2021/12/11


家族とともに英国から香港に越して1年の杏さん。今回は、香港で豊富にそろう日本ブランドの商品を目にして、香港と日本とのかかわりを思い、歴史的事実について振り返ります。

長年の英国暮らしに加えてコロナの影響で日本にしばらく帰国できていないわたしにとって、来港当初ここ香港での日本製品の多さには嬉しい驚きがいっぱいでした。
近所のスーパーマーケットで、納豆、麺つゆ、日本米、全部手に入る!! 薬局に行けば、ピップエレキバンまで売っている!! 新しい土地での生活を始める時に、慣れ親しんだ製品が店先に並んでいると、それだけでちょっと心強くなるものです。加えてドンキ! AEON! そして後光がさしていて崇め奉りたくなるあの百貨店はなんですか?! 『崇光』と書いて『そごう』ではないですか!(あ、ちなみに名前の由来は創業者の姓『十合(そごう)』さんからきており、日本での表記はひらがなで『そごう』です)。

ロンドンでは日本食材店等で『輸入品』として主に日本人向けに置かれている日本の製品が、ここ香港では香港の皆様のための商品として出回っています。そして各社の香港支店マーケティング部ネーミング部隊が香港のお客様向けに受けのいい商品名をつけている模様です。ではここで問題です。下記、日本製品の香港での名称ですが一体何だかわかりますか?(かっこ内は発音です)

益力多 (イック・リック・ドー)
力保健 (リック・ボー・ギン)
寶(宝)礦力水特(ボウ・コン・リック・ソイ・ダッ)
奥楽蜜C (オー・ロック・マッ・C)

漢字表示だけではチンプンカンプン! とお思いでしょうか。でもこれらが一体何か、下記の写真で製品のパッケージを見ていただければ一発でおわかりいただけると思います。

どうでしょう、耳を『タモリの空耳アワーチャンネル』視聴時に調整して、カッコ内に表示した商品名の発音、カタカナ表記を読んでみてください。……イ、クリ、ドー……あぁ、確かに、ヤクルト、って聞こえる! ボ、コ、リ、ソイ、ッダ……あ、ポカリスウェットって言っているような気がする!!
そして、ネーミングに使っている漢字を見てみてください。どの製品も飲んだら健康になれるような気がしますね! 利益になる力が多く入っているヤクルト、力を保って健康に生きられるようになるリポD、宝のような礦(ミネラル)の力、ポカリ。それから奥に入ったら楽に蜜を舐められる、って女王蜂みたいなこと言っているオロナミンCまで! ちなみに、カタカナ表示をパッケージにそのまま使用しているのは、『日本製』だと言うことをアピールする戦略だとわたしは思います。世界中どこででもそうですが、やはり日本製品は高品質! と言う印象があるのでしょうね。

また、『香港にある日本』でわたしがなんと言っても度肝を抜かれたものといえば、スーパーの陳列棚にある出前一丁とカップヌードル(香港では合味道(ハップメイドウー)と言う名で売っています)の種類と量!! 圧巻です。そんなにインスタントラーメンばかり食べると体に悪いよ、と心配していたのですが、わたしの心配をよそに香港の平均寿命は2020年度、日本を抜いて世界ランキングトップに躍り出ました。そして余談ですが日本では『細く長く』生きられるようにと大晦日に蕎麦を食べる風習がありますが、中国文化圏でも誕生日に麺を食べて(麺が長いことから)長寿を願う習慣があるのだそうです。

初めて会う香港の人にわたしが日本人だというと、『日本好き! 日本で買い物するの好き!』とよく言われます。ドンドン、ドンキー♪ と歌い出されることもありますし、道ゆく人に日本語で対応されたりすることも、ロンドン在住時と比べると軽く3倍以上の頻度です。
わたしは日本以外のアジアの国・地域での生活が初めてでしたので、実は来港前、香港の人々は一体日本そして日本人に対してどんな感情をもっているのだろうか、と少し不安に思っていました。

1941年12月8日、真珠湾攻撃直後の香港の朝に旧日本軍は英国統治下である香港の啓徳空港に攻撃を仕掛けます。そして中国の国境から新界、九龍へ侵攻、そして12月18日には香港島北へ上陸しそこから南下、最終的に1941年12月25日にイギリス軍が降伏。香港は、太平洋戦争の終わり1945年8月までの3年8ヶ月間、日本占領地となります。このイギリス軍が降伏した日を香港では『ブラッククリスマス』と呼んでいます。こんな事情から、日本人に対する感情がよくないのではないかと思っていたのですが、今までの所、特に対日感情が悪いと感じる出来事には遭遇していません。

ですが、今回ちょうど12月ですので、楽しい日本製品だけではなく、この黒い歴史が残した“香港にある日本”のエピソードも2点ほどご紹介したいと思います。

最初に、尖沙咀に位置する高級ホテル『ザ・ペニンシュラ香港』。アフタヌーンティーでも有名なこのホテルですが、太平洋戦争当時、日本軍はホテルの一室に司令部を置いており、ちょうど今から80年前の12月25日、英国軍が降伏をした際に司令部で撮影された写真が残っています。

第二次世界大戦中に使用されたトンネルも、その後手付かずのまま多く残っています。香港政府のサイトによると、現在は不使用になっているトンネル(日本軍のみならず英国軍および香港市民が作ったものを含め)が香港内にまだ90ほど残っているそうです。

写真はそのトンネルの一例です。自然の中にパカっと口を開いているトンネルは異様な雰囲気があります。多くのトンネルは中が広く、長く続いていたりします。一例ですが、『トンネル探検』をしている人のブログに中の様子がわかる写真が見られます(https://hkoutdooradventures.com/2021/02/27/jardines-west-tunnels/)。今はレジャーとして訪れている人々がいるこの暗く湿った場所で、当時死と隣合わせで時を送った人がいることを想うと胸が痛みます。

広島と長崎への原爆投下記念日、そして終戦記念日、という8月を日本国外で過ごすと戦争のことをきちんと振り返らず一年が過ぎて行くような気持ちがしていましたが、でも香港にいるからこそできることがあると思いました。それは日本の8月に『はだしのゲン』や『火垂るの墓』を観て想うのとはまた別の視点、日本軍に侵攻された側からの太平洋戦争を見て、感じて、考えること。そして、それが二度と起きてはいけないことだという思いを新たにすること、でしょうか。

今日、この香港の地で、香港の人も日本のわたしたちも、そしてその他の国籍の人々も共に肩を並べて出前一丁をすすり、蛇スープで体を温め、リポDで力を保って健康に皆仲良く長寿ランキング世界一を競い合うことができる平和がここにあること。それが戦争によってこの地で命を落とした人々への慰霊であることを願います。

さて、年の瀬が迫り、短くはあれ寒い季節ですので、皆様もお体にくれぐれも気をつけて、楽しいクリスマスをお迎えください!

それではまた次回!


小林杏 (Anne Kobayashi)


東京都出身、青山学院大学仏文科卒。ニュージーランド、日本、フランス、英国での就業経験あり。ロンドンでの出産子育てを経て、2020年に来港。今まで住んできた土地のように、香港も愛おしい場所となりつつある今日この頃。趣味は読書、舞台芸術鑑賞とカンフー映画鑑賞。

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