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2026/06/18

©︎Keith Macgregor, ‘Nathan Road looking South’, Hong Kong 1999 [KM-144B], courtesy of BLG’, 写真ダウンロードや転写、無断使用は違法です。

かつて香港の夜は、眠ることを知りませんでした。東洋の真珠と称されたこの街の原動力は、日が暮れた後にこそ、その圧倒的な存在感を放っていたものです。

皆さんもかつてお土産屋さんで見たことがある写真かもしれません。1980年代、写真家のKeith Macgregor(キース・マクレガー)氏が切り取った香港の夜景はポストカードとなり、数百万枚も世界中に羽ばたきました。旅人が家族に宛てて送ったその1枚1枚が、世界中の人々、あるいは地元の人々が抱く香港はネオンで輝く街という「香港のイメージ」そのものを形作ったと言っても過言ではありません。

頭上を覆い尽くさんばかりに迫り出す、巨大な看板たち。赤、青、緑、黄色――ぎらぎらとした極彩色の光が重なり合い、湿度を帯びた夜気の中で怪しく、そして美しく明滅していました。それは香港の経済的繁栄の象徴であり、人々のエネルギーがそのまま結晶化したような、街の「呼吸」そのものでした。

1980年代の全盛期、香港の空には10万枚を超えるネオンサインがひしめき合っていたと言われています。レストラン、麻雀店、サウナ、質屋――。それぞれの店が競うようにして、より大きく、より派手な光を路上に突き出していました。

©︎Keith Macgregor, ‘Nathan Rd at night’, Hong Kong 1999 [KMNEON-06], courtesy of BLG 写真ダウンロードや転写、無断使用は違法です。

時代の針が進み、2000年代以降、都市の再開発や安全基準の厳格化、そして安価で効率的なLED技術の普及によって、昔ながらのネオンは急速にその姿を消していきました。かつての光は、今や400以下にまで激減しています。街の顔だった数々の名店が閉店し、たとえ看板自体が保護されたとしても、街は容赦なく移り変わっていきます。

2007年の設立以来、そんな香港の社会的変化や文化的記憶や、進化し続けるアイデンティティを写真というメディアを通して見つめてきたBlue Lotus Gallery(ブルー・ロータス・ギャラリー)が主催する展覧会、それが『City of Lights』です。今回の展示は、かつて私たちが愛し、そして失いつつある「ネオンに染まった香港」へとタイムスリップさせてくれる、極めて貴重な機会となります。

©︎Keith Macgregor, ‘Crazy Horse Club’, Lockhart Road, Hong Kong 2000 [KMNEON-29], courtesy of BLG 写真ダウンロードや転写、無断使用は違法です。

近年の香港では、香港デザイン学院や大館でのネオンに関わる展覧会が成功を収めるなど、自分たちのアイデンティティの根幹であるネオンカルチャーを再発見し、見直そうとする気運がかつてないほど高まっています。今回のギャラリーでの展示も、まさにそうした「街の記憶と再び繋がりたい」と願う人々の熱い思いに寄り添うものです。

写真家キース・マクレガー、レンズが捉えた都市の鼓動

この展覧会の主役であり、消えゆくネオンの最大の理解者、それが英国人写真家のキース・マクレガー氏です。1946年に生まれ、イギリスとアジアを行き来して育ったキース氏は、やがて香港に定住。1990年代後半まで、アジアの家具ビジネスで成功を収める傍ら、カメラを手に、この激動の変革期にあった香港の街頭、港、スカイライン、そして何よりも「ネオンで輝く夜」を熱狂的に記録し続けました。

キース・マクレガー氏 ©︎Keith Macgregor ortrait Keith Macregor, Hong Kong 2023 写真ダウンロードや転写、無断使用は違法です。

キース氏は1998年、この美しいネオンたちが急速に失われつつあることに強い危機感を抱き、壮大なプロジェクトに乗り出しました。香港島から九龍、新界に至るまで、何週間もかけて夜の街を歩き、可能な限り多くの看板をフィルムに収めたのです。その執念とタイミング、そして香港の決定的な瞬間を嗅ぎ分ける本能があったからこそ、私たちは今、すでに失われてしまった景観の輝きだけでなく、かつてこの街を温かく照らしていた「職人たちの精神」に、時を超えて触れることができています。

©︎Keith Macgreogor, ‘Trams in Johnston Road’, Hong Kong 2000 [KM-15D], courtesy of BLG 写真ダウンロードや転写、無断使用は違法です。

写真集『City of Lights』の出版

今回の展覧会と同時に、キース氏のこれまでの集大成となる写真集『City of Lights』が上梓されます。ここには、これまで日の目を見ることがなかった何百枚もの未公開アーカイブが収録されています。

しかし、この書籍と展覧会が本当に伝えているのは、単なる「古き良き時代へのノスタルジー」や「失われたことへの哀歌」ではありません。これは、ネオンという文化が形を変えていく「進化の物語」でもあるのです。

巨大な商業看板としてのネオンの時代は幕を閉じつつあるかもしれません。けれど、その精神は、現代の新しいクリエイターたちにしっかりと受け継がれています。本書では、アーティストのジャイヴ・ラウ氏をはじめとする新世代の表現者たちが、ネオンという媒体をいかに現代のアートとして再解釈し、新しい形で街に光を灯し続けようとしているかという「未来へのバトン」にもスポットを当てています。

めまぐるしく変化し続ける香港。その濁流のような変化の中で、キース・マクレガー氏が捉えた光は、私たちの心の中で、今もなお鮮やかに、優しく輝き続けているのです。


『City of Lights, Hong Kong’s Neon Heritage』
会期:2026年10月4日まで
会場:Blue Lotus Gallery
住所:28 Pound Lane Tai Ping Shan, Hong Kong Island, Hong Kong
トークイベント:6月20日(土)14:00 – 16:00 (出演:共著者カーディン・チャン氏、キース・マクレガー氏)
お問い合わせ:Instagram @bluelotusgallery

©︎Keith Macgregor, ‘Signs in Argylle street’, Hong Kong 1999 [KMNEON-165], courtesy of BLG 写真ダウンロードや転写、無断使用は違法です。

 

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