2024/03/16

大東和重先生プロフィール:1973年兵庫県生まれ。比較文学者(日中比較文学)。関西地方の大学にて教授職。2023年4月より香港教育大学に訪問学者として滞在。1年間の在任期間、香港小説、香港関連書を読みつくし、香港の隅々まで歩きつくした。翻訳された海外の短編小説を毎回1編読んで語りつくすPodcastも更新中。

Podcast : 翻訳文学試食会 Apple Podcasts, Spotify

聞き手:深川美保(編集部)

 


このコラムは4回に分けてお送りします。
👉第1回 まずは読んでみて!香港人が描く香港小説2選
第2回 文学研究者のボクが唸った香港小説2選
第3回 美しい香港食エッセー&元祖散歩学エッセー
第4回 もっと香港がわかる! 学術系ブック3選


大東先生、研究のため香港に1年間滞在中!

編集部:大東先生は、2024年3月までの期限付きで香港教育大学にいらしてるんですね。

大東先生:そうです。わたしの専門は比較文学比較文化といいまして、主に日本文学と中国語の文学との関係について研究しています。この十年近く、台湾の日本統治期の文学について研究してきましたが、香港の文学について研究する人が少ないのを残念に思っていて、それならいっそ自分がと、訪問学者という形で滞在を決めました。

編集部:香港を知るために、香港に関連した本をずいぶん読んだそうですね。

大東先生:はい、「香港」と名の付く書籍はできるだけ買って読むようにしています。また、香港にいる間はこの土地に住む人々の生活と文化に触れたいので、なるべく多くの土地を訪ねるようにしていまして、大変忙しくしています(笑)。

 

元宵節の新界を歩く大東和重先生(写真左)と学生。

 

編集部:ここでは、Hong Kong LEI読者のために、日本語で書かれた本、日本語訳された書籍から、選りすぐりの数冊を紹介していただきます。よろしくお願いいたします。

 

誰もが楽しめる『辮髪のシャーロック・ホームズ』

(書籍情報)『辮髪のシャーロック・ホームズ 神探福邇の事件簿』莫理斯 (トレヴァー モリス) 著 / 舩山むつみ 翻訳 / 文芸春秋 / 2,200円(税込)

 

大東先生:香港を楽しめる本としてまずあげたいですよね。オールド香港を求めて読むなら、まずこれを読みましょうよっていう小説です。見たことのある、歩いたことのある地名が出てきますから、結構興奮しますよね。

編集部:コナン・ドイルの『シャーロック・ホームズ』の世界を、原作と同じ時期、20世紀初頭の香港に舞台を置き換えた作品です。作者は、Hong Kong LEI Cover Story でもご紹介した、トレヴァー・モリスさん。香港で生まれ育った方です。

大東先生:日本人も、小さいころから映画やドラマなどで『シャーロック・ホームズ』に触れる機会が多いので、本作の舞台設定に入り込みやすいという利点があると思います。モリスさんは、シャーロキアンとして腕が確かな人ですね。なので、例えば『紅毛矯街』という短編を読むと、子どもの頃とかに原作を読んだことのある人は、「あ、『赤毛同盟』を下敷きにしてるな」と、記憶がよみがえってくると思うんです。英国領だった当時の雰囲気も味わえる。いいですよね。

編集部:現在、中国語版は3巻まで刊行されていて、日本語訳は続編の発売が決定しているそうです(2024年3月現在)。中国語版はもう出ているわけですから、言っていいと思いますが、2巻目から登場するホームズの宿敵「モリアーティ」に匹敵するキャラクターは、本作では日本人なのだそうです。

大東先生:ああ~そうですか。当時も今も、日本人を含めて外国人はちょっとエキゾチックな印象なんでしょうね。

 

香港人による香港小説『世界を売った男』

(書籍情報)『世界を売った男』陳浩基 著 / 玉田誠 翻訳 / 文芸春秋 / 1,149円(税込)

 

編集部:著者の陳浩基さんは日本語訳されている香港人作家さんの筆頭ですね。『13・67』という小説も売れました。

大東先生:『13・67』も傑作ですが、『世界を売った男』は入門としていいですね。わたしの印象だと、日本や台湾の推理小説、探偵小説の作家たちが、自分たちが住む土地を舞台として描くのに対抗して、陳さんは、自分は香港を舞台として書くんだっていうかなり強い意志を持ってると感じますね。

香港と聞いてすぐ思い浮かべるような、キャッチーな場所だけじゃないのがいいです。新界(ニューテリトリー)を含めて、香港人にとっての生活の場がそのまま舞台なので、香港人の土地勘に触れられます。

編集部:英語にも香港を舞台にした小説はありますが、主人公は香港島に住んで、コスモポリタン的な生き方を模索するような世界観が多いと感じるので、それと対照的ですね。

大東先生:へえ、そうですか。なるほどな。よく考えてみたら、多くの香港人は郊外の集合住宅で育っていますからね。団地やマンションで育った世代の人たちと、香港の見え方が全然違うということですよね。そういえば、陳さんの小説は家族の物語が多くて、警察も一種の家族のように書いている感じがします。香港という共同体がどういうものなのかが小説を通して見えてきますね。

編集部:次回は、日本人が書いた香港小説の傑作を紹介していただきます。

大東先生:香港を舞台にしていて、日本語で書かれた小説は、わたしが知ってるだけで20冊以上はあります。そのうち15冊くらいを読んだところですが、大きくその特徴をまとめてみますと、大きいカテゴリーのひとつは、あの~、観光小説が多いなと感じるんです。つまり、ね…(続く)

 

編集部:次回は、『文学研究者のボクが唸った香港小説2選』をお送りします!

 

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