2024/03/07

香港の3月といえば、アート月間です!巷ではたくさんのアートフェアが行われていますね。色々ありすぎて大変ですが、今回は、4月11日に終わってしまう故宮文化博物館で開催中の、「Botticelli to Van Gogh: Masterpieces」のハイライトをお届けします。作品はイギリスのロンドンにある国立美術館とも呼ばれるナショナル・ギャラリー・ミュージアムからの52点です。(こちら2ページ目です!)


故宮文化博物館特別展「Botticelli to Van Gogh」ハイライト

特別展アイコンとなった1枚「レッドボーイ」

展示室の紹介
①Sacred Images (聖なるイメージ)

(2ページ目)
Mythology(神話)
DailyLife(日常)
④Portraiture(肖像画)
⑤Landscapes(風景画)

(3ページ目)
⑥Modern Times (近代)

おまけ:絵の具のお話


今回の52点を6つのテーマに分けて展示している特別展。続けて、2つ目のセクション、Mythology(神話)をご紹介しましょう。ここには神話の中のシーンを描いたものを見ることができます。

<Mythology(神話)>

画面左側にある絵が、たくさんの絵画の題材にもなっている「ガニメデのレイプ」。描いたのはティツィアーノを師に持つルネッサンスの画家、ダミアーノ・マッツァ。この絵は、ギリシャ神話のユピテルがハンサムな青年ガニメデに夢中になり、鷲に化けて神々の故郷であるオリンポス山に青年を連れ去ったというシーンを描いています。

絵画はもともと、天井に飾られるための八角形の形をしていました。18世紀初頭にキャンバスが追加され、長方形になったそうです。今回の展示ではその八角形として飾られるはずであった絵をデジタルで再現しました(天井)。

 The Rape of Ganymede/Damiano Mazza/about 1575/Oil on canvas

絵の四隅を見ると元々は八角形であった名残りが残っています。その昔の修復の際、継ぎ足された空の変色した灰色のスマルト顔料の上にプルシアン・ブルーが塗られました。


<DailyLife(日常)>

3つ目のセクションはDailyLife(日常)。時代背景や生活習慣が見えてくる日常の風景を鑑賞できます。ここから3枚をご紹介しましょう。

下の絵は、市場や台所を描かせたら右に出るものはいないと言われるホワキン・ボイケラーの作品。

魚、果物、野菜、鳥、動物がぎっしり詰まった4枚の大きな連作「四大元素」の中の1枚です。表面的には市場や台所の風景なのですが、さまざまな種類の食べ物が四大元素を表しています。野菜は「地」、魚は「水」、鳥は「空」、獲物は「火」で、下の絵はその四大元素の中の「火」です。

非常に豊かで活気に富んだ印象の絵です。描かれている食べ物は、16世紀全般、一般のネーデルラント人が容易に手に入れることができたものです(実際には、これらの絵が描かれたのは、政治的・宗教的抑圧と深刻な経済不況の時代でした)。

よく見るとドアの向こう側にキリストが座っているのがわかります。キリスト教でもプロテスタントの人々は宗教画は持てなかったので、このようにさりげなく風景の中に紛れ込ませて、飾れるようにしたのではないかと言われています。

     The Four Elements: Fire/Joachim Beuckelaer/1570/Oil on canvas

その他3つの作品も見たい方はナショナル・ギャラリー・ミュージアムのこちらをご覧ください。

 

2枚目は、下の絵。画風がフェルメールにも似ているように見えますね。フェルメールと同じ時代に生きた画家ピーテル・デ・フーチです。奥行きをもたせた遠近感と陰影、アーチの向こう側に見える夕日の美しさ。そしてテーブルを囲んだシーンが大変興味深い作品です。

 A Musical Party in a Courtyard/Pieter de Hooch/Oil on canvas/1677

よく見ていると、左の召使いのような女性は楽器を演奏しています。この楽器の形はバイオリンのようにも見えますが、バイオリンは下向きに演奏をしないため、長い間この楽器について議論が交わされていました。が、結局のところ、今は恐らくバイオリンで間違いないだろうとのこと。

そしてテーブルをよく見てください。ここに敷かれているものは、なんとトルコ絨毯です。この時代トルコ絨毯はとても高価だったため、床の上に敷いてその上を歩くなんて考えられなかったのでしょう。それを考えると、この男女二人はお金持ちに見えてきませんか? 出入り口に立っている男性は、何者なのでしょうね。実は、デ・フーチは詳細をあまり描いていないため、想像力を掻き立てられる絵としても知られています。

A Musical Party in a Courtyard/Pieter de Hooch/Oil on canvas/1677

 

そして3枚目は、アーティストが模写をしていたカラヴァッジョの作品「トカゲに噛まれた少年」。

   Boy bitten by a Lizard/Caravaggio/About 1594–1595/ Oil on canvas

「トカゲに噛まれた少年」は、テーブルに並べられた果物の中から突然トカゲが出てきたのでしょう。彼の指にしっかりかみついているトカゲを見て「うわっ!」っとなって、ただただ驚いているように見えます。風俗画と静物画の中間に位置するこの絵は、束の間の穏やかな時間に起こる予期せぬ事態を警告しているようにも見えます。手前にはサクランボとプラムと、ガラスの花瓶にはバラとジャスミンの小枝が活けられています。どれも見事な静物画です。よく見ると、花瓶の曲面に部屋の様子が映っています。この時代、まだまだこのような喜怒哀楽を伴う動作を表現した作品が少ない中、カラヴァッジョは型にはまった画家ではありませんでした。彼は、事前に紙に何度も習作を用意することなく、生きたモデルから直接キャンバスに絵を描いたと言われています。

 


