2023/06/27

6月。いよいよ夏本番。蒸し暑くなってきました。こんな時は涼を求めて、怖い話などいかがでしょうか。怪談話か、って? いえ、そんな存在が証明できないようなものの話ではなく、現実にそこにいてわたしを絶叫させる、あれ。虫の話です。

 

わたしは虫が大嫌いです。あまりにも嫌いすぎて、『虫』と言う漢字でさえ見ただけでゾクゾクします。そんなわたしがある日、香港の博物館で発見したのがこちら。

『蟲蟲特工隊』

『虫』と一匹書けば十分なのに、なぜか『蟲』と三匹も詰め込む香港繁字体! そして三人よれば文殊の知恵と言いますが、『蟲蟲特工隊』、と六匹も集って特別工作部隊を結成しています。何かと思えば、これ、ピクサーの『バグズ・ライフ』の香港版タイトルでした。

 

この気持ち悪い『蟲』と言う漢字。しかしどうでしょう、『殺』と言う接頭語(?)をつけると……。

「逃しません!一匹残らず倒します!」と言う、殺虫剤の気概のようなものを感じてしまうのはわたしだけでしょうか。

 

さて、数ある虫の中でも特に身の毛がよだつほどの恐怖、そして嫌悪感を感じさせてくれるのがゴキブリです。「まぁまぁ、一寸の虫にも五分の魂だよ」だなんて釈迦みたいなことを言う人だって、目の前にゴキブリが現れたらスリッパ握りしめて鬼の形相で叩き潰しにかかるはず。

香港で生活するわたしたちにとって、ゴキブリは避けて通れない存在です。わたしは毎朝、まだシャッターの上がらない商店街を抜けて買い物に行きますが、そこでお陀仏になっている彼らを目にしない日はありません。

全く嫌われ者のゴキブリ。でも香港では『小強』と、まるで人間であるかのような親しみを込めた名前で呼ばれることもあるんですよ(香港男性の名に『強』の字が入っているのはとても一般的です)。何故か。それは1993年公開香港映画『詩人の大冒険』(原題:『唐伯虎點秋香』)の中で周星馳(チャウ・シンチー)扮する主人公が、道に落ちていたゴキブリを咄嗟に拾い、自分のペットであるふりをして「あぁ、小強!」と叫ぶところから来ています。

 

話は少しそれますが、「彼なくして香港映画史は語れない」というくらいの大スター、周星馳。日本でも2001年『少林サッカー』が大ヒットしたのでご存じの方も多いはず。現在も香港Netflixではなんと20本以上の彼の出演作品が視聴可能となっています。多くの作品は90年代のものですが、突拍子ない動きや会話、そして「ありえない!」と思わず吹き出してしまう、誰も考えのつかないような彼独特のユーモアは、今もなお香港人たちを惹きつけてやまないのでしょう。

 

話を虫に戻しましょう。『小強』と言うのは、半ば冗談を込めたゴキブリの呼び方ですが、一般的には『曱甴』が正しいです。まるで二匹のゴキブリが行き交うかのようなこの気持ち悪い漢字! もしスリッパ攻撃という、原始的かつエコな退治方法が苦手な方がいらっしゃいましたら、ぜひお店で『曱甴』という字の入った製品を購入してくださいね。ちなみにゴキブリホイホイは『曱甴屋』の名前で販売されています。

 

さて、小強の話で悪寒がしてきたところで、少し心温まる話題に変えましょう。我が家の三男が幼稚園から『蠶蟲』をもらってきた話。『蠶蟲』……ってなんだと思いますか? 『蚕の幼虫』のことなんです! この熟語の見た目のように、狭い箱の中にうじゃうじゃ入って我が家にやってきた『蠶蟲』。三男が目をキラキラさせて「飼いたい〜」と言うので渋々OKしましたが、案の定、楽しい餌やり係は子供、ウ⚪︎コの掃除係は母となりました。

でも、あの大の虫嫌いだったわたしが、蠶蟲の日々成長していく姿にいつしか慈しみの情を抱くようになり、繭を作り始めた時に至っては、「暑くない?」「新しいティッシュを敷いてあげるからね」「諦めちゃダメ! 紡ぎ続けるのよ!」と産婆の如く夜通し彼らのそばに付き添いました。そして最後、彼らが旅立っていく時にはうっすらと目に涙が……。

 

最後、悪寒も走りませんが、心も温まらない、夏の風物詩、『蚊』。枕元でぷぃ〜んと音を立てられると無性に腹がたつ『蚊』ですが、香港ではこんな風に使用されることがあります。

『蚊を一匹使うと、一分賺される(すかされる)』??

これは有名なYUUショッピングポイントカードの広告ですが、この『蚊』は『ドル』の意で、『一ドル使うと一ポイントもらえる』ということでした。香港ドルの単位は普通『元』(ユン)と表示されますが、会話では必ず『蚊(マン)』と言います。ややこしいですね! 広東語は、いわゆる方言ですので、このように話す時の音(蚊:マン)が必ずしも書き言葉(元:ユン)と一致しないことがあるのです。

さて、そろそろ夏休み。わたしは今年もきっと、子供達に付き合って、幽霊のように生気のない蝉の抜け殻集めに行くことになるでしょう。とほほ〜。

 

では皆様、楽しい夏休みを!

 


小林杏 (Anne Kobayashi)


東京都出身、青山学院大学仏文科卒。ニュージーランド、日本、フランス、英国での就業経験あり。ロンドンでの出産子育てを経て、2020年に来港。今まで住んできた土地のように、香港も愛おしい場所となりつつある今日この頃。趣味は読書、舞台芸術鑑賞とカンフー映画鑑賞。


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