2022/02/11
今月2月の頭、日本は節分で鬼が大活躍するシーズンでしたね!
鬼といえば、そうだ!あの有名な鬼アプリとやらを使って、我が家の聞かん坊な三男を懲らしめてやろう! と思い子どもが寝静まった後にこっそり『鬼』というキーワードで検索してみました。すると……
「ヒィーーッ!!」
映画『リング』でお馴染みの貞子さんのような方々がドーンと、わたしのコンピューター画面に現れたのです! 夜中、暗い時にやめてー! わたし、幽霊とかめっちゃダメなんですぅーーー!!!
なんと広東語で『鬼』というとGhost、つまり『幽霊』のことを指すようでした。ではあのツノをはやした赤鬼さんは? 広東語のレッスンの際に、日本の鬼の絵を書いて先生に「これは鬼でしょうか?」と伺ってみたところ、「全然違いますね」と言われてしまいました。「『鬼』という言葉から想像されるのは人型の白かったり、透明だったりするものですね。あなたの描いたのは『怪物』かしらね」とのことでした。広東語の『鬼』とは、正に貞子嬢のイメージのようです。
『鬼』と言えば、広東語で西洋人のことを『鬼佬』(グワイロー)と表現します。その昔、西洋人を初めて見た香港の人は、彼らの肌の色が白いからこの表現を使ったのでしょうか。『鬼』という文字に『忌み嫌うもの』という含みがあるようで、元々は差別的表現だったということも否めないようですが、時間の経過とともに差別的意味合いは薄れ、現在はただ単に『西洋人』を表す一般的な用語として、香港人にも在港西洋人にも広く受け入れられているようです。スーパーのビールの陳列棚にも『鬼佬』Gwei-lo ビールという地ビールが並んでいますね。醸造者はまさに英国出身の『鬼佬』カップルとその友人ですので、自分たちで好んでこの名をつけたのではと想像できます。
ちなみに、西洋人女性のことを『鬼婆』と表現するそうですが……。香港の皆さんは例えば職場に西洋人女性上司がやってきた場合、「あぁ、あの新しくきた『鬼婆』ね。怒りっぽいよね」などという会話をするのでしょうか。悪意のない表現と言われても、『鬼婆』の文字から般若のお面をイメージしてしまう日本人のわたしにはちょっと酷すぎて使えません!
『鬼』、つまり幽霊ですが、英国在住時、『鬼佬』の知人友人たちに幽霊の存在を信じているなどと真面目に言うと、気まずい空気が流れることが多かったので、ここ10年ほどは幽霊を信じていることを隠してわたしは生きてきました。ところが香港に来たら、様子が違うのです。あのいつも冷静な広東語の先生も「『鬼』ですか。信じていますよ。めっちゃ怖いです」と真顔でおっしゃいましたし、代理の若いお兄ちゃん先生も「見たことはありませんが、いると思います」とキッパリ言い切りました。物はついでとバスの運転手、ビルの管理のおじさん、お掃除のおばさんなどにその存在を信じているか聞いてみたところ、みなさん、躊躇うことなく『信!』と答えてくれました。あぁ、ここ香港ではわたしも堂々と「『鬼』、信じてます!」って言っていいんだな、となんとも言えない開放感を味わいました。ちなみに感覚だけでものを言うのは憚られますので、数字で見てみますと、幽霊の存在を信じていると答えた人の割合、イギリス約34%、フランス約32%に対し、日本約60%、香港のデータはないながらも文化的に近い台湾では約90%、と欧米と東アジアで差が開いているのがわかるかと思います。*1
超高層ビルの立ち並ぶ世界有数の金融都市。そんな近代的イメージの香港ですが、人々は『鬼』の存在も含め案外超自然的なことを信じているという印象を強く受けます。例えば、来港当初、我が家の新居探しの際に案内をしてくれた香港の人々がこの建物の風水は良いとか悪いとか言うのでその時は正直驚いたのですが、実際、香港には風水師、風水コンサルタントなどと言う職の人が存在しますし、セントラルにある多くの高層ビルが風水を取り入れて建築されているということは有名です。中華系の知り合いはやはり漢方や鍼に信頼を寄せていると言いますし、観光で有名な黄大仙のお寺の占いブースの数の多さにも目を見張るものがあります。
このような超自然的な事象を香港の人が信じる背景にあるもの、それは香港の人が信じている宗教と何かしら関係があるのかな、と思い調べてみました。2016年の調査では香港人の約55%が道教と密接な関係を持つ中国民族宗教を信じ、また約30%は仏教および道教を信仰していると言う結果が出ています。*2
その話を中華系の友人にすると「そうね、民間信仰に“宗教”と言う言葉を使うかどうかわたしはわからないけれども、多くの中国文化圏の人が祖先崇拝と言って先祖がわたしたちを見守っているということや、また孔子の教えであったり、あとは天人合一と言って人間は自然の一部であって、全ては関わり合っている、という概念を信じてるわ。だから風水、漢方そして鍼とかに信頼を置いているのよ。そして道教の『八仙』に代表されるように唯一無二の神の存在でなく、様々な神様や精霊の存在も信じてると言って間違いないと思うわ」と言っていました。そして最後に「あなたの言っていた『鬼』の話。わたしたちはご先祖さまの霊を信じているんですもの、『鬼』の存在を否定するわけにはいかないじゃない」と。
お岩さんにもトイレの花子さんにも怖いのでできれば遭遇したくありません。でも、それは光があればこその影。彼女たちの存在を信じることは、同時に八百万の神が存在し他界してしまった親愛なる人々が見守ってくれている世界で生きることでもあるのです。
鬼は外! と豆まきをします。そう、鬼も幽霊もウチにいられたら怖いですから。でも外にいてわたしたちの世界を豊かにしてくれているのなら、信じても悪くない存在かもしれませんね!
それではまた次回!
*1
イギリス
https://yougov.co.uk/topics/politics/articles-reports/2014/10/31/ghosts-exist-say-1-3-brits
フランス
https://www.nouvelobs.com/societe/20190429.OBS12249/un-francais-sur-trois-croit-aux-fantomes.html
台湾
https://www.bbc.com/future/article/20181030-belief-in-ghosts-may-help-you-lead-a-better-life
日本
https://news.yahoo.co.jp/articles/f14762684e5da49d379cd29fbe3c776ad6b90ade/images/000
*2
https://en.wikipedia.org/wiki/Religion_in_Hong_Kong
小林杏 (Anne Kobayashi)
東京都出身、青山学院大学仏文科卒。ニュージーランド、日本、フランス、英国での就業経験あり。ロンドンでの出産子育てを経て、2020年に来港。今まで住んできた土地のように、香港も愛おしい場所となりつつある今日この頃。趣味は読書、舞台芸術鑑賞とカンフー映画鑑賞。
Hong Kong LEI (ホンコン・レイ) は、香港の生活をもっと楽しくする女性や家族向けライフスタイルマガジンです。
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