2021/11/11


家族とともに英国から香港に越してもうすぐ1年の杏さん。相変わらず、初めて見る広東語(中国語)への驚きと妄想が止まらないようです! 次々と繰り出される杏さんの「妄想解釈」をご紹介します。

ある日、湾仔にて友達と一杯飲んだ帰り。地下鉄へと続く地下道を歩いていると、ツルツルの胸元をはだけ、ピンクのジャケットを羽織った若者が髪の毛をかき上げながらわたしに熱い視線を送っているではありませんか!そしてわたしとバッチリ目のあった彼が自信たっぷりに何か語りかけてきました。

『宇宙級爆髪!』

世界の祭典、オリンピックが東京で開催されている最中でしたが、このイケメンは「世界レベルを超え、宇宙レベルで爆髪するんです」と私に豪語します。そして彼は続けます。「言うなれば、実験中、手に持ったビーカーが爆発してしまった時の博士のモジャモジャ頭くらいになります。あなたは日本人ですか? でしたら、高木ブーの雷様と言えばわかりやすいでしょうか。髪の毛にあれくらいの盛り感が出ます」と。そして広告の真ん中上部を指しながら最後に「盛って盛ってそこは髪森、もうヘアがフォレストになるんだぜ!」とルー大柴風に決めてきました。

でもちょっと待ってください。ほろ酔い加減のわたしにも気になることが二点あります。まず一点目、真ん中ちょっと下にお客様満足度のことかと思うのですが黄色い文字で『満意度高達』とあり、その横の数字が、79%!「緑生い茂る森に出かけたはずなのに、結構森林伐採が進んでいてがっかりしたよ」という感じの数字に見えるのは私だけでしょうか!?

気になること二点目。二枚あるうちの右側の施術後の写真。宇宙級爆髪というより……全然普通! むしろ地肌もまだバッチリ見えてるし!
というわけで『宇宙級爆髪』および『髪森』という表現はどうでしょうか、日本だと消費者庁あたりから誇大広告の注意を受けるかもしれない、とちょっと心配になりませんか? でも皆様、ご安心ください。ここは香港です。唐代の詩人、李白が『長年の悲しみの果て、私の髪は真っ白にそして9000メートル(香港からミュンヘンまでの直線距離!)にも伸びちゃったよ』と謳う『白髪三千丈』の文化圏ですから、ちょっとした増毛を『宇宙級爆髪』と例えることくらい全くモーマンタイ(冇問題)! 誇大広告の自由は完全に保障されている模様です。

ちなみに、これ『爆発』の『発』(香港では『發』と書きます)を同じ発音の『髪』とかけているの? と疑問に思ったので広東語の先生に聞いてみましたところ、やはり広東語でも『発』も『髪』も『ファッ』と発音し、この広告はわたしの予想通り、文字遊びをしたものだそうです!

さて、その後の広東語レッスンで、体型や髪型の表現についてのレッスンがあり、ついででしたので禿頭はどのように表現するのか聞いてみたところ、先生は「二種類あります。一つ目はこちら」と言いながらホワイトボードに向かって、まず漢字で『光頭』と書かれました。クラスの中で一人漢字の読める私は思わず『おおぅ!』という驚きの声をあげて、こちらを向いた隣の男子に「シャインヘッドだって!」と告げると、彼もまた「オオゥ!」と驚きに満ちた声をあげました。先生は私たちの驚嘆の声を意に解する様子もなく、いつもの調子で「二つ目はまだ耳の上あたり等に髪の毛が少し残っている状態で『禿頭』です」と淡々とそして丁寧にイラスト入りで解説してくださいました。

「先生、日本では頭髪が薄くなった時、バーコードヘアという手段があるのですが、香港にも存在しますか?」と聞いてみますと、残念ながら、答えは『冇』(モウ、『無い』の意)でした。せっかくのいい機会でしたので、わたしは日本が誇るバーコードヘアの画像をクラスメートに披露しておきました。

さて、髪型といえば、先日1800年代の香港の写真を見ていたら辮髪姿の男性が写っているものを数点発見しました。

Credit: Chinese tea-house, Hong Kong. Photograph by John Thomson, 1868/1871

辮髪とは、キン肉マンでお馴染みのラーメンマンもしくは、香港映画『霊幻道士』に出てくるキョンシー(殭屍)がしている、あの前頭部をごっそり剃り落とし、後頭部の髪を伸ばして後ろに長く三つ編みにしてある、あのスタイルです。香港の人に話を伺うと、数人から「あぁ清装頭のことね」と言われました。

なぜそのような表現なのかと言うと、もともと辮髪は映画『ラストエンペラー』で有名な清王朝(1646―1912)を作りあげた中国東北地方の満州族の髪型であるからです。清朝時代に香港を含め支配下に置かれた地域の男子は皆、王朝への服従の証として、強制的にこの辮髪にさせられたとのことです。

ただ香港は清朝の滅びる70年もの前、1842年から英国の統治下に置かれ『清』の支配下でなくなっていたにも関わらず、その後も人々は辮髪を続けていたようです。邱永漢の著『日僑の時代』に英国の植民地統治について「香港やシンガポールに住む中国人が弁髪(辮髪)や中国服を着ても、それをやめて断髪にしろとかセビロを着ろとか強制しなかった」との記述も見られることから、1800年代後半の香港人は自分の意思で辮髪をしていたのではないかと思います。……最後の方は結構気に入っていたのですかね、あのどう見ても奇抜なヘアスタイル? ちなみに、辮髪は辛亥革命による清国の滅亡と共に廃れていったそうです。

はてさて、話を現在に戻しましょう。わたしは香港男児というものは、頭部の『不毛地帯』など意にも介さず、日々朝から点心やら出前一丁やら脂っこいものをしっかり食べ、人目を憚らず大きなゲップを吐き、細い体でもすごく力持ちで、いつも一生懸命働くエネルギッシュで豪快な人々だと勝手に思っていたのですが、今回この広告を街中で見かけるにあたり、彼らも案外見かけを気にするのだな、と香港の新たな一面を発見した気がいたしました(でも人間の魅力は髪の有無ではなく、清く美しい心の有無で決まると私は確信していますけどね!)。

皆様もお出かけの際は、是非ツッコミどころ満載の広告に目を凝らして歩いてみて下さいね!

ではまた次回!


小林杏 (Anne Kobayashi)


東京都出身、青山学院大学仏文科卒。ニュージーランド、日本、フランス、英国での就業経験あり。ロンドンでの出産子育てを経て、2020年に来港。今まで住んできた土地のように、香港も愛おしい場所となりつつある今日この頃。趣味は読書、舞台芸術鑑賞とカンフー映画鑑賞。

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