2023/04/20

Tasting Table Japan Premium

「Hong Kong LEI – Cover Story」は、香港でがんばる人をご紹介するシリーズ企画です。当記事は、健康と食の安全をお届けする Tasting Table Japan Premium より当企画への賛同と協賛をいただき制作しています。


「中国茶と、人生をかけて関わっていきたい」

 

 


(目次)
〈中国茶に導かれたかのような人生〉
〈暗黒(?!)の5年間を支えたもの〉
〈お茶には、淹れる人の生きざまが表れる〉
〈ちゃんこさんに3つの質問〉


 

〈中国茶に導かれたかのような人生〉

真っ白な衣に身をつつみ、背筋をのばしたちゃんこさん。スラリとした指でゆっくりと茶葉にお湯を注ぐ。お湯を入れ一呼吸し、やかんを戻す。急須の蓋をそっと置いたら、茶葉がひらく間に茶碗の準備。すべての動作がスムーズ、かつ丁寧で美しい。それを見ていた Hong Kong LEI スタッフの1人は「まるで太極拳を見ているみたいですね」と目を輝かせた。彼女が披露するのは「中国茶藝」。優雅かつ流暢な所作でお茶をよりおいしく淹れて、楽しむための技術であり芸術だ。日本の茶道ほど形や儀式、流派にとらわれないのも特徴で、その分自分らしさが問われるという。

ゆえじちゃんこさんは、香港を拠点に中国や日本を行き来している中国茶ナビゲーターだ。日本では精力的に中国茶会を行い、インスタやツイッターでも中国茶に関する情報を発信している。

彼女の中国茶との出会いは、大学生のとき。北京大学に留学中、お茶の産地である福建省の友人宅でいただいた安渓鉄観音茶が、初めての中国茶だった。

「緑色のお茶だったので緑茶かと思って飲んだら、花のふんわりとした香りがしたんです。烏龍茶だと聞いて驚きました」

そこから、茶葉の多様性や中国茶の奥深さに、どんどんはまっていったちゃんこさん。留学中に中国で茶藝師という資格を取得し、中国茶を体系的に学んだ。日本で就職後は、仕事に忙殺されながらも、なんとか時間を作って中国茶の教室に通ったという。

「今思えば、教室でお茶を淹れて過ごす時間はゆったりリラックスできて、自分を取り戻す大切なひとときでしたね」

その後ちゃんこさんは、縁があって福建省に住むことになるのだから人生っておもしろい。知人の紹介で知り合い、結婚した夫の一族は、烏龍茶を扱う会社経営。会社の本社は福建省だった。
ご自身のブログでは、中国や香港での生活、ご主人との馴れ初めや中国系ファミリーのしきたりなど、かなり具体的に書いている。

「大変なこともありますが、ブログのネタになるから経験しておこうって思っています 笑。そしてブログを読んでお茶会へ来てくださる方もいるので、大事な交流ツールです」

現在は、香港を拠点として子育て中。3歳と6ヶ月の双子の母親でありながら、中国茶ナビゲーターとして、香港や日本で活動している。

〈暗黒(?!)の5年間を支えたもの〉

中国にルーツを持ち、ご自身は香港生まれでオーストラリア育ちという旦那さんと結婚してからは、周りから「早生貴子!(早くお子さんに恵まれますように)」と言われるようになったちゃんこさん。始めは聞き流していたが次第に気持ちが滅入っていったという。
「結婚したら、『あなたは子供を産むのだから何もしないで良いのよ』と仕事もさせてもらえなくて。その後、不妊治療のために日本で暮らすことになったときは、子どもを産むために、夫と離れるの?! と、気持ちがモヤモヤしました」
この時期を彼女は「わたしの暗黒時代」と呼んでいるが、それを支えたのも中国茶だったという。

日本での中国茶席の様子。静かな空気が流れている。

特に印象的だったのが、日本で不妊治療中に、札幌で行った中国茶お茶会。
数名のお客様の前で行うちゃんこさんの茶藝を少し離れたところからじっと見ていた人が、イベント終了後に話しかけてきた。

