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2025/05/20

「Hong Kong LEI – Cover Story」は、香港で輝いている人をご紹介するシリーズ企画です。当記事は、健康と食の安全をお届けする Tasting Table Japan Premium より当企画への賛同と協賛をいただき制作しています。


ワークショップは人と人をつなぐ場所なんです

Yuki’s Table: https://www.instagram.com/yukistablehongkong/

聞き手:紅磡リンダ
編集:野津山美久


〈目次〉

〈山奥にある人気ワークショップ〉
〈ワークショップを支える2つのパラダイムシフト〉
〈ワークショップはコミュニケーションの場〉
〈Yukiさんに3つの質問〉


〈山奥にある人気ワークショップ〉

香港で最も広く読まれている英字新聞「South China Morning Post」。この新聞のライフスタイルセクションで紹介され、「料理というよりはアートのよう」と絶賛された家庭料理を学ぶワークショップを主催しているのが、 Yuki Yamagishiさんだ。

ワークショップの会場は香港の中心部から離れた新界、西貢。その街中からさらに車で10分ほど細道を入った場所だ。ここはYukiさんの自宅でもある。

開催を発表すると即座に満員御礼となる大人気のワークショップ。10年来のリピーターという顧客も多いとか。写真はラグジュアリーなライフスタイルを提唱するコンセプトスペース「House of Madison」で行われたワークショップ。

Yukiさんが朗らかな笑顔で招き入れてくれたキッチンからは、豊かな緑が限りなく続く山々が見渡せる。室内には、さりげなく置かれたフラワーアレンジメント、作家物のテーブルウェア、品のあるテーブルセッティング……時折耳に入る鳥のさえずりもBGMとなり、リラックスした空間を演出している。Yukiさんは、自らの感性に従って、香港のみならず海外に飛んで、評判のレストランで食事をしたり、ワークショップの集中講座を受講したりする。Yukiさんの自宅は、時間やお金を惜しまず、自らのセンスを磨き続けている証のような、上質な空間だ。

香港の英字新聞SCMPが「アートのワークショップのよう」と表現したYukiさんのワークショップの会場である自宅のリビングスペース。

もともと、仕事が大好きだったYukiさん。しかし、結婚、出産、海外移住というライフステージの変化の中で、職場を離れざるを得なかった。仕事への想いを抱きつつ、何をしたらいいのかと悶々と悩んでいた頃、子どものために作ったケーキや友人にふるまったディナーなどを「教えて欲しい」と請われるようになり、ワークショップを始めることを思い立った。

今では、数カ月先まで予約が埋まるほどの人気を集めるYukiさんのワークショップ。しかし、彼女がここに辿りつくまでには、2つの大きなパラダイムシフト(既存の価値観の変化)があった。

子どもの誕生日のためにつくっていたケーキが、ワークショップのきっかけとなった。

〈ワークショップを支える2つのパラダイムシフト〉

「ワークショップで自分が教えていることは、母の背中を見て学んだこと」と語るYukiさん。シフトの1つ目は、厳格な母を理解し、母から受け継いだものを認めたことだった。

「若い頃は、伝統的な価値観を押し付ける母に反発を感じていました。母の説く保守的な道ではなく自分の道を歩みたいと思い、家出同然でイギリスへ留学したのです」

少女時代のYukiさんとご家族。父親に抱っこされているのがYukiさん。

母に対するわだかまりが解けたのは、留学を終えて帰国してからだった。英語を使った仕事に就いたYukiさんが楽しそうに働く姿を見て、母が「留学、行って良かったわね」と言ってくれたのだ。その言葉でYukiさんは、母が母なりの価値観で娘の幸せを望んでいたことがわかったという。また、母がインテリアや料理の才能に恵まれつつも、時代や置かれた環境により、その才能を発揮できなかったことにも気づいた。Yukiさんはそんな母を敬愛し、母から学んだことを今、ワークショップで伝えている。

大学を卒業後は航空会社のグランドホステスとして働いていた。

パラダイムシフトの2つ目は、夫との関係の再構築と「完璧にできてこそ良い母で妻」という自らの固定観念からの解放だった。

カナダ人の夫は、妻には企業のパート勤務をしながら子どもや自分のサポートをしてほしいという考え方だった。

「わたしも成功するかわからない挑戦なので、強くは言えませんでした。しかも自分のビジネスのために夫の稼ぎは使いたくなくて、平日の週2日のみワークショップを開催して、独学しながら子育てに家事にと必死でした」

