2021/10/11


家族とともに英国から香港に越してもうすぐ1年の杏さん。相変わらず、初めて見る広東語(中国語)への驚きと妄想が止まらないようです! 次々と繰り出される杏さんの「妄想解釈」をご紹介します。

蒸し暑い日が続くのある午後、涼を求めローカル感満載の喫茶店、いわゆる冰室(ビンサ)に長男と二人で入ることにしました。テーブルに着くと、アイスクリームが盛ってある涼しげな飲料の写真付きスペシャルドリンクメニューが置いてあります。さてさて、何を飲みましょうか。長男に「大抵、メニューの一番上にあるものがお店のお勧めナンバーワンで美味しいやつだよ」と諭しながら、見てみると……

息子よ、ちょっと待て。

一番上のやつ、傳統(伝統)和尚が海で跳んでいるって書いてあります。伝統的な和尚ですから、テクノにのせてナウい法要を執り行う今時のヤングな和尚さんではなく(注:実在します)、昔ながらの木魚ポクポクを伴奏にお経をあげる和尚さんのことですね。その寡黙な彼が今日は羽目をはずして海で飛び跳ねている、と。

……なぜ いえ、なぜ海で跳んでいるのか、ではなく、なぜ飲み物にそんなネーミングをするのか、という疑問です。漢字からでは全くどんな飲み物なのか予想することが出来ないので、併記されている英語のメニュー名を見てみましょう。『Boiled Water with Egg』。一瞬、和尚ツルツル頭茹で卵、という発想なのか! と飲み物としての魅力はさておき、意味については半分納得しかけたのですが、よく見てみるとボイルドされているのは卵ではなく水です。卵が一体どういう形式で供されるのかは不明です。まさか、熱湯に生卵ポチョン…… 冬場に風邪をひいている時ならいざ知らず、この蒸し暑い中、さっぱりしたものを飲みたい気分の時には怖すぎて頼めません。

というわけで、この店ナンバーワンのお勧めドリンクは諦めて、2番目を頼むことにしましょう。はい、では2番目。『經典保衛爾牛肉汁』。うーん、この店は仏教関係者による経営なのでしょうか。和尚の次は経典ときました。でも、実はこの『經典』、南無阿弥陀仏の経典ではなく、広東語では「クラシック」、または「古典的」という意味で、お店のメニューではよく見かける単語です。それにしても、『牛肉汁』ってこれまた、涼をとるにあまり相応しくない飲み物に見えます。こちらも広東語のままでは一体どんな体の牛肉汁が出てくるのかわかりづらいので英語訳を頼ってみました。すると『Bovril』と書いてあるではありませんか!!! ボブリルとは英国不思議食品の中では極めて高い地位を占めている商品で、ウィキによりますと「牛肉エキスを発酵させて作った調味料」となります。

香港の旧宗主国であった英国であれば大抵誰でも知っているこのボブリルですが、香港でも、超高級スーパーであるCity Superにて購入が可能です(他の商品同様、結構いいお値段ですが英国の人々はこれを、トーストに塗って食べるほか、お湯に溶かしてまさに『牛肉汁』にしたものを、フットボール(英国ですからサッカーとは言いませんよ! フットボールです!)を見ながら飲んだりします。

さて、上記2品(飛び跳ねる和尚と牛肉汁)をトライするチャレンジ精神のないわたしたちは結局ミルクティーを頼んだのですが、後日、広東語の先生に聞いてみました。

先生、この和尚が跳ぶと書いてある飲み物、伝統的と書いてありますが、香港の皆さんはよく飲むのですか?

するといつも冷静な先生が珍しくびっくりされたようで、「こんな名前は初めて見ましたね!」とおっしゃいました。そして「でもこのかっこの中に書いてある滾水蛋滾水雞蛋)は知っていますよ。お湯の中に生卵を入れてよくかき混ぜて、お砂糖を入れて飲むものです。でも、卵は新鮮でなくてはいけないし、別に外で飲まなくても、家で簡単にできますね」といつもの調子に戻り、冷静かつ倹約家らしいご意見を述べられました。

ちなみに、滾水雞蛋で検索しますと、LEI本誌20211-2月号にも登場したJASON(大さんによるビデオが出て来ました(https://www.youtube.com/watch?v=imehfr7gmUU)。ビデオの中で生卵をお湯に入れて棒でグルグルとかき混ぜるシーンが115秒あたりにあるのですが……、想像力をうんと豊かにしますと、確かに袈裟を着た和尚さん達が楽しく海で飛び跳ねている様にも見えなくはありません。

そして『牛肉汁』Bovrilの方も先生に聞いてみると「確かにメニューではよく見かけますね。わたしは頼みませんけど」とつれない返事が返ってきました。インターネットで調べてみますと、「昔は香港の茶餐廳(チャーチャンテン:香港式喫茶店)ではよくあるメニューでしたが、最近はあまり見かけなくなりました」とありました。昔ながらのものを残したい気持ちと、でも実際あんまり人気ないんだよね、という本音の葛藤が垣間見られるコメントです。

さて、香港の代表的飲み物といえば、港式奶茶(こんしきねいちゃ:香港式ミルクティー)と鴛鴦茶(えんおうちゃ:珈琲と紅茶を混ぜたもの。鴛鴦はオシドリのこと)です。

私は来港後間も無い頃、ハッピーバレーにある有名な祥興咖啡室のメニューにある『正宗港式奶茶』をなんと『菊正宗』入りミルクティーだと勘違いしました。アイリッシュコーヒー(珈琲にウィスキーを入れた飲み物)があるくらいですから、日本酒入りミルクティーがあってもおかしくないのか、と勝手に納得したのですが、この『正宗』は菊正宗の正宗ではなく、「正統派の」という意味だそうです! あちこちのメニューで見かける単語ですので、今回出てきた『傳統(伝統)』『経典』と合わせて覚えておくと便利ですよ!

皆様も是非、香港にあるローカル色満載の冰室や茶餐廳で、全く通じない英語にもめげず、港式奶茶(香港式ミルクティー)と西多士(香港式フレンチトースト)に舌鼓を打ちながら、面白いメニューを探してみて下さいね! あ、香港式フレンチトーストは日本のおしゃれカフェで提供されているものを想像してオーダーすると全く違うものが出てきますのでゴ、ヨ、ウ、ジ、ン。

それでは皆様また次回!


小林杏 (Anne Kobayashi)


東京都出身、青山学院大学仏文科卒。ニュージーランド、日本、フランス、英国での就業経験あり。ロンドンでの出産子育てを経て、2020年に来港。今まで住んできた土地のように、香港も愛おしい場所となりつつある今日この頃。趣味は読書、舞台芸術鑑賞とカンフー映画鑑賞。

1 件の意見

  • 匿名 より:

    毎回とても楽しく読ませていただいてます。本当に面白くて声を出して爆笑することも。おまけに絵も面白くて。今回のお坊さんがグラスで舞ってる絵は最高でした。次回も楽しみにしています。

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