2024/10/20

マイオフィスカフェ Tasting Table My office cafe

「Hong Kong LEI – Cover Story」は、香港で輝いている人をご紹介するシリーズ企画です。当記事は、健康と食の安全をお届けする Tasting Table Japan Premium より当企画への賛同と協賛をいただき制作しています。


香港でも日本でも、「中国茶が好き」をシェアしたい

朝顔堂 https://www.instagram.com/asagaodoutea/

聞き手:大西望
編集:深川美保


〈目次〉

〈香港の山の風景とアートに囲まれた茶室〉

〈20年のお茶屋勤め。その間にアートに出合う〉

〈お茶が好きだった頃の気持ちが戻った〉

〈AKEIさんに3つの質問〉


 

〈香港の山の風景とアートに囲まれた茶室〉

近年、芸術推進エリアとなっている香港島南部の黃竹坑。その中心的存在のビル「Landmark South」の中に、中国茶とアートを楽しむ空間「朝顔堂」がある。200㎡ほどある広々とした一室は、手前がアートギャラリー、奥がお茶の試飲や販売スペースとなっている。大きな窓の外には香港の空と雄大な山が見える。

写真手前が「GALLERY NYOZE HONG KONG」、奥が「朝顔堂」。中央に置かれたオブジェは、竹工芸家の四代田辺竹雲斎氏の作品で、AKEIさんの私物。世界的に活躍する中国書画家、婁正綱氏の作品にも見事に調和している。

「お客様に自然やアートを見ながらお茶を飲んで落ち着いてもらいたいと思って。香港でこの環境はなかなかないでしょう? だからここに決めました」日本語でそう語るのは「朝顔堂」オーナーのAKEIさん。20年以上、中国茶の輸入や販売に携わっている。2023年10月に、念願の茶空間をオープンしてちょうど1年経った。

たくましくも可憐な野花の朝顔が好きで、店名を日本語の「朝顔堂」にしたという。日本への留学経験があり、その後も日本との関係を深めてきたAKEIさんならではの命名だ。

「朝顔堂」は、2000種類以上あると言われている中国茶の中から、季節に応じて厳選したものを提供。棚にはAKEIさんが10年かけて蒐集したアンティークの茶器類が陳列されている。

アートギャラリーに飾られているのは、日本を拠点として世界的に活躍する中国書画家、婁正綱(ろうせいこう)氏の作品。AKEIさんは婁氏と中国茶を通して親しくなり、現在は婁氏が運営する「GALLERY NYOZE HONG KONG」の管理も任されている。AKEIさんがもてなす中国茶とアートが出合う空間、それが「朝顔堂」だ。

〈20年のお茶屋勤め。その間にアートに出合う〉

AKEIさんのお茶好きは小学生の頃から。家で父親が使っている大きな魔法瓶には、いつも茶葉と真っ黒な液体が入っていて不思議に思っていたという。

「これは何だろう? と飲んでみたら、これおいしい、お水より好き! と思ったんです。あの時のお茶はたぶんプーアル茶。それからずっと好きでお茶を飲んでいます」とAKEIさん。ジュースや冷たい飲み物よりも温かいお茶を好む子どもだったという。

プロとして中国茶の世界に入ったのは、出版社、飲食店勤務を経て、大手中国茶専門店に入社した時からだ。それから20年以上、店舗の運営、お茶の仕入れ、鑑定、接客などのあらゆる業務に携わった。

短期間で転職するのが一般的な香港で、勤続20年は珍しい。長く勤めてこられたのは、ひとえに「お茶が好き」という気持ちからなのだろう。

「中国茶の歴史、製造方法や産地、品種など学ぶことがたくさんありました。接客も学びが多かった。お客様によって好みも違うし、いろいろな国の方と中国茶の話ができて面白かったです」

テーブルの端に置かれた季節の花。毎月、AKEIさんの友人が、朝顔堂のイメージに合わせてアレンジをしてくれるのだという。

また、お茶屋勤めで、「お茶が好きな人は、茶器やアートにも造詣が深い人が多い」ということに気づき、お茶周辺の美術品についても学ぶようになった。この頃からアートにも興味を持つようになった。

