2026/10/26
中秋節を過ぎ、暦の上では秋に入ったものの、まだまだ暑さが続く今日この頃。ここ香港はスポーツの秋にはちょっと早い気がする陽気ですね。暑さがひと段落するまでは、ひんやり涼し〜い映画館で「芸術の秋」を楽しむのはいかがでしょう? この秋はお勧めしたい香港映画が盛りだくさん! 今回はその中から2作品をご紹介します。
左:『超風』、右:『我阿爹想旅行』Photo courtesy of Golden Scene Co. Ltd.
感動コメディー映画『我阿爹想旅行』
まず1作目は大人気上映中の『我阿爹想旅行』(英題:Good Trip)。ハートウォーミングなコメディー映画で、封切り後わずか数週間で興行収入が累計HK$1,000万を突破するなど、大ヒット記録中です。
Photo courtesy of Golden Scene Co. Ltd.
物語の主人公は映画の美術助手として日々忙しく働く娘と、病気で入院中のちょっとエキセントリックな父親。病状が思わしくない父は娘を説き伏せ、一緒に病院をこっそり抜け出します。ちょっとした外出だと思いきや、なんと香港からマカオ、そして日本の沖縄へと向かうことに!これまでの人生の未練や未完成の想いを埋めていく、笑いと感動に満ちた旅が描かれます。
上:ニック・チョン 下:ジョン・シュッイン Photo courtesy of Golden Scene Co. Ltd.
見どころはなんといっても、ベテランと若者、実力派俳優2人の共演。香港を代表する名優ニック・チョン(張家輝)と、新世代の演技派女優ジョン・シュッイン(鍾雪瑩)が、なんとも豪華な父娘を演じます。
ニック・チョンがバーコードヘアに挑戦して演じた父親はユーモアたっぷり。ところどころ、観ているわたしたちの父親の姿を重ね合わせてしまうようなリアルな温かさを見せるのは、香港電影金像奨の主演男優賞を2度、金馬奨の主演男優賞を1度受賞している実力派俳優なればこそです。
さらに、自由奔放な父に翻弄され「パパうざい」と思う気持ちと、父との旅の一瞬一瞬を噛み締め「パパ愛してる」と切ない感情の間を揺れ動く娘を演じるジョン・シュッインの姿にも感情を揺さぶられます。さすがは金馬奨の最優秀主演女優賞に輝いた実力派!
そんな名優2人が繰り広げるコミカルな掛け合いや、息の合った親子のやりとりは必見です!
脇を固める助演俳優陣にも注目あれ!『我們不是什麼』出演で注目を浴びたアンソンビーン(陳毅燊)がここでは愛嬌たっぷりの役で登場。そして香港が誇るボーイズグループMIRRORのスタンリー・ヤウ(邱士縉)は「布地の量が少ない」と話題になったコスチュームの役柄ほか複数の役で出演しています。
この不思議なシーンは一体……?答えは映画館でどうぞ!Photo courtesy of Golden Scene Co. Ltd.
さらに、香港からマカオ、そして沖縄へと舞台が移り変わるロードムービーになっているため、美しい沖縄の風景が楽しめるのも日本の観客には嬉しいポイントです。笑って泣けて、鑑賞後には「久しぶりに家族や大切な人に連絡してみようかな……」そんな温かい気持ちにさせてくれる作品です。
『我阿爹想旅行』
香港 / 2026年 / 108分
監督:ノリス・ウォン(黃綺琳)、ホイ・ウォン(黃鐦)
出演:ニック・チョン、 ジョン・シュッイン、ヨーヨー・モン(蒙嘉慧)、スタンリー・ヤウほか
上映情報:Hong Kong Movie 6
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左:チウフォン 右:アビン(阿變)
トランスジェンダーの視点から見た香港『超風』
もう一本のお勧めは名優トニー・レオン(梁朝偉)のお墨付きの作品『超風』(英題:Cyclone)です。Hong Kong LEIでもインタビューした香港映画界の俊才・フィリップ・ユン(翁子光)監督の最新作。コメディーだった前作とはガラリと作風が変わり、トランスジェンダーの生き様を描いた力強い作品です。
香港で生活を送るチウフォンは性別適合出を切望している。
チウフォン(超風)は中国出身のトランスジェンダー女性 (*)。性別適合手術を受けて本当の自分を取り戻すことを切望し、その費用を稼ぐために香港で必死に働く日々を送っていました。しかし、薬物依存の恋人との軋轢や、異郷での過酷な現実に追い詰められていきます。そんな中、小梅という女性と出会い、彼女の温かな優しさに包まれます。性別適合の機会が巡ってきたチウフォンの心に芽生えた戸惑いとはーー。
* トランスジェンダーとは 出生時に割り当てられた性別と性自認が異なる人。この作品の主人公のチウフォンは割り当てられた性別は男性で、性自認が女性。

左:チウフォン 右:アビン(阿變)
異郷、性風俗、そしてトランスジェンダーという「三重の生きづらさ」に立つ人々に光を当てた作品。20人ものトランスジェンダーたちへの取材から生まれた脚本には圧倒的なリアリティーが宿っていて、チウフォンが感じている心の痛みに直面し、共感を覚えずにはいられません。社会の片隅で懸命にアイデンティティーを探し求めるチウフォンの姿は、自分が自分らしく生きることを否定される社会への疑問を言葉なしに突きつけてくれます。
また、湿度ある空気感を漂わせる映像美にもご注目。安宿、裏通り、唐楼 (*) など、味わい深い香港の風景が独特のカメラワークとライティングで、時に妖しく、時にアーティスティックに映し出されます。その映像に描かれるのは、単純な悲哀でも安易な希望や絶望でもなく、名付けようのない心のグラデーション。登場人物のセリフだけでなく、光や構図、登場人物の佇まいといったビジュアルが言葉のように雄弁にストーリーを語る作品です。第55回ロッテルダム国際映画祭をはじめ、国内外の映画祭で高く評価されている本作品、お見逃しなく!
* 唐楼:19世紀半ばから1950年代ごろまでに建てられた低層の建築物。現在では老朽化が進んで取り壊されることも多い。
『超風』
香港 / 2026 年/ 119 分
監督:フィリップ・ユン
出演:リウ・ユーチャオ(劉語喬)、エドウィン・リ(李雨蓒)、ジェニー・スン(孫禾頤)ほか
上映情報:Hong Kong Movie 6
(注:本作は性的表現がある成人指定の映画のため18歳未満は視聴できません)
映画を通して、香港のさまざまな世界をのぞいてみませんか?
それでは、素敵な銀幕の旅へいってらっしゃーい!
取材・文:紅磡リンダ(編集部)
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