2025/07/16
Hong Kong LEIライターのリンダと杏が、ぴーちくぱーちくお喋り感覚で最新の香港映画をご紹介するコラム《リンダと杏の香港映画ぴーちくぱーちく》。
まだまだ勉強中だけれど、香港映画に対する愛と情熱は超強火! と言うリンダと、気になる映画に関しては、とことん知り尽くしたくなる杏。そんな二人が、香港在住者の視点で、映画の背景となる香港の文化的事情やその歴史、そして知ると楽しいトリビア等を楽しく語り合い、読者の皆様にご紹介します。これを読めば香港映画が、そして香港が、もっともっと楽しめるようになること請け合いです!
Photo courtesy of One Cool Pictures
連載第4回目は、今年6月12日に公開された『私家偵探(原題)』(英題:Behind the Shadows)を紹介します。プロデューサーは、『トワイライト・ウォリアーズ 決戦! 九龍城砦』(原題:九龍城寨之圍城)で監督を務めたソイ・チェン(鄭保瑞)、主演はルイス・クー(古天樂)の犯罪サスペンスです。
あらすじ
ルイス・クー演じる歐陽偉業(オーヤン・ワイイップ)は、クアラルンプールにオフィスを構える私立探偵(私家偵探)。人々の秘密を暴くことを生業としている彼の元には、恋人や妻の浮気を疑う男たちが、調査依頼にやってきます。
そんな彼の元に、ある日やってきた依頼。一件は、彼の妻を既婚者とは知らずに付き合っている男から、「彼女が浮気しているかもしれない」との調査依頼で、もう一件は殺人事件へと発展します。自身の結婚生活を取り戻そうとする彼は、同時に謎の殺人事件にも足を突っ込んでいくのですが……犯人は意外なところに。
浮気された時、男は……。信頼と裏切りという結婚生活の現実と犯人を捕えるサスペンスが交差します。
Photo courtesy of One Cool Pictures
天下一によるマレーシアでの作品
リンダ:いや~。面白かった! 控えめながらもヒリヒリする怖さの描写がすごい良かった! 『トワイライト・ウォリアーズ 決戦! 九龍城砦』でメガホンを取ったソイ・チェンはここではプロデューサーだけど、彼が得意とするエグみとか、心臓が凍り付くような緊迫シーンとか、彼っぽさを感じさせるサスペンス映画だなって思った! 『トワイライト〜』的な派手な演出を求める人には物足りないかもだけど。
で、この作品は、ルイス・クーの会社、天下一集團有限公司(One Cool Group)マレーシア支店の作品で、撮影はクアラルンプール。香港とは似ているようで異なる風景を見るのも楽しかった。
杏:この会社は、映画事業における資金調達、制作、ポストプロダクション、配給、プロモーションなどの業務をしていて、若手監督も積極的に支援しているらしい。ルイス・クーって役者として後輩の面倒見が良いと言われているけど、香港映画のためにも尽くしているんだね。彼の格好良さは、外見だけじゃなくて、中身からくるものなんだね。
リンダ:根っからの映画人って感じだね。今年4月の香港映画祭では「注目の映画人」に彼が選ばれたのも、納得。
杏:この天下一が関わっている作品はなかなか粒揃い。香港で大ヒットしたSF作品『未来戦記』(原題:明日戰記)、恋愛コメディ『6人の食卓』(原題:飯戲攻心)、パラリンピック香港代表選手になった主人公の実話を描いて話題になった『ゼロからのヒーロー』(原題:媽媽的神奇小子)とかね。
魅力の俳優陣
主演のルイス・クー Photo courtesy of One Cool Pictures
杏:公開日翌日の朝の回で見たんだけど、客席180くらいの劇場で、前3列以外は満席だった! 平日朝の回満席ってすごくない?
