2025/03/04
香港の老舗の歴史にまつわるお話を香港老舖記錄冊 Hong Kong Historical Shopsさんとのコラボでご紹介したいと思います。香港老舖記錄冊さんは、Facebookなどで香港の歴史的なお店を独自で取材して発信しています。香港文化の象徴として老舗の存在は欠かせない、老舗が存続していくことが香港の文化を盛り立てることだと言います。香港を愛するHong Kong LEI編集部のわたしたちもまた、昔から愛され続けている香港で誕生した商品が、どんな会社によって作られ、どんな背景で誕生したのか、また、どんなところで、どんなふうに作られていたのかなどを垣間見たくなりました。題して「香港オタクのための愛すべき香港老舗の歴史をたどる」です。でも長いのではしょりまして(笑)「香港老舗の歴史をたどる」と命名いたしました。どうぞよろしくお願い申し上げます。
今回ご紹介するのは、刺繍入りスリッパを販売している「英皇拖鞋」。香港らしいグッズとして在住日本人や観光客に人気の刺繍入りスリッパにはどんな歴史があるのでしょうか。
英皇拖鞋 – 北角
創業:1960年代初
経営:刺繍入りスリッパ
住所:北角英皇道315號麗宮大廈地下
撰文:杳三 @newnone.hk
攝影:Monica
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ファッションは時代とともに変化しますが、スタイルは時代を超越します。英皇拖鞋のスリッパは、もともと刺繍が施された家庭用スリッパから、独特なオールド上海風のスタイルを持つファッションアイテムへと変化しました。現在、店は盧雲仙氏とその息子が経営。北角英皇道にある細長いビル1階の店舗にひっそりと佇み、10年前から変わらない内装と、白地に赤い文字の看板が目印です。
英皇拖鞋は1960年代初頭にオープンし、当初は盧雲仙氏の兄が経営していました。 盧婆婆(盧雲仙氏のこと)は十代の頃から店で手伝いをしており、その後、兄が移民したため、それからずっと彼女がその商売を任されてきました。1949年は中国本土が戦火に見舞われた時期で、上海から南へ逃れてきた多くの移民(その多くは技術職の労働者)が北角地区に集まってきました。当初、英皇拖鞋の商品は上海の職人によってデザインされ、「小上海」地区の裕福な家庭向けに作られていました。
繊細な刺繍が施されたスリッパは外出用ではなく、室内用の「高級スリッパ」です。昔の古い建物や移民地区では、住民は公共のトイレやバスルームを使用していたため、地面が湿って滑りやすく、人々は木の草履を履いて出入りしていました。 それに対して、裕福な人々は各家庭でバスルームがあるため足元は濡れず、美しさを重視する英皇拖鞋のスリッパを使っていました。
半世紀以上もの間、英皇拖鞋は香港製にこだわっており、絵画のように密度の濃いショーケースには、百種類以上の商品が展示されています。 足指と甲を包み込むようにデザインされたスリッパは、伝統的な柄とモダンな柄の両方があり、昔は布やゴム製が主流でしたが、後にナイロンやベルベットが使われるようになり、外履き用やスカートやパンツに合わせるデザインも登場しました。 サイズは伝統的なスリッパの番号に基づき、職人が調整しました。例えば「70=37」、「72=38」といった具合です。すべてのスリッパは上海の職人によってデザインされ、製造され、店主の意見や売れ行きに合わせて調整されました。
上海の老練な職人が引退した後も、英皇拖鞋は香港の生産ラインを維持してきましたが、新界にある小さな工場に機械を導入して、数人の職人が作業を補助しなければなりませんでした。スリッパは日常的に使用するため、消耗が激しく、工芸品や耐久品のように高い価格を設定することはできません。しかし、全工程手づくりだとコストが高く、裁断、縫製、刺繍の工程が多いため、一部は機械による生産が導入されています。量産後、売れ行きが好調であれば、生産は継続されます。
刺繍入りスリッパは、かつてのような必需品ではなくなりましたが、それでも支持者は少なくありません。英皇拖鞋は長年一つの技術にこだわり続け、国内外のメディアの取材を受けてきました。多くの芸能人や旅行者がその名を聞きつけて訪れ、移住した地域の人々が戻ってきて10足ほど大量に購入することもあります。現在のシンプルが好まれる時代において、英皇拖鞋は鮮やかな色合いや模様など、独自の魅力を持つ存在となっています。
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