2023/12/19


今回ご紹介するところ

北竿郷/坂里天后宮
北竿郷/芹壁天后宮
南竿郷/清水境白馬尊王廟
南竿郷/津沙境天后宮
南竿郷/金板境天后宮
南竿郷/馬祖境天后宮


LEI読者の皆様、こんにちは。香港の天后廟を巡る日本人ことやんまです。

第9回の連載で天后廟にゆかりがある道路名や地名が香港にいくつもあることを紹介しましたが、こういった例は香港以外にもあるのをご存知ですか?

例えばお隣のマカオ。ここには15世紀に建立された媽閤廟という有名な廟があり、その字の通り媽祖(天后の別名)が祀られています。16世紀に初めて渡来したポルトガル人が地名を訊ねた際、この廟のことを聞かれたと思った住人が「マーゴッ」と答え、それが「マカオ」に転じたとする説が広く知られています。

ただ、今回はそれをもっと上回るような場所を紹介したいと思います。私が天后廟について調べていく中で見つけた中国大陸にかなり近い台湾領の島々、その名も馬祖列島です。

多くの人からすると「中国大陸に近い島なんて危ないのでは?」と思われるでしょう。事実その通りで、島の中には要塞や防空壕があったり、「光復大陸」と書かれた国民党のスローガンが外壁に彫られていたり、台湾有事があれば間違いなく最前線になることでしょう。その一方で、大陸からの観光客を招き入れることで島の経済を豊かにする動きも活発で、金門島の小三通政策に似たものを感じます。夜になればこのように大陸の灯りも見えるくらい近いです。

そんな馬祖列島は主に4つの島郷から成り立っています。今回訪れたのは北竿郷(Beigan)と南竿郷(Nangan)という島です。どちらも約10㎢の小さな島ですが簡易空港があるので、台湾本島から一時間ほどで行くことができ、大型フェリーも就航しているようです。

親日で知られる台湾とあって、馬祖島の観光サイトは日本語も対応。わたしのように特殊な理由で馬祖列島に行こうとしている人にも安心です。島中の媽祖廟を巡る綿密なスケジュールを組み、暑さも厳しい7月29日午後、ついに北竿空港に降り立ちました。迎えに来てくれた宿泊先のオーナーは「媽祖廟だけのために島に来る人に初めて会った」と言いながらも、翌日に狙っていた廟に立ち寄ってくれました。馬祖島はもちろん、台湾で初めて訪れることになったのがこの坂里天后宮です。

壁が黄色い!

中も外も派手!

入り口の門番(順風耳・千里眼)が屋根の上に乗っちゃってる!

香港の天后廟とは異なる系譜を感じつつも、対聯(ついれん)という入り口の文字だったり、祭壇の構えや供え物の雰囲気だったりは似ていて、天后信仰に国境はないんだなぁなんて偉そうに感じた次第です。

ここで気になったのは屋根の構造。横から見るとよく分かる独特の丸みと先端の尖り具合が気になってオーナーに質問すると、これには延焼を防ぐ目的があるのだとか。ここなら延焼の心配は無さそうですが、オーナーもしかして詳しい人なのでは。

有難いことに他の参拝者にも聞いてくれて、真ん中が高い山型と端が高い海型とがあるとか、木・火・土・金・水の五行を表しているとか、思わず勉強になりました。

次に訪れたのは初日の宿泊先でもある芹壁という集落にある天后廟です。この集落は山の斜面に石壁の家が立ち並んでいて、その一番高いところにある廟もまた石壁で建てられています。屋根の色づかいに派手さがあるのは台湾ならではといったところでしょうか。

カエルが守護神という芹壁集落。飲食店は閉まるのが早いけど、そのせいか夜の静けさと月明かりの街並みがとても幻想的でした。こればかりはぜひ現地で確かめてください!

翌日は南竿郷に船で渡り、天后廟巡りを続けます。

一際目立つこちらの白馬尊王廟は台湾や福建省で多く崇拝されている神様なのだそう。右手に天后も祀られていて、香港でよく見かけるスタイルに少しだけホッとします。

津沙境という集落にある天后廟は龍だらけの廟。床に描かれた不思議な生き物があなたを迎えてくれます。

最終日も巡ります。金板境天后宮はシックな外壁と鋭く尖った屋根が見どころ。古い地名から鐵板天后宮とも呼ばれているそうです。

そして南竿が誇る馬祖列島の天后信仰の総本山がこちらの馬祖境天后宮です。

何度も改修を重ね、現在の廟は2002年に建てられたそう。こちらの屋根はオレンジ色のみで構成され、外壁も単一色ですが、それがかえって荘厳さを出しているように見て取れます。柱の彫刻も美しい。

中に入ると祭壇の前に石彫りの枠が。これこそ当地を馬祖列島と呼ぶ由縁なのです。

これまで何度も紹介したように、福建省の林黙という少女が海を鎮める力を持ち、人々に広く慕われていたことが天后信仰の始まりとも言われています。林黙は家族を助けようと海に入り、そのまま亡くなってしまいました。しかし、その遺体が流れ着いたとされるのがこの島だというのです。石彫りの枠の下にはその遺体が安置されていると伝わっています。まさにこの天后廟こそ信仰の総本山と言っても過言ではないでしょう。近くの山には巨大な媽祖像が建てられ、故郷の福建省を見つめています。

「伝説は今もこの馬祖列島で続いている」

その心を島の人々はたった一言で表現しています。

「媽祖在馬祖」

(媽祖は馬祖にいる)

自然にあふれ、特色のある集落で成り立つ小さな信仰の島、馬祖列島。香港でそれとなく始めたわたしの天后廟巡りが、2年あまりの時を経てここに行き着いたと考えると、かなり感慨深いものがありました。

そして、HONG KONG LEIで一年近くコラム連載をする機会までいただいたことも、身に余る光栄でした。改めて感謝申し上げたいと思います。今回で本当に最後です。

香港、そして中華圏で媽祖廟や天后廟を見かけたときは、やんまのことを思い出してくださいね。

 


やんま
2020年10月から出張で香港入り。仕事の傍らになんとなく始めた天后廟巡りにハマり、その魅力をSNSで発信するようになる。やんまは小学生時代のあだ名から。

コメントをありがとうございます。コメントは承認審査後に閲覧可能になります。少々お待ちください

意見を投稿する

Hong Kong LEI (ホンコン・レイ) は、香港の生活をもっと楽しくする女性や家族向けライフスタイルマガジンです。

Translate »