2023/12/15

目次

(1)
▶︎香港バレエ団と、ダンサーたち
▶︎香港バレエ団ならではの「くるみ割り人形」の楽しみ方
(2)

▶︎リハーサルを訪問!
日本人ダンサーのご紹介
ドレスリハーサル

▶︎インタビュー
神崎開さん(公開中!)
Cover Story:高野陽年さん
( 2024年1月20日に公開しました)
 

(3)

▶︎舞台裏を覗いてみよう!

▶︎セット

▶︎衣装の工房に入れていただきました!
ー鬼才ディレクター
ー工房で作っているもの
ー衣装の工夫
ーおもしろ衣装

▶︎シーズンの演目、注目など


香港版「くるみ割り人形」の制作に関わる裏方で特にご紹介したいのが、セットと衣装です。今回はオリジナルの部分がたくさんあるので、白紙から作ったものが多数あります。

 

【セット】
ー香港の風景を取り入れたセット

◆甘棠第(コム・トン・ホール)

「くるみ割り人形」で最初に目にする、主人公クララとその家族の家である建物の外観は、現在孫文博物館となっている甘棠第(コム・トン・ホール)をモチーフにしています。香港のエドワード朝植民地時代に流行した複合古典様式で建てられ、赤レンガの壁、窓やドアの周りの花崗岩のドレッシング、バルコニーの華麗な鉄細工が特徴です。甘棠第(コム・トン・ホール)は1914年に建てられ、1960年まで何一族の邸宅でもありました。何東(ロバート・ホー・トン)卿は『くるみ割り人形』第1幕に登場する賓客の1人です。

◆旧九龍広東鉄道時計塔(写真下右側)

甘棠第(コム・トン・ホール)の向かって右のところにある見慣れた時計台に気づく人も多いでしょう。赤レンガと花崗岩で1915年に建てられたこの時計塔は、今では尖沙咀の観光名所となっています。高さは44メートルで、九龍広東鉄道のターミナルは1978年に取り壊され、この時計台だけが残されました。

Photo Credit: Antiquities and Monuments Office Info source: Antiquities and Monuments Office

ー香港藝術館(HKMOA)の所蔵作品を舞台セットに展示

そして、中に入ってみると、クララの家のボールルームへつながります。この部屋に掲げられた絵は、実際香港藝術館(HKMOA)が所蔵している作品のレプリカで、美術館のコレクションから21点の絵画や掛け軸を今回のために選んだものです。ほとんどの絵は19世紀半ばの貴重な作品ばかり。ここに飾られることで、部屋自体の重厚さが増し、20世初頭の香港の裕福な家庭であるという説得力が出てきます。

それぞれの絵をじっくり解説つきで見てみたい方はこちらでご覧になれます! 香港藝術館(HKMOA)と提携するほどの力の入れように驚かされますね。是非是非、このシーンも見逃さないように!

Photo Credit: Antiquities and Monuments Office

両側の柱に掛けられているのがわかりますか?


【衣装工房に入れていただきました!】

そして今回、本当に貴重な体験をさせていただきました。
案内してくれたのは、コスチュームデザイナーのジョアンさん。300着ものコスチュームをくるみ割り人形のために1年かけて作ったそうです。ダンサーのコスチュームはお芝居の衣装と違って、まず大切なのは動きやすさです。そのため知恵を絞って、工夫を凝らし、動きやすく、軽く、通気性が良いことを心がけて制作しているそう。難しいこともあるけれど、遊び心を持って解決していくのがとっても楽しいともおっしゃってました。

コスチュームショップ(衣装の工房)では、次のプロダクションの衣装を制作中です。

案内してもらったのは、バレエシューズを衣装と同色に塗っているところ(↓)。一足一足丁寧に塗っていきます。

孔雀の踊りに使われるシューズです。

すでにプリントされた布を購入することもあるけれど、なかなかピッタリくるものがない場合は、自分達で染めたりプリントしたりもするそう。深水埗で購入する場合もあれば、通販で購入する場合もあるとか。なるべく予算を抑えて賢く買うようにしているのだそうです。

ところ狭しとずらっと並んだ衣装たち。1つの役でも何人もが交代で演じるので、幾つも作らないといけません。

同じ衣装が、出演人数によって、たくさんあるので、名前がないと誰が着る衣装かわからなくなります。

孔雀の踊りの衣装。スパンコールや網やスパンデックスなど色々な素材を使ったタイツ。とってもゴージャスです!

