合った香港人のSumさんと、7年越しの遠距離恋愛を経て、結婚したのがきっかけだ。

「結婚前に初めて訪れた香港は、なんだか街が騒がしいし、広東語も怒っているように聞こえましたね。今ではわたしも同じ調子で話していますけど 笑」

平日はフルタイムの仕事がある磯部さんは、主に週末お店を手伝っている。
「広東語を覚えられるだろうから、と軽い気持ちでお店を手伝い始めたのですが『広東語も話せない、この子はだれだ?』と常連客には不思議がられ、あれを持ってきてと言われても、何を言ってるのかわからない状態からのスタートでした。野菜の値段も、メモに書いて覚え、とにかくコミュニケーションを取りながら、広東語を身につけましたね」

磯部さんが店頭に立ち始めた頃。小さな子ども店長もご出勤。

7年経った今では、香港人だと勘違いしたお客さんから「日本語が上手だね」と言われるほど、お店になじんでいる。 実家が農家でもなく、日本では事務仕事しかしたことがなかった磯部さんだが、お客さんと話をしながら、くるくると忙しく立ち回る姿はすっかり板についている。野菜や果物の知識も豊富で、近所に住む日本人にとっても「敷居が高いローカルの八百屋さんで、日本語で相談しながら買い物ができる」と、頼りにされているのも納得だ。

〈私だからできることとは?〉

扱う商品は約300種類と、近所でも随一の品揃えを誇る「周記蔬菜」。お店を取り仕切るお義母さんは、ご高齢にも関わらず誰よりも元気だけれど、最近は老舗の閉店も多く「このお店をわたしたちの代でダメにしてはいけない」という気持ちが芽生えてきたという磯部さんとSumさん。スーパーや同業の小売店が多いこのエリアで、他店と差別化できることはないかと話すようになったという。

天后、電氣道沿いにある「周記蔬菜」。1948年の創業から今年で75周年という老舗だ。

ある日立ち寄った近所のラーメン屋さん。そこのサラダを食べて、周記のお店の野菜だ! と磯部さんが気がついたことから、店主とすっかり意気投合。そこからの縁で、日本の野菜の卸業者の方と知り合い、少しずつ日本の食品を扱うように。
「もっと日本産の食品を卸して販売してみたい。これならわたしに手伝えることだから」と、本格的に日本産の食品や野菜、果物も店頭に並べ始めたのが4年ほど前。

日本産輸入のライセンスを取り、黄金だし(魚、昆布だし)と野菜だし(コンソメ)を販売したのが、日本産食品販売の始まりだ。

「日本の野菜と中国野菜は、何が違うって『甘さ』なんです! 初めは、なかなか売れなくてどうしようと思ったこともありましたが、日本産の野菜はおいしいというのは、香港人にも浸透してきましたね」

日本産の大根・白菜・キャベツ・ジャガイモ・にんじん・玉ねぎはすっかり定番商品。旧正月前は、日本の甘い大根で大根餅を作りたいと、大根を大量買いする客が増えているという。
「日本人妻推薦!」など、商品に手作りポップを添えたのも、彼女のアイデアだ。時々日本語でも書いているポップをみて「どうして、こんなにきれいな日本語のポップがここに?」とお店に入ってくる日本人もいるのだそう。

磯部さん自作のポップ。

磯部さんは、結婚してからずっと「周記蔬菜」を営む義理の両親と同居生活を送っている。世間では両親との同居というと大変なイメージだが、磯部さんは
「お互い仕事で家にいないので、ずっと一緒ではないのが良いのかな。子どもの面倒も見てもらえるので助かっていますよ」とポジティブ。そして「義母は、わたしがお店を手伝いたいと言った時も、日本の野菜の販売を提案したときも『いいよ』と受け入れてくれて、なんでも自由にやらせてくれました。実は、義母の方が、嫁に苦労してるかもしれませんね」と笑う。

「周記蔬菜」の店主であるお義母さん、いまやサッカー少年の息子さんと一緒に。

〈汚い仕事ですか?わたしはそうは思わない。〉

磯部さんには、忘れられない出来事がある。
「ある香港人の方に、八百屋を手伝っていると話したことがありました。そうしたら『素晴らしいね、日本人なのに(そんなところで)よく手伝うね』と言われたんです。わたしは『いや、好きだから手伝えるんだけどね』と答えました。野菜の泥がついたりするので、汚い印象があるのかな。わたしは、野菜の旬を肌で感じられて、たくさんの人と触れ合えるこの仕事が、本当に好きなんです」

日本産の食品を広げたいとJETROの日本産食材サポーター店の認定も取得。

お店に立つことで、お客さんだけでなく、周りのお店の人々とも顔馴染みになった。店内では、お客さんが子どもと遊んでくれるし、外を歩けば「(子どもが)大きくなったね」「(日本語で)こんにちは!」など地元の人に声をかけられる。それは磯部さん自身が、この地域に根付いていることの証拠でもある。
「スーパーと違って、お客様と対話ができるのが小売店の強み。八百屋の仕事はまだ勉強中ですが、調理法や野菜についてたくさん発信していきたい。いちごやりんご、なんでも香港にあるけれど、まだ香港未進出のこだわりの農家さんや、これはおいしい! というものを、今後は紹介していきたいです」

「人との縁を通じて、手探りで少しずつ前に進んできました。まさか香港で八百屋のお嫁さんになるだなんて、自分でも驚きの人生だけど、何かに導かれてこうなったような気もします。八百屋の縁に感謝です! 」

 


 

(番外編)知っていました?ローカルの八百屋さんのお仕事ルーティーン

香港の八百屋さんの朝は早く多忙なため、「周記蔬菜」では家族で仕事を分担している。

3am 叔父 卸市場へ向かい、その日に売る野菜を選ぶ。
(電話注文で済ませず、目利きで野菜を仕入れる小売店は少ないそう)

4am 義父 前日冷蔵庫へしまった野菜などを、陳列。

5am 叔母 卸市場へ向かい、その日に売るフルーツを選ぶ。

6am 叔父 市場から買って来た野菜を店の中へ搬入。
義母 買って持ってきた野菜をチェック。叔父さんと値段を決定。
義母 従業員と共に小分けにつめたり、きれいにカットするなど商品を整え、商品陳列。

7am 開店! お客さん対応。途中、野菜の補充、陳列も。

10am Sumさん 全ての在庫を確認し、事前注文が必要な野菜を注文する。

5pm Sumさん 再度全ての在庫を確認し、追加の事前注文があるかダブルチェック。

7pm 閉店・片付け

8pm 帰宅

 


 

〈磯部さんに3つの質問〉

Q1 お店では無料でネギをもらえると聞いたのですが。
はい、小ネギ(葱)をサービスするお店が多いです。ネギが欲しいなというときは
「チョン ンーゴイ!」って言ってみてくださいね!

Q2 良い品物を置いている八百屋さんの見分けかたは?
例えばクレソン(西洋菜)など、傷みやすい葉物野菜がキレイで、食べてみて柔らかいと感じたら、お野菜が新鮮な証拠。そのお店は、信頼できると思います。

Q3 ローカルの八百屋さん初心者におすすめのお野菜は?
小さなほうれん草(菠菜)は、苦味もなくおひたしやベーコン炒めなど、使いやすいですよ。白いコーンも甘いのでおすすめです!

身の色が白いコーンは、小さなお子さんもかぶりつく甘さ!

 

 

 

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