2022/11/12

閉店:店をとじて商売をやめること。店じまい。(Oxford Languagesより)

 

 

10月31日、太子・基隆街にある茶餐廳が、五十数年に亘る歴史に幕を閉じました。

その店の名前は「源發咖啡廳 Yuen Fat Cafe」。

 

何を隠そう、源發はわたしの家から徒歩圏で行ける近所のお店。夜の営業こそやっていませんでしたが、出勤時の道すがら「ちょっと会社に行きたくないから、三文治(サンドイッチ)食べて出勤するか。」とか、休日の帰り道に「疲れたからここで凍檸茶(アイスレモンティー)を一杯引っかけてこ!」なんていう気分の時にふらっと入れるお店でした。

 

他の茶餐廳とは少し異なるシックな色のタイルが飾る壁に、毎年変わる干支の切り絵が目立つ所に貼られていた素敵な店内はいつも街坊(地元の人たち)で賑わいを見せていましたし、閉店時間が近づく夕暮れになると白いお猫さまが優雅にお出ましになっては、人間たちの熱い注目を浴びていました。看板メニューの「蔥油豬扒煎蛋飯」はポークチョップに目玉焼きが乗ったシンプルなメニューでしたが、たっぷりかかった葱のソースが豚肉のジューシーさを引き立てて、結構なボリュームのごはんが一瞬で消えてなくなるほどの美味しさでした。わたしのおすすめはパクチーがこれでもか!と入った豚レバーのビーフンスープ「芫茜豬膶湯米」。意外と思えるかもしれませんがこれがクセになる組み合わせで、眼鏡を曇らせながらよく食べていました。

 

 

そしてわたしの中での源發の目玉はとにかく分厚くて枚数が多い凍檸茶(アイスレモンティー)!

「凍檸茶のおいしさはレモンの厚みで決まる」派のわたしは、年を追うごとにレモンが薄くなり、枚数も減ってきていると言われる香港のアイスレモンティー事情に涙を流すばかりですが、そんな世情を一切無視したこの厚さ、この枚数、虜になるほかありません!特に夏の暑い時期、親の仇のようにスプーンとストローでガシガシとレモンを潰してから飲むここの凍檸茶を体験すると、ビールのCMさながらに「のどごし!爽快!うまい!」と叫びたくなってしまいます。

 

 

そんな「源發」の閉店が発表されたのは、今年10月のはじめ。

ネット上で流れる「閉店らしい」という情報を目にして、信じられない気持ちで源發へ行ってみると、「今月末までよ。」と、淡々と語る店のおねえさん。そして10月5日(水)には、お店の外に、こんな閉店の挨拶が張り出されました。

 

 

中文に加えて、英文、そしてまさかの日本語でも記された閉店のあいさつには、様々な苦難を乗り越えてきた自負、期せずして閉店を余儀なくされる無念さだけでなく、ひと言ひと言からにじみ出る顧客への感謝が記されていました。近隣住民にも、ふらっとやってきたお客さんにも、わたしたち日本人にも、多くの人に愛された店だからこその自負と感謝。こんなにさびしい別れはありませんが、それでも皆が源發に、この茶餐廳に会えてよかったと思ったに違いありません。

 

今月末(11月30日)には香港島西部・堅尼地城にある「祥香園餐廳(祥香茶餐廳とも)」の閉店も発表されています。閣樓と呼ばれる中二階の座席があること、店で焼いているパンやエッグタルトを出すこと、これらは「祥香園」の特徴であり、古くからある茶餐廳の特徴でもありますが、もはやこの要素を兼ね備えている店は風前の灯火。「源發」「祥香園」以外にも、この二、三年だけで旺角・中国冰室、西灣河・百好咖啡餅店、上環・海安咖啡室…、半世紀前後の長い歴史を持つ名店たちが次々と香港から姿を消していきました。こういった茶餐廳を愛してやまないわたしが、今の香港に居る意味さえも考えはじめてしまうほどに。

 

 

「港」である香港は人の出入りだけでなく、店も、味も、そこで過ごしてきた時間や交わされてきた会話も、何もかもが波のように打ち寄せては消えてゆくものなのかもしれません。

馴染みの店が消え、その数以上に新しい店ができ、そしてまた消えていく。

その絶え間ない潮の満ち引きの中で、奇跡のように長く波打ち際に残り続けているわずかな店が少しでも長く生き残るために、今日も踏ん張る老舗茶餐廳へ行ってみませんか?

 


akiramujina

九龍を拠点に「茶餐廳愛好家」を勝手に名乗り、ほぼ毎日茶餐廳や冰室に足を運んでいる在港日本人。
趣味は旅行と茶餐廳めぐり。コロナ禍で旅行ができない今は年100店以上の茶餐廳訪問と、年300杯以上の港式奶茶を目標にしています。
どこへでも行くフットワークの軽さが自慢ですが、どこへでも食べてばかりいるせいで自身の重さが悩み。
TwitterとInstagramでも食べ物の話ばかりしています。

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