2024/03/07
香港の3月といえば、アート月間です! 巷ではたくさんのアートフェアが行われていますね。色々ありすぎて大変ですが、今回は、4月11日に終わってしまう故宮文化博物館で開催中の、「Botticelli to Van Gogh: Masterpieces」のハイライトをお届けします。作品はイギリスのロンドンにある国立美術館とも呼ばれるナショナル・ギャラリー・ミュージアムからの52点です。
故宮文化博物館特別展「Botticelli to Van Gogh」ハイライト
特別展のアイコンとなった1枚「レッドボーイ」
展示室の紹介
①Sacred Images (聖なるイメージ)
(2ページ目)
②Mythology(神話)
③DailyLife(日常)
④Portraiture(肖像画)
⑤Landscapes(風景画)
(3ページ目)
⑥Modern Times (近代)
おまけ:絵の具のお話
ナショナルギャラリーミュージアムは1824年に設立され、今年で200周年を迎えます。所蔵作品は13世紀半ばから20世紀初頭までの2,300点以上。
<去年のアート月間に公開した記事も参考までにどうぞ!>
今回の催しのポイントは、この特別展を見るとナショナルギャラリーミュージアムの凄さがわかるという点。そして、故宮文化博物館の学芸員の企画力の素晴らしさがうかがえる点です。
今回ご紹介するのは1400年ごろから、1900年初頭までの作品です。イングリッド・ヤン学芸員は「緻密に考慮して選び抜かれた52点」とおっしゃっていました。つまり、これらはナショナルギャラリーミュージアムを語るには申し分のない52点であり、これを見れば大体この美術館がどんな美術館かわかるというものです。ボッティチェリ、ラファエロ、ティツィアーノ、カラヴァッジョ、レンブラント、ゴヤ、ターナー、コンスタブル、モネ、ゴッホなど、世界で最も尊敬される画家たちが、ルネサンスから印象派、ポスト印象派まで、美術史における最も重要な転換点の作品を網羅しています。
実はこれらの作品群は香港の前に上海で展示会を行なっていました。その時は、年代別に展示されていたそうです。しかし、今回の香港での展示に関してはこの52年をシャッフルし、テーマごとに展示することにしたそうです。そうすることで、作品への理解が増し、その裏にあるストーリーなども見えやすくなる展示になりました。またそれだけでなく、作品とクラッシック音楽とのコラボや、子どもが絵画を身近に感じられる仕掛け、絵の中にどんなストーリーが隠されているのかなど、面白い仕掛けがたくさんあり、1度のみならず2度、3度と足を運んでみたくなる展示会になっています。
すでに行かれた方も、またこれから行かれる方も、ぜひHong Kong LEIの記事を読んで楽しんでいただけたら良いと思います。
わたしたちを入り口で迎えてくれるのは、今回広告塔にもなっているトーマス・ローレンスのレッドボーイ、チャールズ・ウィリアム・ラムトンの肖像です。思ったより大きく、重厚感がある肖像画です。
この少年の年齢は6歳。現代の6歳の子どもを想像すると少し小さく感じるかもしれません。残念ながら、この少年は13歳の時に亡くなったそうです。ローレンスは、当時人気の画家で、コミッション制の肖像画を多く描いていました。この作品はローレンスの最高傑作であり、イギリスの郵便切手の歴史上初めて絵画が切手デザインに選ばれたという大変重要な作品でです。
実はこの作品、レッドボーイとも言いますが、元々は赤い洋服を着た少年ではありませんでした。マイクロスコープを見ると元は黄色だったそうで、依頼主がその色が気に入らず赤に塗り直したという経緯があるそう。
また保存状態があまりよくなかったため、ナショナルギャラリーで修復が施されました。香港で見られるこの作品はすでに修復をされたものとなります。修復家は汚れを綺麗に落とすというよりも、あまり綺麗に取りすぎないように注意して修復したとのことでした。ナショナルギャラリーの修復についてのお話はこちらです。
肖像画があるこの広間は、もう一つこの作品に合ったムソルグスキー の音楽が香港フィルハーモニーの演奏で流されています。他にも絵画にあった音楽が流れています。リストはこちら。
そして子ども用に、絵画をじっくり見てもらうための仕掛けもあちこちにあります。
見つけてみよう!「レッドボーイの絵から見つけられるかな? 子ども、月明かりの海、石の椅子、花、赤い服、葉」
Sir Thomas Lawrence (1769–1830) Portrait of Charles William Lambton (“The Red Boy”) 1825 Oil on canvas © The National Gallery, London
