2025/02/17

今、香港は10年前からは考えられないようなアートシーンで溢れています。その中でも由緒ある芸術祭として香港の人に愛され続けているのが、香港芸術祭(HKAF)。1973年に香港の文化生活をより豊かなものにすることを目的とし、国際的活動を50年以上継続しています。毎年2月と3月に、舞台芸術のあらゆるジャンルで活躍する国内外の一流アーティストを紹介し、伝統と現代的な創作の両方に重きを置きプログラムを構成しています。そのため楽しく、刺激的な舞台芸術がよりどりみどりなのです。

その中には、芸術祭が演劇、音楽、室内オペラ、コンテンポラリーダンスなど、香港のクリエイティブな才能と新進アーティストがコラボしたり、プロデュースをしたりしたものがあったり、コミュニティや小中高生に多様な芸術体験を提供する教育目的のものもあります。さらに、身体の障害を持つさまざまな人々が、素晴らしい才能と能力を発揮して共に芸術の喜びを分かち合えるようなプログラム「ノー・リミッツ(限界がない)」というプロジェクトも開催しています。

2025年、今年の2月と3月に開催される第53回香港芸術祭は国内外の著名アーティスト1,300名以上が参加し、125以上のパフォーマンスを上演します。チケットの数にするとおよそ10万枚を超えるそうです。香港では人気の高い芸術祭なので、あっという間に完売する舞台もありますが、きっと自分の琴線に触れるパフォーマンスがあるはず。

今回は読者の皆さんにその中でいくつかハイライトをご紹介しましょう。

芸術祭でのパフォーマンスのジャンルは、ミュージック、オペラ、演劇、京劇、ミュージカル、VRインタラクティブダンス、PLUS(教育体験)、家族向けに分かれています。通常は6歳以上の子どもはチケットの購入が可能です。

 


▶︎音楽とダンスの融合

▪️アジアプレミアのアムステルダム・シンフォニエッタ&ISHダンス・コレクティブによる「荒地(あれち)」
(The Waste Land by Amsterdam Sinfonietta and ISH Dance Collective)」

アジア初演のこの作品は、爆発的な音楽と心を奪う動きが融合した、音楽、ヒップホップ、アクロバティックダンスによる刺激的なパフォーマンスです。ヒップホップダンサーやブレイカー、エアリアルアクロバットが、アムステルダム・シンフォニエッタと共に、世界的にも有名な詩人T.S エリオットの長編詩で現代文学の傑作「荒地」に発想を得た作品です。T.S エリオットといえば、子ども向けの猫の詩「ポッサムおじさんの猫とつき合う法」が、彼の没後に翻案されてミュージカル「キャッツ」が誕生。世界的にミュージカル舞台として大旋風を巻き起こしたことでも有名です。

「荒地」は第一次世界大戦後の社会の崩壊と衰退を描いており、詩人が廃墟の中で失われた人間の存在意義や価値を探し求める姿を伝えています。その暗い雰囲気は、現代においても多くの人々に深く感じられ、戦争や貧困、孤立、気候変動といった現代の問題と重なり合っています。わたしたちが直面しているこれらの課題に対するエリオットのメッセージは、今でも強く共感を呼び起こすものです。また、イランの作曲家ファロクザッド・ラエイグをはじめ、ストラヴィンスキーやアルヴォ・ペルト、マイケル・ナイマン、ファジル・サイなどの現代の巨匠たちの音楽が、息をのむようなパフォーマンスを彩ります。

クラシック音楽とダイナミックなヒップホップダンス、アクロバットが融合し、アートの境界がいかに無意味であるかを示しています。香港芸術祭で未来的クラシックを体験し、新たなインスピレーションを得ることができそうです。

