2025/03/16
メガヒット作品の公開が続く香港映画ですが、その裏で一本の映画が静かな話題になっています。聴覚障がいを持つ主人公3人の心の内側を美しく描き出し、社会との関わりについての葛藤を描いた『私たちの話し方』(原題:看我今天怎麼說、英題:The Way We Talk)という作品。聴覚障がいという難しいテーマを、美しい映像と没入力のあるストーリーで描き出しています。
主演のひとり、ジョン・シュッイン(鍾雪瑩)がこの役で第61回金馬賞の最優秀主演女優賞を受賞したことでも注目を集めています。しかも、監督は『狂舞派』(英題:The Way We Dance)で受賞歴のあるアダム・ウォン(黄修平)監督。前作で描いたストリートダンスの世界から、今回は聴覚障がい者の世界へ180度の転換です。なぜこのテーマを選んだのでしょうか。監督にお話しを伺いました。
【あらすじ】
聴覚障がいの家に生まれ育ち、手話でコミュニケーションをとるウルフ(子信)と、人工内耳手術を受けた事で口語能力を獲得したソフィー(素恩)とアラン、聴覚障がいを持つ3人の男女の物語。
聴者(聴覚の健常者)の元に生まれたソフィーは、小さい頃から努力をして聴覚障がいを克服、「普通の人」として生活する努力を続けている。その努力が実を結び、一流企業に入社し、同時にアランと共に人工内耳のPR大使として活躍する。ある日、彼女は人工内耳を拒み、自らの聴覚障がいにプライドを持って生きるウルフに出会う。衝突やすれ違いを繰り返しながら友情をはぐくむ3人だが……。
【アダム・ウォン(黃修平)監督プロフィール】
香港出身の映画監督、脚本家。香港中文大学芸術学部在学中に交換留学生としてアメリカのアイオワ大学へ留学し、映画制作を始める。『狂舞派』(英題:The Way We Dance)で2014年、第34回香港電影金像奨のおよび香港電影導演會年度大獎で最優秀新人監督賞を受賞。最新作の本作は第68回ロンドン映画祭でプレミア上映され、話題を集めた。
(補足:宮崎駿監督のアニメーションに影響を受けたと公言しており、映画『風立ちぬ』の広東語版では、主人公の声優も務めた)
この作品は聴覚障がい者が主人公ですね。このテーマを選んだ理由を教えてください。
5年前、ある短編映画の脚本のを読んだのですが、その中に聴覚障がい者がダイビング中、手話を使って会話をするシーンがあり、それが僕を捕えたんです。僕たち聴者(聴覚の健常者)は、聴覚障がい者は「不利な点」を持っているって考えますよね。でも、水面下では彼らは手話を使って自由に会話ができるという「優位性」を持っている。状況次第で不利は優位に変わると気づかされ、自分が持っていた常識が覆ったんです。これがきっかけで聴覚障がい者の世界に興味を持ちました。調べてみると、聴覚障がいを文化としてとらえるという。非常に刺激的な考え方があることを知り、このテーマについて映画を作りたいと思ったんです。
Photo Credit: MO Yu Kwan Yee
この映画が伝えたいメッセージは何ですか?
僕はこの映画を通して「聴覚障がい文化」への認知をもっと高めたい思います。
作品のメッセージは観た方それぞれに委ねますが、人は皆、それぞれユニークな個人であり、同時に社会の一部です。本当の自分でありつつ、どのよう社会の中でよりよく生きることができるか。そんなことを問いかけたつもりです。
キャスティングはどのようにされたのですか?