「納棺師(※)の方だったのですが、わたしが茶藝で意識している点や、所作に込めている想いまで的確に理解してくださっていたんです。その方が言うには、納棺師の仕事も所作は重要で、納棺師のご遺体への接し方によって、ご遺族の表情が変わるほど影響があるとか。立ち振る舞いで、雰囲気や空間を演出する点では、共通するところを感じました。わたしの茶藝も、おいしいお茶をよりおいしく感じてもらうためのパフォーマンス的要素がありますから」

ジャンルの全く違う人と、深いところでわかりあえて、認めてもらえたという経験により、自分の成長を感じたちゃんこさんは「わたしがやってきたことは間違っていなかった! 」と確信。これからも一生中国茶をやっていこうと決意した。

「不妊治療中は、身体だけでなく心も治療に支配されていました。うまくいかない度に、自分が全否定されたかのように落ち込んで。でも、一生お茶と付き合っていこうと決めた後は、なんだか気持ちが吹っ切れたんです。治療は治療として医療に身体をお任せして、心は自由でいればいいんだって。それからしばらくして妊娠しました。あの時に自分の心が取り戻せたのは、中国茶のおかげだと思っています」

夫の家族が運営する茶畑をバックに。

 

〈お茶には、淹れる人の生きざまが表れる〉

ちゃんこさんがお茶をいれている時は、まるで香港の喧騒を忘れるほど静かな場が生まれる。
「湯の温度、茶葉の量を考えて淹れたお茶は、正しいけれど、一定のレベルのお茶を超えられない。自分が透明になって、自分自身と向き合った時に会心の一撃が出る」と語る。

「うまく言えないのですが、自分が筒になって、その中を何かがすーっと通っていくような感覚です」

視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚の全てを使う。そういう経験を重ねていくと、普段の生活でも様々なことを感じられるようになるのだそう。ベッドの上にふわっとねころぶ瞬間の気持ちよさ、おいしいものを口にしたときの幸せ、そういう日々の幸せをより感じるようになる。そして、その積み重ねがそれが自分の心の安定、自分の軸となっていくとちゃんこさんは語る。

「生き様ってお茶の味に現れるんです。尊敬する中国茶の先生に『あなたは自分の経験がお茶に活きる人だ』と言っていただきました。ですから、わたしはお茶以外の経験を積むことを大切にしています。そして何よりも、生きざまが美しい人が淹れるお茶はおいしい。自分らしくおいしいお茶を淹れるには、自分がより良い人間でいなければいけないと常に思っています」

彼女のまとう澄んだ空気、凛とした印象は、常にこう心がけているからなのかと納得させられた。

「色々とお話しましたが、まずは気楽に中国茶の世界を楽しんでいただきたいです。堅苦しく考えなくて良いんです。おいしいものを、簡単に人に作ってあげられる。おいしいねって言いあって、そこに幸せな時間がある。やっぱり中国茶っていいなって、お茶を淹れるたびに思います」
とちゃんこさんは穏やかに語った。

※納棺師  ご遺体をきれいに整えて、棺に納める儀式を行う人

ちゃんこさんが主催するお茶会で、参加した中国茶愛好家のみなさんと。

ちゃんこさんに3つの質問

Q1 中国茶初心者に、おすすめの茶葉は何ですか?
鉄観音、プーアール茶、白眉の3つは、香港でも一般的に飲まれるものなので、まずはここからスタートしてみてはどうでしょう?

Q2 香港で中国茶がいただけるオススメのお店は?
香港公園と大館内にある「樂茶軒」と、尖沙咀や銅鑼湾にある「新星茶壮」です。

香港公園内にある樂茶軒は、今回の取材と写真撮影に使用させていただきました。

Q3 生活のルーティンはありますか?
朝起きたら、テラスに出て新鮮な空気を吸い、部屋でお香を炊くことにしています。それから毎朝のインスタグラムのライブを行います。

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