3月15日の舞台後には「アーティストとの交流」が、16日のパフォーマンス前には「プレパフォーマンストーク」が開催される予定です。

公演 2025年3月15日〜16日

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▶︎ダンス

▪️チェコ国立バレエ団「ラ・シルフィード」
The Czech National Ballet—La Sylphide

日常を離れ、おとぎ話の魔法に包まれる舞台、バレエ「ラ・シルフィード」。この作品は1836年にオーガスト・ブルノンヴィルがデンマーク・ロイヤル・バレエ団のために創作し、以来大切に保存され、世界文化遺産の宝ともいえる現存する最古のバレエとして愛され続けています。チェコ国立バレエ団が上演するこのバレエは、魔法と現実の対比を描いており、観客を魅了する独特のダンススタイルが特徴です。

物語はスコットランドを舞台に、結婚前夜の青年ジェームズが、いたずら好きで魅力的なシルフに恋をするところから始まります。彼はシルフと共に駆け落ちを試みますが、人間と超自然的存在との愛は容易ではなく、邪悪な魔女マッジの介入によって悲劇的な結末を迎えます。

チェコ国立バレエ団は1883年に設立され、中欧で重要なバレエ団の一つとして新しい振付家の育成に貢献しています。国際色豊かなダンサーたちが集まり、クラシックから現代作品まで幅広いレパートリーを持ちながら、様々な国で公演を行っています。

ブルノンヴィルの精緻なダンスは、19世紀初頭のロマンティック・バレエを体現しており、軽やかなジャンプや素早いフットワークが魅力的です。「ラ・シルフィード」は、家族全員で楽しめる理想的なプログラムであり、魔法の世界の魅力と危険を描いたファンタジーとして、多くの観客に愛されています。

公演:2025年3月6日〜8日
6歳以上のお子様とそのご家族が対象です。

 

▪️ヌレエフ&フレンズ-バレエ・ガラ・トリビュート
Nureyev & Friends—A Ballet Gala Tribute

このガラは、伝説のバレエダンサー、ルドルフ・ヌレエフに敬意を表したもので、彼の影響力を称える豪華な作品が披露されます。パリ・オペラ座バレエ団、スウェーデン・ロイヤル・バレエ団、ハンブルク・バレエ団などの優れたダンサーたちが、ヌレエフの代表的な役柄やオリジナルの振付など、非凡な才能の数々を披露してくれます。香港芸術祭での忘れられないバレエ舞台になるでしょう。

ヌレエフは、バレエ界において男性ダンサーの知名度を高め、クラシックとモダンダンスの境界を超えた先見の明を持つ人物です。振付家やパリ・オペラ座バレエ団の芸術監督として、シルヴィ・ギエムやニコラ・ル・リッシュなどの才能を育てました。彼の死後30年を経ても、ヌレエフの遺産は彼が影響を与えたアーティストや、ルドルフ・ヌレエフ財団を通じて生き続けています。

プログラムは、ヌレエフのキャリアの重要な作品からの抜粋で、感情的な場面や華麗な演出が盛り込まれています。芸術顧問にはヌレエフの弟子、シャルル・ジュードが、芸術監督には元ロイヤル・バレエのスター、デイヴィッド・マカテリが就任し、ルドルフ・ヌレエフ財団の支援のもとで行われます。

公演 2025年3月21日〜22日

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▶︎音楽とアニメ

▪️インスラ・オーケストラとアクセンチュス—ベートーヴェンの戦争: 平和のための戦い
Insula orchestra and accentus—Beethoven Wars: A Battle for Peace

フランス・パリ近郊のブローニュ=ビヤンクールに位置し、音楽とパフォーミングアーツに特化した文化施設ラ・セーヌ・ミュジカルの2024年プロダクション「ベートーヴェン・ウォーズ」。拠点となるインスラ・オーケストラとアクセンチュス合唱団による上演です。

「ベートーヴェン・ウォーズ」は、戦争によって荒廃した遠い惑星を舞台に、希望と統一の夢を描く物語です。主人公のステファンとジゼルは、自らの世界の終焉に直面し、地球を救うべく勇敢な旅に出発します。果たして彼らは人類に平和と調和をもたらすことができるのでしょうか?

