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2026/03/14

第6回で紫砂壺を持っていないと書きましたが、実は香港で自作した紫砂壺は持っています。 

紫砂壺とは 

江蘇省宜興市で採れる紫砂泥という土で作られた急須。その土の成分や性質が、お茶の味や風味をまろやかにし、特に発酵度の高いプーアール茶、烏龍茶を淹れるのに適しており、明代頃から作陶されてきましたその文化的、投機的価値から乱掘され、紫砂泥は枯渇の危機にあり、現在採掘や中国本土からの持ち出しは厳しく制限されています。 

証明書付き紫砂壺  / プロセス前の紫砂の種類

その稀少な土を使い、職人の手によって一つひとつ成形する技法で作られたものは、とても高価です。一方安価なものは、型や大量生産されたものですが、他の土や化学物質を混ぜたもの、全くの偽物であるものも多く出回っています。 

そんな稀少で入手困難な紫砂泥で、伝統的な技法で紫砂壺を作る「黄老師の紫砂壺のワークショップ」がありました。熟練の職人でも月に数個しか作れないという紫砂壺を、丸二日間で作るハードなスケジュールですが、香港で本物の紫砂壺を制作できる機会に飛びつきました。 

紫砂壺作り専用の小道具

Lump Studio 

香港に引っ越してきて、まず最初に探したのは、陶芸スタジオでした。意外と陶芸は人気があり、街中にもスタジオはいくつもありました。ただ管理の大変さ、スペースとコストの問題などから、クラスのみのいわゆる陶芸教室がほとんどでした。その中で、アートの新興エリア、黄竹坑の工業ビル内にオープンしたLump Studioのメンバーになりました。オーナーのLizの「香港の陶芸コミュニティとしてのスタジオを」というビジョンのもと、メンバーが自由に制作できるシステムの広々としたスタジオでした。カリスマ的なLizの行動力に、多様なバックグラウンドを持つ個性的で情熱的なスタッフやメンバーたちが集まり、その理念通り、Lumpは香港の中心的な陶芸コミュニティとなっていきました。そしてこのスタジオで紫砂壺のワークショップがありました。 

板状のボディ部分 /  叩いて丸くなりました

黃美莉(Wong May Lee)老師によるワークショップ 

黃老師は、英国、台湾、日本、オーストラリアで陶芸を学び、龍泉青(宋代を代表する青磁)の技術にも通じ、香港で唯一、紫砂壺の制作と指導を行う、著名な陶芸家です。 

広東語での説明と図面に「制作工程のビデオくらい見ておけば良かったな」と後悔しながらも、まあなんとかなるさと、いよいよ制作スタート。 

図面では、工夫茶などでみる紫砂壺よりも、作りやすい大きめのサイズ全パーツをほぼ板状から作る「タタラ作り」の技法で、手と小道具で制作します。ボディは、板状の土を筒状にし、木べらでひたすら叩いて丸く成形―これが明代から続く紫砂壺の特徴的な技法です。ワークショップの参加条件が「ティーポット制作経験者」でしたが、わたしはろくろでしか作ったことがありませんでした。一般的に手捻りで作る場合、ポットのボディの曲線は、筒状の内側から押し広げたり、紐作りで成形し、叩くのは土を締め、整える程度です。 

限られた量の土なので失敗できないプレッシャーの中、黙々と作業を進めました。長年陶芸をしてきて、久々の「初めて」の経験は新鮮で楽しいものでした。普段わたしは人と同じものを作ることがないので、ランチタイムに、他の参加者たちと感想を共有するのも新鮮でした。 

優しく穏やかな黃老師の指導のおかげで、無事二日間で仕上がり、あとは乾燥させ、焼成中に割れないように願うのみ。もらった貴重な紫砂泥が残ったので、学んだ技法でもう一度ミニサイズの紫砂壺を2つろくろで、蓋碗と茶杯を各3つ、大急ぎで挽きました。そして後日、紫砂壺たちは無事に焼き上がり 、水切れもまずまずで達成感で爽快でした。 

パーツを取り付け・・・  /  Lumpで作った蓋碗と完成した紫砂壺

思い出と一緒に養壺する 

新しい紫砂壺は、使用前に「開壺」という、水のみでよく洗浄したあと、水や茶葉で煮沸して、土臭さや余分な物質を取り除く処理をします。香りや味が混ざらないように「一壺不事二茶(一つの茶壺に付一種類のお茶)」が良いとされています。 

そこから「養壺」という「茶壺を育てる」ことを始めます。香りが混ざらないように、同じ種類のお茶を淹れ続け、茶がらで表面を磨くなどして、長年使い込んだ茶壺は、艶が出てきて、またお茶のおいしさをより引き出すことができるようになります。 

Lump studioは、たくさんの人に惜しまれながら2024年にクローズしてしまいました。このエネルギッシュなLumpでの制作活動や出会いは、わたしの広東語コミュニティに飛び込む原動力ともなりました。そうしたインスピレーションからこそ生まれた作品、茶器もたくさん作陶した場所です。そんなLumpで作った、わたしにとって特別な思いのある紫砂壺。これからも大好きなお茶を淹れながら、ゆっくりと育てていきたいと思います。 

ありがとうLump studio

 

【読者の皆様へ】

このコラムを通じて、香港の豊かな茶文化と生き生きとしたコミュニティの姿を、少しでも感じていただけていたら嬉しく思います。2年間にわたりお読みいただき、ありがとうございました。 

 


Chikako

トロント、NY、シンガポール、今は香港に在住。
各地のライフスタイルや食文化にインスパイアされた器を製作してきた。
香港では中国茶器を楽しくコツコツ製作。

筆者IG : cnycstudio

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