4つ目のテーマは<Portraiture(肖像画)>
今回ここに展示されたすべての絵画が巨匠と言われている画家たちの絵です。なので、そこから抜粋してご紹介するのは本当に難しいのですが、今回はここから2枚をご紹介します。
 

 

最初は、言わずと知れたレンブラントの自画像。

 

Self Portrait at the Age of 63/Rembrandt/1669/Oil on canvas

レンブラントが1669年、63歳で亡くなる数ヶ月前に描いた3枚の自画像のうちの1枚。スケッチ、銅版画、絵画を含む約80点の自画像が、彼の40年のキャリアから現存しており、これは同時代のどの画家よりもはるかに多いのです。なぜレンブラントはこれほど頻繁に自画像を描いたのか? そして、鏡を見ながら何を考えていたのでしょうか。17世紀の人々は、自己分析や心の働きについて、今とは異なる考えを持っていました。レンブラントの動機はむしろもっと単純で、魂の探求というよりも、人間の肉体の質感、欠陥、繊細さに対する専門的な魅力に突き動かされていたのかもしれません。

自分自身を描くとき、好きなだけ長い時間、自分の姿を観察することができます。つまりレンブラントは、時が自分の肌をどのように老けさせていくかを研究していただけでなく、肌をどのように描くかを習得していたようなのです。その神秘的な眼差しは、老いへの苦悩ではなく、芸術の課題に深く取り組む画家そのものだったようです。

この絵のX線画像を見ると、レンブラントは当初、両手を広げ、筆のようなものを持っている画家の姿を描いていました。しかし、顔のディテールから見る者の気をそらすのを避けるために、それを止め、自分の顔にスポットライトを当てているかのように描きました。光と影の魔術師とも言われるレンブラントの光の使い方に注目してみましょう。光線は彼の高い額と鼻先で跳ね返り、斑点のある、穴のあいた眉毛と唇の周りの毛束をとらえています。対照的に、暗く陰影のある背景は薄く描かれ、ローブと毛皮の襟の質感は大ざっぱで、組んだ手はぼやけてはっきりしません。

 

もう1枚はアンソニー・ヴァン・ダイクもしくは彼の工房による「2人の若いイギリス人の肖像」。

ヴァン・ダイクは当時とても人気の高い画家でした。例えば、皆さんは写真を撮ってもらう時に、うまいカメラマンに撮影してもらいたいと思いませんか? いつもより少し痩せて、少し綺麗で、少し若々しく撮ってもらいたいからと。そうなんです、ヴァン・ダイクの絵も、実は同じような理由で人気でした。着飾った服装で、キリッとポーズを決め、10頭身以上とも取れるスタイルの良さ、まるでブロマイドのように描くというのが得意だったようです。

Portraits of Two Young Englishmen/Style of Anthony van Dyck/about 1635-40/Oil on canvas

ファッショナブルな服を着た二人の若者が、台座にもたれながら遠くを見ています。実は、この二人の肖像画は昔からアンソニー・ヴァン・ダイクの作とされてきましたが、現在では疑問視されています。1630年代の画家の作風を反映しているとはいえ、ヴァン・ダイクの1641年の死後に、彼の作風で制作した追随者によるか、あるいは工房から描かれた可能性もあるとのこと。


そして5つ目のテーマは〈Landscapes(風景画)〉。

さて、皆さんは、ここまで読んでいただき、これまで見てきた作品の中で気がついたことはありますか? 実はすべての作品で人が描かれていない絵はありません。もっと言うと、人物が必ずメインになっています。そこで、5つ目のテーマは「風景画」です。1500年以前は絵画の世界では、風景画という概念がありませんでした。風景はあってもあくまでも人物を映えさせるための背景でした。しかし1500年代になって初めて、風景という題材が主題の絵画が発表され、注目されるようになりました。

The Parting of Hero and Leander – from the Greek of Musaeus/Joseph Mallord William Turner/before 1837/Oil on canvas

風景画の展示室で最初にビジターをお迎えしてくれるのが、風景といえばこの人。ターナーの「英雄とリアンダーの別れ」。とても大きな作品です。

Landscape with a Footbridge/Albrecht Altdorfer/about 1518-20/Oil on vellum on wood

そして、この小さな作品が風景画の歴史を作ったという重要な一枚です。画家で版画家でもあったアルブレヒト・アルトドルファーによる風景画「歩道橋のある風景」。彼は、これまでに頻繁に扱われてきた題材の伝統、歴史、宗教的要素を排除した純粋に景観のみを主題として描いた初めての画家と言えます。これは、おそらく特定の場所を表しているのではなく、アルトドルファーが住んでいたドナウ渓谷のイメージだと言われています。橋の下を流れる小川、要塞のような建物、岩山など、彼は地元の森の典型的な特徴をいくつか選び、それらをひとつのイメージの中に配置しました。

アルトドルファーは低い視点からこのシーンを構成し、城の門番小屋へと続く木製の歩道橋の高さを強調しています。このシーンの要は、左の建物と右の荒野を結びつけ、文明と自然をつなぐ歩道橋。しかし、この絵の真の主題は、中央にある生い茂り力強く存在感を放ち立つ巨大なカラマツです。この作品を皮切りに、刺激を受けた多くの画家たちが、主題を自然や風景にした作品を多く輩出するようになりました。

 

さて、次はいよいよ近代、印象派へ

ー2ー

 


香港故宮文化博物館

The Special Exhibition “Botticelli to Van Gogh: Masterpieces from the National Gallery, London”
2024年4月11日まで
https://www.hkpm.org.hk/en/exhibition/botticelli-to-van-gogh-masterpieces-from-the-national-gallery-london

 

 

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