この感情的な物語は、青年マンガスタイルで展開され、ベートーヴェンの作品や彼の苦しい時代背景に共鳴するような英雄的キャラクターが描かれています。観客は、特別なプロジェクションマッピング技術を使用した大きなスクリーンに投影されるマンガに没入し、視覚と音楽の融合を楽しむことができます。

この作品は、ベートーヴェンの劇作品「王ステファン」や「アテネの廃墟」の素晴らしい音楽と共に展開され、物語のインスピレーションにもなっています。ベートーヴェンの、平和、英雄主義、希望などのテーマを表現する音楽で舞台がより豊かになります。

マンガ設定は、若い観客層に響くように作られていて、すべての年齢の人々がベートーヴェンの夢を共有し、クリエイティブなアートの世界に没頭するでしょう。

このプロジェクトでは、世界的に有名なインスラ・オーケストラ、アクセンチュスの音楽監督で指揮者のローレンス・エキルベイとインスラ・オーケストラ、アクセンチュス合唱団、映画監督のアントワーヌ・ボードリーが協力し、アートと文化を融合してドラマティックな作品を創り上げました。新鮮で革新的なこの芸術的試みは、観客の心に触れ、より良く調和の取れた世界を求める気持ちを呼び起こすことでしょう。

公演:2025年3月26日〜28日
6歳以上のお子様とその家族に適しています。

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▶︎音楽

「李飈とベルリン・パーカッション・フィルハーモニック」

現在、世界で最も傑出したソロ打楽器奏者の一人、李飈のパワフルでユニーク演奏を楽しんでみましょう。彼は中国政府によってモスクワ音楽院で学ぶ最初の打楽器奏者として選ばれ、幅広い打楽器を使った並外れたテクニックを披露し、70カ国以上でその技術を絶賛されています。

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団は140年以上もの歴史を持ち、その成功の秘訣は活気に満ち溢れたパワフルな打楽器セクションにあります。

プログラムの1つ、「パーカッション・レジェンド」では、観客はパーカッションの妙技に驚かされるでしょう。その他、アルヴォ・ペルトの「フラトレス」、ジョン・ケージの「リビング・ルーム・ミュージック」、そして1983年にアフリカの飢餓と飢饉の犠牲者に捧げられた日本人作曲家、三木稔の「マリンバ・スピリチュアル」など、珠玉のパーカッション・ミュージックが演奏されます。

6歳以上。3月16日のコンサートの後にサイン会が行われます。

公演:2025年3月14日〜15日

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▶︎日本からは

今回日本からも「日本の伝統芸能 – 祇園の芸妓・舞妓 伝統の唄と弦楽器」や「能+狂言 宝生流と大藏流山本家」そして「TIME by Ryuichi Sakamoto + Shiro Takatani」が上演されますが、残念ながらいずれもチケットは完売。

600年以上の伝統を誇る能楽は、ユネスコの世界無形文化遺産に登録されています。「能+狂言 宝生流と大藏流山本家」では、日本の能楽五家の1つの宝生流二十世宗家・宝生和房が古典能「船弁慶」と世界初演の能「胡蝶の恋人」を、大蔵流山本家が狂言「梟」を上演します。

「日本の伝統芸能 – 祇園の芸妓・舞妓 伝統の唄と弦楽器」は京都の5つの花街のひとつ、祇園東から芸妓と舞妓による歌と踊りを香港で披露します。藤間流の踊りと長唄の特別公演は、祇園東が毎年開催している「祇園をどり」と「三間会」の要素を組み合わせたものです。

(left) ©neo sora@2020 Kab.inc.  (right) ©Merle Värv

「TIME」は、坂本龍一と高谷史郎による最後の劇場作品であり、瞑想的なサウンドと視覚的な景観で観客を魅了する内容です。また、田中泯が率いるダンスパフォーマンスには、宮田まゆみや石原凛といった著名なアーティストも参加しています。この作品は、さまざまなアートフォームを融合させた独特な体験を提供します。

香港芸術祭についての詳細:https://www.hk.artsfestival.org

Hong Kong LEI (ホンコン・レイ) は、香港の生活をもっと楽しくする女性や家族向けライフスタイルマガジンです。

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