2022/01/05
你呢排點啊? 新しい1年が始まりました。「見る」「観る」「視る」「診る」「看る」「味る」「魅る」。今年も数字から“みた” 香港の様々な風景を皆さまにお届けしていきたいと思います。よろしくお願いします。
さて、第9回「1本HK$40,000」から続くインプラント体験記。今回は、歯根部分となる金属を顎骨に埋め込むべく手術台に載せられたわたしのその後の顛末と、香港の歯医者さん事情についてお伝えしようと思います。
―2020年11月―
3ヵ月前に終わった抜歯にホッとし、心の準備をすることなくその日を迎えたわたし。病院に着いた途端、手術着への着替えといういきなりの展開に「本格的な手術じゃないか!」とあたふたしましたが、歯科に加え、口腔外科と一般外科の専門資格もお持ちのH先生。もう観念して身を委ねました。耳元で鳴ってるドリル音は少し怖かったけれど、金属を埋め込んで切開した部分の歯茎を縫合する作業は30分程度で終了。帰り際、念のためにと痛み止めを手渡され、処方された抗菌剤も3日間服用しましたが、幸い腫れもなく、術後の痛みを感じることもありませんでした。1週間後には歯茎の抜糸も完了。埋め込んだ金属と骨が結合していることがCTスキャンで確認されるまで、さらにもう3ヵ月待つことになりました。
主治医のW先生に紹介してもらったインプラントの第一人者H先生の医院。W先生のお母さんもお世話になっているそう。政府のHPには歯医者さんの探し方について「親戚や友人に紹介してもらうなど、口コミで歯科医院を探すのもよいでしょう」と堂々と謳われていて、人的繋がりを重要視する香港っぽいなと感じました。(https://www.toothclub.gov.hk/mobile/en/home_04_01_01.html)
そうそう。香港と日本の違いが気になって調べてみたら、香港の歯科医師の数は最新の統計で2,341人なのだそうです(注1)(因みに日本の歯科医師の数は104,533人、歯科医師1人当たりの人口比(イメージ)は、香港:日本=3,200人:1,200人(注2~4))。香港で歯医者さんにかかる場合、私立のクリニックのほか、政府の運営する歯科診療所を受診するという選択肢もあるのですが、現在39ヵ所ある政府系歯科診療所のうち、歯の痛みを和らげるために投薬や抜歯など緊急のトラブル治療をしてくれる診療所は11ヵ所。無料ですが、急患枠は週に1日か2日、午前か午後のみに限られます(注5)。歯科医師全体の7割を超える方が私立のクリニックに勤務されていて、政府系歯科診療所に勤務されている歯科医師の方は2割程度(注6)。需給のバランスを考えると、安価に受診できる代わりに待ち時間も長い政府系歯科診療所は、あくまで歯科検診受診や非緊急の際のセーフティネット的な位置付けなのだろうと思います。
一般市民を対象とした緊急歯科サービス(GP(General Public)Session)を提供する政府の歯科診療所。Hong Kong(1ヵ所)、Kowloon(2ヵ所)、New Territories & Islands(8ヵ所)。
インプラントや矯正など、緊急トラブル以外の歯のトラブルにも対応している政府系歯科診療所。こちらは、さらに年単位での待ち時間が必要です。友人の旦那さんのインプラント処置。初診から3年毎の再診。お医者さんから「3年後にまたね」と言われ続け、「次こそ処置してもらえるだろう」という期待と失望を繰り返し、初診から12年後にやっと新しい歯を作ってもらうことができたそうです(でも、費用は無料。驚愕!)。
先月発表された統計によると、過去1年に歯科治療を受けたことのある人の76.9%が私立のクリニックの受診、21.6%が政府系歯科診療所の受診、1.4%がその他の歯科医院(香港大学歯学部の学生のための教育病院、プリンス・フィリップ歯科病院(患者の口腔状態が教育に適ったものであった場合のみ少人数受け入れ)など)の受診でした(注7)。歯茎の痛みが酷く、抜歯したら歯根部分に穴が開いていたわたしの私立クリニックでの高額な治療費は、簡単に日本に一時帰国ができなくなった今、緊急で必要な経費だったのだとようやく諦めがつきました。
湾仔にある政府系歯科診療所。小児歯科も併設されていて、長男は5階のフロアで歯科検診をしてもらいました。
―2021年2月~7月―
