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2026/04/21

前回クラシックバレエの見方を解説しましたが、今回はコンテンポラリーバレエの見方を伝授したいと思います。

そもそもコンテンポラリーバレエとはなんぞやという方も多いでしょう。詳しく説明すると10回分のコラムが必要なので端的にいうと、コンテンポラリーバレエとは、クラシックバレエの型を使わずに、より自由な表現法で振付師が伝えたいことを体現するものです。物語性がなく、アブストラクトだったりするのもあれば、逆に物語の現代解釈にフォーカスしたり、政治的メッセージを全面に押し出す作品もあり、一概にこれと言いにくいですが、クラシックバレエ以外全般と簡単に捉えてもらっても構いません。

つまり、クラシックの技術を引き継ぎながらも物語性をなくしたバランシンのネオ・クラシック、ポアントを脱ぎ捨てて重力を感じさせるようになったマーサ・グラハムに代表されるモダンダンス、その反発から生まれ、日常的な動作を重視したトリシャ・ブラウンのポストモダンダンス、ジャック・デリダらのポスト構造主義に影響を受け、クラシックのテクニックを内側から壊したウィリアム・フォーサイス、モダンダンスにスペクタクル性を取り入れたモーリス・ベジャール、バランシンに人間性を取り戻したイリ・キリアン、そして西洋的ダンス史への反発としての土方巽らの舞踏。これら全てを受け継いで今あるのがコンテンポラリーバレエというものです。

「ストレンジラブ」を踊る筆者 @Tony Luk

現代はさまざまなジャンルが合わさったメタモダニズム・リミックス時代と言えるかもしれません。まさにスタイルは自由。自由が故に観客もどう解釈していいのかわからないことが多々あるでしょう。

そこで皆さんに知っておいてほしいことがあります。

いくら一流の劇場で上演していてもコンテンポラリーバレエには駄作も多いのです。

なぜか。自由さゆえに、現代美術界に引っ張られコンテクストが身体を支配しているという本末転倒な現象が起きているのです。言い換えれば陳腐な自己表現とステートメント先行方の作品がヨーロッパの最先端でさえ蔓延し、観客の観劇意欲を削いでいるのです。例えば自分のセクシュアリティやマイノリティに固執するあまりに普遍性を欠いた作品や、ジェンダー平等を謳うあまり、男性用に作られた力強い振付をそのまま女性に踊らせ、結果としてダンサーの肉体を「劣化版」に貶めてしまう振付。身体の動きだけで完結させられず、エンディングに脈絡のない日本語ナレーションを流すような、ネオ・オリエンタリズムと言えるようなヨーロッパの観客の神秘性への無知を利用した安易な目くらましなど。かつて小林秀雄は文芸評論で小説家の投影である主人公を虐め抜けていない作品は読むに値しないと文壇を酷評していましたが全く同じ状況がダンスシーンにも起こっています。

そういった作品ほど、プログラムノートには延々とステートメントが垂れ流されているのが、最新トレンドの現状です。もし舞台上のダンスがステートメントの確認作業になるならば、それは小林のいう陳腐な自己表現に過ぎません。かつて言語学学会ではアラン・ソーカル事件というものがありました。ソーカルはあえて、中身のない論文にポストモダンの用語を散りばめてジャーナルに送ったところ、その論文が大絶賛されたという事件です。わたしにはソーカル事件の二の舞がバレエシーンで起こっているように思えるのです。そもそもコンテクストなしに理解できないバレエ作品に価値はあるのでしょうか。

そして文化予算の少なさは若手作家の発掘も疎かにしています。かつてフォーサイスやホフェッシュは自分の哲学を作品に落とし込むために長い時間と自分をいじめ抜きスタイルを再構築し作品を生み出していました。しかし予算の限られた劇場はジェネリックな安上がりで、早くできる作品を望み、巨匠の元で働いている若手にコピーを作らせるという現象が起きています。名前は出せませんが、僕に言わせればアップデートではなくただの劣化版です。

そしてトレンドサークルの速さは、全員とは言いませんが、大物の振り付け家さえも自身の出自をパッケージ化した自己模倣の限界を迎えています。だからこそ、作品に対して信念を持つアクラム・カーンなどの巨匠たちがあえて自らのカンパニーを解散することが起こっているのです。

なのでコンテンポラリーバレエを見てわからないと思ったあなた、それはあなたのせいではなく作品のせいかもしれません。

「イン・ザ・ミドル」を踊る筆者

結局のところ、コンテンポラリー作品を見た時に、目の前のダンサーが見ている側の心に何か語ってきたらそれは良い作品です。よくわからず、プログラムノートを必死に読まなくてはいけない作品は3年後すでに消えているでしょう。

フォーサイスの「イン・ザ・ミドル」、キリアンの「ベラフィギュア」、ナハリンの「マイナス16」など、初演から何十年が経っても観客の心を掴んではやまない作品も中にはあるのです。

コンテンポラリー作品は安いチケットでとりあえず数を見た方が良いです。そうすれば権威や名前に惑わされず、自分の感性に自信を持つことができるでしょう。

そんな時間はないので、さっさと通ぶりたい人は「踊りがタイト」だったねと言ってください。その意味はダンサーでもよくわからないのですがよくコンテンポラリー作品を踊る時に「もっとタイトに」と指導を振り付け家から受ける魔法の言葉です。

 


高野陽年

立教大学中退後、2011年にロシアの名門ワガノワバレエアカデミーを卒業し、世界的振付家ナチョドゥアトの指名を受け、外国人初の正団員としてロシア国立ミハイロフスキー劇場に入団。主にドゥアト作品で活躍した後、2014年に世界的バレリーナのニーナアナニアシヴィリに引き抜かれ、グルジア国立トビリシオペラバレエ劇場に移籍。ヨーロッパ、北米、日本を含めさまざまな劇場で主役を務めた。2021年より香港バレエ団に活動の拠点を移し、2024年には香港ダンス連盟より最優秀男性ダンサー賞を授与され、プリンシパルダンサーに昇格。さらに活躍の場を広げている。そして学園生活をとりもどすべく?イギリス公立オープン大学でビジネスマネージメントを専攻中

 

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