<Sacred Images (聖なるイメージ)>
そして5つのセクションに分かれた、最初の部屋へと移っていきます。最初のテーマはSacred Images (聖なるイメージ)です。音楽はバッハのマタイ受難曲。そう、宗教色の強い絵画が展示されています。
西洋美術の傑作の多くは宗教画です。18世紀以前、宗教画は、特に文字の読めない人々にキリスト教の教えを広めるための効果的な手段として、聖人の絵画を使いました。キリスト教の美徳や、キリスト教信仰の模範となる人々が行った軌跡を見せたのです。
今回の特別展のアソシエイト学芸員であるDr.イングリッド・ヤング学芸員による熱い解説
The Virgin and Child with the Infant Saint John the Baptist (“The Garvagh Madonna”)/Raphael/© Hong Kong Palace Museum
レオナルド・ダ・ビンチ、ミケランジェロとともに盛期ルネサンスの三大巨匠の一人ラファエロ。「神のごときラファエロ」とまで言われた彼の作品「聖母子と幼児聖ヨハネ」。 1510–1511年ごろの作品で板に油絵で描かれています。
聖母子像は、聖母マリアの象徴、青と赤のローブを纏っています。ラファエロの得意とする裸の子どもの柔らかな肌、手を差し伸べる厚みのある幼児の腕などの描写は、神の包み込むような愛を象徴していると言われます。
この頃の絵は、貧しい人々や文字を使えない人々の想像力に語りかけるためと思われています。しかし、ラファエロの「聖母子像」は、裕福な所有者やエリート・ネットワークの私的な鑑賞のために描かれ、貧しい人が観られるようになったのは、1865年にナショナルギャラリーに収蔵されてからだそうです。
Sandro Botticelli (about 1445–1510)/ Three Miracles of Saint Zenobius /About 1500/Tempera on wood/The National Gallery, London. Mond Bequest, 1924
フィレンツェの守護聖人、5世紀の司教、聖ゼノビウスの奇跡を3つのシーンに分けて描いたボッティチェリの作品です。左側には、ワイン色のマントを羽織った司教、聖ゼノビウスが母親を殴って呪いをかけられた2人の若者を治療している様子が描かれています。彼らの口からは2匹の小悪魔が出います。中央の場面では、死んだ息子を膝の上に抱いている女性が描かれており、聖ゼノビウスは少年を祝福し、死からよみがえらせようとしています。右側では、聖ゼノビウスが教会の階段で盲目の物乞いの目に指を当てて癒しています。ボッティチェリはキャリア後期になると、初期の装飾的な作風を否定し、この作品に見られるような、より敬虔でシンプルなアプローチを好んで描いたのでした。
踊っているようにも見える小悪魔のポーズがお茶目に見えてしまいますね(笑)
© Hong Kong Palace Museum
展示ギャラリーの内装は教会をイメージして作ったそう。当時とても高価だった青の顔料を使った作品が並ぶ。中央のラファエロの作品に多大な影響を受けたと言われているのが、ラファエロの2世紀も後に活躍したサッソフェッラートの絵画「聖母」(右側)。彼の大部分の作品は、聖母と聖家族の無垢に描かれた献身的なイメージで構成されていて、いくつかのバージョンが繰り返されています。
観賞していると、「聖母」を模写しているアーティストに遭遇しました。
この日、故宮文化博物館に招待されたアーティスト。彼女は絵画を勉強中だそうで、元々子どもの絵画教室に付き添っていたら、自分の方が興味が出てきてしまい、子どもが辞めた今も自分のために通っているのだそう。Instagram@januschowyin
欧米ではこういったアーティストがお目あての絵画の前で模写をしている光景をよく見かけますが、香港ではまだそこまで自由に描ける状況ではないようです。これからは気軽に本物の作品の前で模写できるようになると良いなと思います。なんて贅沢な時間なんでしょう!
香港故宮文化博物館
The Special Exhibition “Botticelli to Van Gogh: Masterpieces from the National Gallery, London”
2024年4月11日まで
https://www.hkpm.org.hk/en/exhibition/botticelli-to-van-gogh-masterpieces-from-the-national-gallery-london
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