インプラントもいよいよ最終工程。金属と骨が無事に結合されていることが確認され、ここでH先生とはお別れ。主治医のW先生の診療所で人口歯を作り、埋め込んだ金属に取り付けてもらって全工程終了。のはずでしたが、新しい歯を取り付けてからというもの、奥歯にずっと物が挟まっているような感覚があり、その後数日おきに2回ほど再診してもらいました。そうこうしていたら、装着から2週間後のある日。夕飯の鰺フライのしっぽを噛んだ拍子に、人口歯の支台部の金属が根元からポキリと折れてしまったのです。翌日、ジップロックに入れた歯を持って行ったら「外から診て分からなかった違和感をずっと感じていたのね。ごめんねー。頑張ったねー」とW先生はハグで私を迎えてくださり、泣き笑い。手術担当のH先生、主治医のW先生、歯科技工士、3人による原因究明の話し合いの結果、追加費用なしの新しい素材で歯を作り直してくれることになりました。6月頭、ピカピカの歯は晴れてわたしの身体の一部に。1ヵ月後のフォローアップ検診が終了する頃には、夏真っ盛りで、初めてW先生のドアを叩いてからちょうど1年が経過していました。
―2021年12月―
インプラント治療の間、仮歯は入れていなかったため、奥にぽっかりと1ヵ所、穴の開いたわたしの歯並びをずっと見ていた息子たち。「歯を磨かなかったら、こうなっちゃうからね」と恐怖心を植え付けるには教育的効果てきめんだったようで、イヤイヤだった歯磨きも最近ではしっかりと時間をかけてくれるようになりました。高額な治療費を回避するための予防策。香港政府は小学1年生から6年生、全ての小学生を対象に、学校歯科医療サービスを提供しています。
ひとり1冊、小学6年生まで歯の記録を残せるハンドブックがもらえます。歯の「なぜ?どうして?」ビジュアルで分かりやすい説明も充実した内容です。
7歳の長男の今年の定期歯科検診指定日は12月24日のクリスマスイブ。湾仔にあるスクールデンタルクリニックで「きれいによく磨けているね。異常なし。一番奥の歯は大人の歯で、もう生え変わらないから、これからもしっかり磨くんだよ」とお医者さんに笑顔の歯のシールを貼ってもらったハンドブックを受け取って、長男もニコニコ顔。1本HK$40,000(抜歯まで含めるとHK$45,000)のインプラント代は、今後の子どもたちの歯の健康のためでもあったと考えれば、高くはついたけれど嬉しいクリスマスプレゼントでもあったのかもしれません。
Emi in HK。多謝收睇。それでは、旧正月明けにまたお会いしましょう。身體健康!
【出典】
※注1…2018年醫療衞生服務人力統計調査(香港特別行政區政府 衞生署)
https://www.dh.gov.hk/tc_chi/statistics/statistics_hms/sumdn18.html
※注2…平成28年医師・歯科医師・薬剤師調査(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/16/dl/kekka_2.pdf
※注3…2018年二零一八年年底人口數字(香港特別行政區政府 政府統計處)
https://www.censtatd.gov.hk/tc/press_release_detail.html?id=4419
※注4…人口推計(平成28年10月1日現在)(総務省統計局)
https://www.stat.go.jp/data/jinsui/2016np/index.html
※注5…牙科診所―公務員牙科服務(政府牙科診所及牙齒矯正科診所) (香港特別行政區政府 衞生署)
矯正診療所(2ヵ所)と紹介受診のみ可能な診療所(2ヵ所)を省いてカウント
https://www.dh.gov.hk/tc_chi/clinictimetable/dc.htm
※注6…注1に同じ
※注7…主題性住戶統計調查第74號報告書-接受牙醫診治情況(香港特別行政區政府 政府統計處)
https://www.censtatd.gov.hk/en/data/stat_report/product/C0000013/att/B11302742021XXXXB0100.pdf
Emi
映像プロダクション会社勤務。大学院修了後、日本・東京商工会議所にて、中小企業の資金調達支援から政策立案時の省庁との折衝まで多岐にわたる業務に従事。15年半の勤務を経て2019年、夫の仕事の都合により来港。2020年から現職。夢は日本と香港の合作映画の製作に関わること。気分転換は25年振りに再開したピアノ。インター校に通う7歳、4歳、男児2人の母。
Twitter @emi_m_wang
E-mail emiinhkg@gmail.com
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