Yukiさんは仕事と家事の重圧に押しつぶされそうになり、いつしか夫婦の間には亀裂ができた。「仕事を辞めれば……」という考えも浮かんだが、彼女はそれを振り払い、マリッジ・カウンセラーを仲介に夫婦で徹底的に話し合うことを選択。ここで気づいたのは、Yukiさんの仕事に対する夫の理解不足と、自らが頑なな考えに縛られていたことだった。

料理レッスンの準備に加え、家庭のことも全て1人でこなしていたという。

「いつの時代も、特に日本では、母親たちは『完璧にできてこそ良い母親』というイメージに苦しめられてきたと思います。でも、女性にもやりたいこと、こうありたい自分像があります」

夫には、自分の仕事に対する情熱をことあるごとに伝えた。想定給与などの数字や家族のライフスタイルへの影響なども噛んで含めるように説明し、夫の理解を深めることに努めた。そして、家事もヘルパーに助けてもらうようになった。

仕事と家庭を両立するためには、家事をアウトソースすることは当たり前。罪悪感を感じることはないと、そう学ぶまでには本当に長い時間がかかったというYukiさん。

「他人の評価や意見に振り回されず、自分を信じて進むことが大切だと思います。夫との関係も長い旅の中で、お互いのやりたいこと、こうありたい自分を尊重し合い、サポートできるようになったと思います」

ワークショップのプランから材料の買い付け、テーブルデザイン、後片付け……これを週に3、4回のレッスン分繰り返すという大忙しのYukiさん。しかし、レッスンには常に落ち着いた癒しの空気が流れている。

今、Yukiさんを支えているのは、生み育ててくれた家族と、自分で築いた新しい家族。衝突を乗り越えて、分かち合うことを教えてくれたこの二つの家族が、彼女のバックボーンとなっている。

〈ワークショップはコミュニケーションの場〉

Yukiさんのワークショップの正式名は「Yuki’s Tableライフスタイル・アトリエ」。

「料理を教えるだけではなく、参加者にテーブルセッティング、出来上がった料理を囲んだ団欒までのプロセスを楽しんでもらう空間なんです」

Yukiさんはそのプロセスをアシストする役目を担い、知らない人同士をつなぐ。ここはコミュニケーションの場なのだ。

料理を作って、美しく盛り付けた後の「乾杯」。団欒までがYukiさんのワークショップ。

Yukiさん夫婦は結婚後、2人の子どもと共に居を構えた西貢に10年以上暮らしている。フレンドリーでオープンな西貢のコミュニティーの一員として、街を歩けば、近所の人たちと「元気?」「今日は暑いね」などと声をかけ合う。

「こういったちょっとしたおしゃべりで、一日がとてもハッピーになるんです」

この地が、Yukiさんに「コミュニケーションの大切さ」を教えてくれたという。

考えを分かち合い理解することのよろこびと、日々のコミュニケーションから得るハピネス。二つの大切な家族と西貢という街からパワーを受け取るYukiさん。彼女が発する燦然としたエネルギーに、ワークショップの本当の魅力があるのかもしれない。

 


〈Yukiさんに3つの質問〉

Q1 香港の料理をワークショップに取り入れるとしたら?

以前は旧正月レッスンとして小龍包などを子ども向けにやったことがあります。今はあまりやっていませんが、ローカルなものですし、もっと作りたいですね。大根餅なんていいかもしれません。

 

Q2 普段、家族の食卓には何が並びますか?

普段から和食を作るようにしています。とにかく野菜をたくさん食べてもらえるように、と考えているので必然的に和食になります。時間がない時は洋食になります。シンプルなので。

 

Q3 香港でおすすめの過ごし方はありますか?

まずは美術館巡り。実は香港の美術館はレベルが高いと思うのです。そして、カフェ巡り。コロナの後ぐっとカフェの数が増え、いいカフェも増えました。ハイキングはおすすめですね! すぐできる環境なので。もちろん、西貢はビーチもハイキングもあるのでいいですよ!

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