勤務して5年ほど経った2007年から約10年間は、ビンテージの中国茶を投資買いするのがブームだった時期。お茶の価格は高騰し、商売も繁盛したという。

プロ意識の高かったAKEIさんは、忙しい中でもお客様それぞれに合う良いお茶をお勧めしてアフターフォローも欠かさなかった。お客様からの信頼が厚く、長いお付き合いの人も多い。セールスに自信はある一方で、「お客様がたくさん来て、ただ買う、売る、を繰り返しているうちに、疲れてしまった」という。自分の中の「お茶が好き」という純粋な気持ちが薄らいでいく気がした。

そんな中で、お客様の1人として出会ったのが先述の書画家、婁正綱氏。世界中がコロナ禍で行動制限があった頃、メッセージを送り合いながら、お茶やアートの話、心の迷いなども話す仲になった。そして、アートとお茶との親和性の高さを再確認した。

プーアル茶を吟味するAKEIさん。20年熟成を続けるというプーアル茶は、ワインやアートのようにオークションで取引されるほど価値が置かれている。

〈お茶が好きだった頃の気持ちが戻った〉

実は香港の「朝顔堂」より数年前に、東京に「朝顔堂」をオープンする計画があった。大学時代に留学した日本で人脈を広げ、特にホームステイした宮崎県では、「日本の家」と呼ぶほどに親交を深めた農家がある。中国茶を通じて日本と香港の橋渡し役になろうと、宮崎県の茶畑や台湾にも足を運び、「朝顔堂」の仕入れ準備などはできていた。しかし、コロナ禍となり計画は白紙に。

それからしばらくして、偶然にも日本在住の婁氏から「もし香港に場所があるなら、一緒にギャラリーをやらない?」と打診があった。そこで、自分が実現したい茶空間の計画を相談し、ビジネスパートナーとして場所を共有することになった。

こうしてできた「朝顔堂」は、香港の風景と婁氏の壮大かつ静謐な画に囲まれ、AKEIさんが本当においしいと思う中国茶を淹れ、あじわう空間になった。この空間をお客様とシェアし、一緒に「素敵だね」、「おいしいね」と心を通わせることで満足感を得られるという。

「この場所ができて、お茶が好き、人との会話が楽しい、そういう自分の純粋な気持ちが戻りました」と穏やかな表情で語った。

20年の経験に裏付けされた中国茶の知識を日本語で伝えられる貴重な存在のAKEIさん。将来的には、やはり「朝顔堂」を東京に展開したいそうだ。

「日本は茶畑があり、緑茶が良質です。一方で、中国のように大きな古い樹からできる大葉種はないと思うので、日本でも色んな中国茶の味を楽しんでもらいたいです」

AKEIさんの中国茶愛は、朝顔のつるのように日本へと広がっていく。

「朝顔堂」の2019年成立記念餅茶(プーアル生茶)

 


〈AKEIさんに3つの質問〉

Q1 お休みの日はどんな風に過ごしていますか?

小さい頃から本が好きで、今もよく読みます。各国文化やビジネスの本を読むことが多いです。稲盛和夫など創業者の考え方や生き方に興味があります。日本旅行も毎年行きます。温泉が大好きなので日本の温泉地はだいたい行っています。

AKEIさんが「日本の家」と親しみを込めて呼ぶ宮崎県の農家で稲刈りも経験した。

 

Q2 朝顔堂をオープンするまでで大変だったことはありますか?

オープンした2023年は夏に台風が立て続けに来たんですよ。しかも全部土日に来て(笑)。週末にしかできない大型工事が台風の影響で何度も延期になって、結局2ヶ月くらいオープンが延びてしまいました。

 

Q3 おすすめの中国茶は何ですか?

秋から冬にかけては身体を温めるお茶が良いですね。プーアルの熟茶(微生物発酵した茶色い葉のもの。日本で一般的なプーアル茶)に金木犀を少し入れて飲むのがおすすめです。金木犀は胃を温め、香りも味も良くなります。台湾の老欉(樹齢が古い茶樹)紅茶、アッサム紅茶もおすすめです。

 

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