2023/12/20

「Hong Kong LEI – Cover Story」は、香港でがんばる人をご紹介するシリーズ企画です。当記事は、健康と食の安全をお届けする Tasting Table Japan Premium より当企画への賛同と協賛をいただき制作しています。



日本の伝統美と手工芸の楽しさを広めたい


目次

〈雅号をもつ木目込み人形制作者〉
〈師匠を追いかけて日本へ〉
〈自分の手で作る喜びを広めたい〉
〈ブランドンさんに3つの質問〉


〈雅号をもつ木目込み人形制作者〉

子どもの健やかな成長を願って節句ごとに飾られるお雛様や五月人形。その日本古来の優美な人形に「木目込み人形」と呼ばれる種類がある。人形を作る工程で、木製の胴体に彫られた溝へ布端を押し込む(木目込む/きめこむ)作業があり、それが名称の由来だという。約280年前、京都の上賀茂神社から始まった木目込み人形は、江戸に伝わり、「江戸木目込み人形」として伝承された。1978年には日本の伝統的工芸品に指定されている。

そんな木目込み人形に魅了され、15年間技を磨き続ける人が香港にいる。「真由洸(まゆひかり)」という雅号をもつブランドン・ヤンさんだ。ブランドンさんは、9年前に木目込み人形の教授資格を取り、香港で日本の伝統工芸を知ってもらおうと活動してきた。今年、その実績と制作技術が認められ教授資格が昇級、雅号が授与された。

「木目込み人形は、ちりめんや西陣織などの美しい布を利用して作るのが面白く、日本独特の素晴らしい工芸品だと思います。作り手としては、作品によって違う難しさがあるので、まだ勉強が必要です。自己研鑽が一番重要だと思っています」と日本語で語るブランドンさん。外国人の視点を持ちながらも、その工芸品に精通した作り手として雅号を持つ稀有な存在だ。

既製のボディ(人形の原型)にヤスリをかけ、表面を滑らかにしてから布の木目込み作業に入る。
「手に力はあまり入れずにヘラで布を溝に入れます。初めての方は力んで手が疲れてしまうようです」とブランドンさん。

〈師匠を追いかけて日本へ〉

ブランドンさんが初めて「木目込み人形」という言葉を耳にしたのは香港でだった。
20代で日本に5年住み、香港に戻ってから日系企業で忙しく働いていたが、これからは大卒以上の学歴が必要だと感じていたという。2007年に香港理工大学大学院が香港で初めて日本語の修士(碩士)課程を導入したと知り50歳で入学。講義後に日本文化について語り合っていた際、先生から「木目込み人形」という言葉を聞いた。どんな人形なのか興味が湧いたブランドンさんは、先生の紹介で木目込み人形を香港で教えている日本人を訪ねた。それが上賀茂流真多呂人形(※)教授の石川真睦子先生だった。石川先生が作った木目込み人形を初めて見た時、「綺麗だなぁ!」と一目で気に入り、作り方を学びたいと思ったという。

動きのある人形は袖や裾の曲線部分が多くなり、木目込み作業の難易度が上がる。

昔から美術品や手工芸品が好きだったというブランドンさん。父が内装工、母はミシンで服を作り、兄は彫刻師という物作り一家に育ったことも影響しているのだろう。木目込み人形制作を石川先生のもとで始めて、自らの手で作る楽しさを味わい、みるみる引き込まれていった。

半年経った頃、石川先生の作品展示会があり観に行った。ずらりとならんだ色とりどりの華やかな人形たち。品のある優しい顔に日本の伝統を感じさせる衣装。ひとつひとつの作品から伝わってくる手仕事の温もり。木目込み人形の世界に感動したブランドンさんは、石川先生に「わたしの目標は木目込み人形の先生になることです」と宣言したという。

教授資格を取るため5年ほど石川先生に師事し制作に励んでいたが、先生が家族の事情で日本に帰国することになりレッスンが中断。香港で木目込み人形を習えなくなった。一時は他の手芸に目を向け、ヨーロッパ風イギリス刺繍を学んでみたが、木目込み人形の先生になりたいという想いが諦めきれなかった。そこでブランドンさんは日本にいる石川先生に何度もメールし、「日本に行きますから、ぜひ続きを教えてください」と懇願し続けた。
教授コースを修了するまでに残り3ヶ月のレッスンが必要だったが、ブランドンさんにとって日本滞在はハードルではなかった。始めは首を縦に振らなかった石川先生もブランドンさんの熱意を受け入れた。石川先生はかつて、「香港で長らく木目込み人形を教えていたけれど、男性の生徒はあなただけ」と珍しがったというが、まさかその彼が日本にまで教えを請いに来るとは思わなかっただろう。ブランドンさんは東京で部屋を借り、3ヶ月間、週6日の集中レッスンを受け、2014年の春、念願の教授資格を取得した。

 

〈自分の手で作る喜びを広めたい〉

木目込み人形の制作中には、「日本の伝統美学の空気を浴びている」感覚になり、「自分で人形を作りながら仕立屋にも着付師にもなれる」と魅力を語るブランドンさん。資格を取得してからは、香港で自身の教室を持ちつつ、「香港人にこの伝統文化をもっと広めたい」と、日本に関わる学校や団体のイベントで初心者向けの体験講座を行ってきた。

「得意不得意もあるけれど、完成したらみんな大喜びします。大人も、子どもみたいに喜ぶ。その瞬間、歳を感じさせません。手芸は童心を保つために良いですよ。“保持童心”。だから、わたしも若いでしょ?」と茶目っ気を見せるブランドンさん。木目込み人形を作る喜びに加え、生徒たちが童心にかえる瞬間が見られることも、喜びの一つなのだろう。
今後の目標は、教授資格取得を目指して学んでいる生徒たちとともに作品展示会を開くことと、香港の中学、高校でも体験講座を受け持つことだという。
「香港の子どもたちに日本の人形文化を教えたいです。自分で勉強したことをずっとポケットに入れて握っていても意味がないでしょ? 良い作品を見せて、作り方を教えて、手で作る喜びを広めたいです」

 

※上賀茂流真多呂人形は、江戸に伝わった木目込み技術に創意工夫を加え、1919年に初代金林真多呂が完成させた人形。真多呂人形学院が教授資格や雅号認定を行っている。

〈ブランドンさんに3つの質問〉

Q1 木目込み人形の制作工程の中で、どこが一番好きですか?

布を木目込む前のボディ(人形の原型)を修正する部分が好きです。桐塑(とうそ)で作られたボディは、真多呂人形の既製の型がありますが、ヤスリなどで滑らかにしてから木目込み作業をしないと最終的に完璧な作品にはなりません。その修正時に元の造形を一部変更することもできます。作者の創作技術を活かせる部分なんです。

既製の型の帯部分をヤスリで削り、桐塑(桐粉に正麩糊を混ぜたもの)を塗って修正。ブランドンさんが蝶結びにアレンジした。

 

Q2 雅号「真由洸」はご自分で考えたのですか?

はい。わたしの名前は「油光」ですが、油っぽいよりは瑞々しい光の方が印象が良いでしょう? なので、「油」の部首のさんずいを「光」に移動させました(笑)。

 

Q3 11月に雅号授与式典出席のため京都に行かれたそうですが、観光はしましたか?

西陣織会館に行きました。毎回京都に行くといろいろな布を見つけて、買いたくなってしまいます。でも家にいっぱいストックがあるので妻は、「買いすぎ!」と言います(笑)。

2023年11月に京都の上賀茂神社で行なわれた真多呂人形学院の雅号授与式典にて

 

 

 

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