リンダ:わたしは、チケットもお得でない昼間に観たんだけど、かなり席が埋まってて驚いた。平日昼間の映画館ってガラガラのイメージだったから。
杏:『ルイス・クー』という名を聞くと、香港人は磁石のように吸い寄せられていくのではないだろうか……。
リンダ:今の香港を代表する名優の実力! 今回の役では、『トワイライト〜』の龍捲風役の時とは違って、ヨレヨレTシャツにぼさぼさ頭だけれど、それもまた格好いい。香港のイケおじ代表認定しちゃいましょう!
クリッシー・チャウ Photo courtesy of One Cool Pictures
杏:彼の妻役を務めるクリッシー・チャウ(周秀娜)は、10歳の時に家族と中国の潮州から香港に移住してきたらしいよ。ファストフード店などで店員として働いていたんだって。
リンダ:綺麗だからファストフード店でも目立っただろうね。ところで、ルイス・クーとは実年齢で14歳離れているから、だいぶ歳の差カップルだよね(笑)。最初、ふたりが親子という設定なのかと勘違いしちゃった! 刑事役の台湾人俳優、リウ・グァンティン(劉冠廷)も整った顔立ちをしているね。
リウ・グァンティンは台湾出身の俳優 Photo courtesy of One Cool Pictures
杏:彼の主演した台湾映画『1秒先の彼女』(原題:消失的情人節)は、日本版リメイクも作られたほど人気が出たから、知っている人も結構いるんじゃないかな。『1秒先の彼女』では、ほんわかキャラを演じた彼だけど、金馬奨で助演男優賞を受賞した『ひとつの太陽』では、短い金髪の、すごい悪い奴を演じたの。全く違う人相&キャラクターすぎて、同一俳優と気づかないくらい。どんな役にもピタリとはまれる。そんなすごい俳優さんなんじゃないかとわたしは思っている。今回も、正しさを求めすぎちゃう人を上手く演じていたと思う。
リンダ:そういえば、第43回香港電影金像奨にも来ていたね! 背が高くて格好良かった。
杏:彼の出演作『オールド・フォックス 11歳の選択』(原題:老狐狸)が最優秀アジア中国語映画賞を獲ったからね。式典で受賞した彼は、ニコニコしていて感じのいい人という印象だった。香港俳優じゃないけど、ちょっと浮気させていただいて、彼も推しちゃう!
第43回香港電影金像奨にて。左がリウ・グァンティン、右は日本人映画プロデューサーの小坂史子
香港を含む、アジアの多言語社会
リンダ:映画では、ルイス・クーと妻役クリッシー・チャウが広東語を喋り、リウ・グァンティンや他の依頼者は標準中国語を話してたね。お互い「理解はできるから、得意な方の言語で話してください」と言ってね。
杏:わたしのマレーシア人の友人は、まさにこの映画のように、自分が広東語で相手が標準中国語で会話することはよくあるって言ってた。そして、会社では英語、祖母とは福建語で話すのだとか……。
リンダ:この映画のように「相手の言葉を話さなきゃ!」とか「全部、理解しなきゃ!」ってプレッシャーをあまり感じず、上手く折り合いをつけてやっていけるのは理想的だね。
杏:多言語といえば、香港で珍しくない光景としてあるのが、広東語での会話が突然、英語に切り替わる人々。香港映画歴代興行収入第2位の『毒舌弁護人~正義への戦い~』(原題:毒舌大狀)やニック・チョン(張家輝)とテレンス・ラウ(劉俊謙)W主演の『贖罪の悪夢』(原題:贖夢)でもそんなシーンがあったし。
Photo courtesy of One Cool Pictures
杏:そういう、日本では考えづらいアジアの多言語文化だけど、ただ、作品の中に描かれる、恋人や夫婦同士の嫉妬、自分に関心を持ってもらいたいという感情は人類共通。だから、登場人物たちの気持ちは誰でもが理解できるし、犯人もただの悪人じゃなくて、人間なんだよね、って思う。
リンダ:映画を通して、今回もいろんな学びがありました。いやー香港映画、あれ? 今回はマレーシア映画?……っていいですね! ではまた来月!
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