最初から、聴覚障がい者をメインの役にキャスティングしたいと考えていました。とはいえ、香港には聴覚障がいを持つプロの映画俳優は存在しないので、無理だろうとも思っていました。「いないなら、最初の例を作ろう」と思いたった時、幸運にもマルコ(吳祉昊)に出会えたんです。彼は3歳で聴覚を失い、手話を習い始める。しかも短編映画に出るなど、演技もかじっている。アラン役には適任だと確信しました。
Photo Credit: MO Yu Kwan Yee
聴覚障がい者であることに誇りを持つウルフ(子信)役には游學修(Neo Yau)を起用しました。彼は香港のエンタメ界で、自力でキャリアを切り開いている存在として知られています。その経験が、壁にぶち当たりながらも突き進むウルフと重なるので、役を深く理解してくれたと思います。彼は聴者なので、1年かけて手話の「地獄のスパルタコース」を受けてもらいました。本当に厳しかったんですよ! お陰で彼のことをこの作品でしか知らない人は、彼が聴覚障がいだと信じてしまうほどになりました。
Photo Credit: MO Yu Kwan Yee
ソフィー役のジョン・シュッイン(鍾雪瑩)はこの役で第61回金馬賞の最優秀主演女優賞を受賞しました。そうそう、彼女のデビュー作は僕の作品『狂舞派3』(英題:The Way We Keep Dancing)だったんですよ。ちょい役でしたが、その時から存在感がありました。でも最初は、この作品に彼女を起用しようとは思っていませんでした。彼女は手話ができると知ったので、手話通訳としてリサーチのお手伝いを頼むことにしたんです。その時に彼女の手話のスキルが高いこと、それからこの聴覚障がいの世界について並々ならぬ興味を持っていることが徐々にわかってきて、有力候補になり、最終的に起用となったんです。運命ですね。
Photo Credit: MO Yu Kwan Yee
この作品を作るにあたって、一番のチャレンジはなんでしたか?
この作品に関しては、脚本、撮影、ポストプロダクション、そして現在のプロモーションの段階にわたるまで全てがチャレンジでした(笑)。制作チームは僕を含めほとんどが聴者なので、デリケートな話題について間違えを犯す可能性があちこちに潜んでいました。リサーチの段階で聴覚障がい者の方が実際に口にした言葉でも、それをセリフとして使用することが適切か、否か。映画製作の全てのプロセスにおいて、聴覚障がい者のコンサルタントの指示を仰ぎ、検証を重ねました。
また、制作の初期の段階で、関係者からひどいフィードバックをもらったことがあったんです。この時僕はとても落ち込んで、自信喪失状態だったんですが、日本人の妻に助けられました。彼女は大学で映画のセオリーを学んでいて、今回は編劇(脚本)、剪接(編集)、という二つの役割を担ってくれました。
(妻:千春さん)
アダムはとても頑固で意志が強いので、なかなか自分の意見を曲げません。でも、わたしは妻ですからケンカできるんです(笑)。脚本の段階で問題だったのは、彼が聴覚障がいの世界に深く入り込み過ぎていて、観客の視点が抜けていたという点でした。わたしは彼が纏っているアーティストとしてのバリアを壊して、観客の視点に沿ってオープンに作品をつくる、アダムをそういう方向に導いていくことを、自分の仕事だと思って取り組みました。
Photo Credit: MO Yu Kwan Yee
次作について
今、2案あります。1案目は日本に関するもので、もう一方は手話通訳について。聴覚障がい者が裁判に巻き込まれたときの、手話通訳の役割についてです。
嬉しかったコメントはありましたか?
多くの聴覚障がい者が、映画と同じような経験をしたと言ってくださっています。リサーチを重ねたとはいえ、自分で体験したわけではありません。聴覚障がい者の方々から、こういったお墨付きをいただけていることは本当に光栄です。
Photo Credit: MO Yu Kwan Yee
日本へのメッセージ
来週3月14日から始まる大阪アジアン映画祭でこの作品が公開されます。これを皮切りに、この映画が日本で上映され、多くの皆さんに観ていただけたら嬉しいです。
大阪アジアン映画祭(https://oaff.jp/oaff2025/schedule/)
『私たちの話し方』
3月15日(土)9:50/テアトル梅田 シネマ4(完売)
3月20日(木)15:40/ABCホール(残席僅か)
上映後トークには手話通訳士が参加します。奮ってご参加ください。
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