こちらは白蛇の踊りで女性が着る衣装

オーガンジーで作ったものなので、とても軽いのですが、存在感がしっかりでます。

ジョアンさんは、蛇柄のパターンを自分で描いたのだそうです。こちらの衣装は第2幕の白蛇の踊りの登場部分で使われますが、ほんの一瞬のシーンです。今回、舞台写真は掲載しませんが、見逃さないように実際にご覧になってください!

 

そして、今回編集部が唸った、細部にわたる工夫が見られた衣装は、こちらの孫悟空の衣装です。猿の身軽さを表現するのに飛んだり跳ねたりと動作の大きな役柄です。なのに重い衣装を羽織っての踊りは、本当に重労働です。この衣装、一見重そうに見えませんか?

実は以前、非革製品で作ったらかなり重かったそうで、去年から本革に変えたそうです。非革製の方が重いというのは意外ですが、これも一旦ダンサーが着用をして踊ってみて、そのフィードバックを取り入れて試行錯誤の上に辿り着いた素材の選択なんだそうです。ジョアンさんはダンサーの意見に真摯に耳を傾け、改良に改良を重ねていきます。

以前はこのドットも金具で打ち込んでいたそうですが、これがまた重さの原因になり、全てプラスチックに変えた経緯があるそうです。これで、かなり軽くなったそう。

そして踊るとどうしても暑くなって汗をかいてしまうので、どの衣装もなるべく通気性の良い作りにするように心がけるそうです。赤いジャケットで隠れる部分は、毛が生えている必要はないので、メッシュにします。この部分は洗濯可能です。

そしてモンキーの毛の部分は表面を覆ってしまう縫い方にすると、通気性が悪くなり着ぐるみを着てるような状態でかなり暑くなってしまうので、毛を縦に縫い付けていくことで熱を抜けやすくするように工夫しています。良く見ないとこんな細かな工夫がわからないのです!

工房にはたくさんの種類のチュチュもありますよ!

1000個以上のスワロフスキーを散りばめた衣装。1つ1つ丁寧に縫い込んでいるそうです。これまた気が遠くなる作業です。

舞台では照明が当たって、眩いほどの美しさ。キラキラとっても綺麗です!

そして舞台のハイライトのひとつ、香港のシンボルでもあるバウヒニアの花びらをまとったチュチュ。こちらの花びらは何層も花びらを縫い付けていくことで花びらが美しく豪華に舞台で舞ってるように見えるようにしました。繊細な色のグラデーションも、全て工房で染めているそうです。

最後にご紹介するのが、点心お母さんと子どもたちの踊りです。後ろには巨大な蒸篭(セイロ)をスカートにしたお母さんがいます。この中から出てきて元気に踊るのが、香港でオーディションで選ばれた子どもダンサーたちです。くるみ割り人形にはたくさんの子どもダンサーが登場しますが、この子どもたちが着用しているのが、香港でお馴染みの点心を着けたチュチュ。

おそらく、豆苗(?)の水餃子です(笑)。

えび焼売! これは飲茶すると良く見る定番ですね! 他にもたくさん出てきますので、舞台で見つけてみてください。

みなさん、今回は最後までご覧いただきありがとうございました! 楽しんでいただけましたか? 総合芸術としての舞台は、それぞれの役割を分担するアーティストや職人が最善を尽くして作り上げていく結晶のようなものです。舞台はともすれば、ダンサーたちだけに目が行ってしまうかもしれませんが、是非とも細部に渡って目を凝らして鑑賞してみてください。きっとこれまでとは違った見方で楽しめたり、今まで以上に素晴らしい時間になるはずです。香港バレエ団の2023年のくるみ割り人形は、12月15日開幕、30日まで公演されています!

 


【今後のシーズンの注目プロダクション】

https://hkballet.com/en/see-hkb

 

The Rule Breakers March 22-24, 2024

Swan Lake (World Premiere) May 31-June 9, 2024

 


Hong Kong Ballet

演目「くるみ割り人形」

会場:Grand Theatre, Hong Kong Cultural Centre

With Live Accompaniment
15 -17 (Fri-Sun)*, 19-21 (Tue-Thu)^,
23-26 (Sat-Tue)*.12.2023 7:30pm
16-17 (Sat-Sun) & 23-26 (Sat-Tue) .12.2023 2:30pm*

With Recorded Music
29-30.12.2023 (Fri-Sat) 7:30pm^
30.12.2023 (Sat) 2:30pm^

*$1,200 (Limited VIP Tickets) $720, $490, $340, $220
^$1,000 (Limited VIP Tickets) $680, $480, $340, $220

来場資格:3歳以上

公演時間:およそ1時間45分(休憩1回含む)

チケット販売:https://www.urbtix.hk/event-detail/10574/

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