2022/07/04

慈善事業をしている保良局(ポールンクク)は、香港在住の日本人にとっても有名だと思います。女性と子どもの保護のための協会として設立された保良局は、孤児、教育、その他のサービスを支援する香港の団体です。

リニューアルされた建物が真っ白ですごく立派です。私は取材で、建物の中の小さい博物館の館長に会いにきました。

看板の水彩画は、わたしの大学院時代の同級生、山口潔子氏が描いた作品です。彼女は優れた美術の才能の持ち主で、香港中文大学で歴史学科の講師もしていました。看板を見るたびに、懐かしくなります。山口潔子アートワークス (kiyoko-yamaguchi.com)

博物館の中は、これまで100年以上に渡る関係者の写真が展示されていて荘厳な雰囲気がします。

レトロな階段は50年以上の歴史を誇ります。

 

その後は、保良局歴史博物館へ見学に行きました。子どもや女性たちを見捨てることなく、140年間ずっと慈善事業を行っている保良局は写真とか展示物とか、たくさん揃っています。140年の歩みは何よりもすばらしいです。

保良局が設立された後、横浜正金銀行をはじめ、三井、三菱などの大手企業も香港支社を開きました(写真下は1959年、当時の三井洋行が保良局に寄付をしたことを示しています)。

警察が足りなかった時代では、保良局の方々も市民を守るために協力していました。局長などの名札ピンには、イギリス政府を代表する冠がついています。

そして、大変貴重な宝物を見つけました。宝物は明治日本政府からの贈り物でした。桐紋が刻まれている銀杯は感謝状がついています。博物館の館長に聞いてみたら、深刻な話を教えて下さいました。

1878年に成立した保良局は、香港へ不当に誘拐されたり、拉致されたりした日本の貧しい女性たちを保護したので、日本政府に感謝状をもらったようです。

 

ここで歴史作家として、残酷な昔話をさせていただきます。香港と日本の交流の歴史の中で、最も恐ろしい闇と言われる話です。

1842年香港がイギリスの植民地になった時、売春は違法ではありませんでした。税金を払ったら、だれでも体でお金を稼ぐことができる時代でした。港町なので、世界各地の男たちが集まるため水商売が盛んでした。

昔、日本は天候不順で冷害があったり、あるいは家計に問題があったりすると、若い娘を売る親が多かったそうです。若い娘たちは悪徳業者に騙されて、船に乗ってアジア諸国まで行きました。極めて悲惨な話は1974年に上映された映画「サンダカン八番娼館 望郷」でも描かれました。しかし、サンダカンだけではなく、シンガポールや香港などもかわいそうな娘たちの目的地でした。このような女性たちは、「からゆきさん」と言います。その大半が一生、母国に戻れませんでした。

100年前の交通は汽船しかなかったのですが、男たちは海の向こうに夢を探しに行きました。それは日本から香港まで、三池炭(江戸時代から採掘が行われていた福岡市の炭鉱 )の商売が始まった時でした。女性たちは炭を載せた石炭船の石炭艙に突き落され、そのまま香港に連れてこられたそうです。途中でいろいろな原因で命を失った女性もたくさんいました。

 

悪徳業者に騙された女性たちは、現在のセントラルと湾仔の辺りで、働かなければなりませんでした。香港で亡くなった女性は今はハッピーバレー競馬場を望む、日本人墓地に埋葬されました。例えば、数多くの女性たちが眠る「からゆきさん」の墓の中で、木谷サキという女性がいます。英新聞紙China Mailによると、からゆきさんの彼女は1884(明治17)年6月8日、父親の死を聞いた後に行方不明になって、死体が発見されたのは翌日でした。享年30だったそうです。

(詳細はThe Hong Kong Japanese ClubのHP:http://www.hkjapaneseclub.org/aboutclub/cemetery.html

木谷サキさんより少し幸運な女性もいました。逃げ出した女性たちが警察や地元の日本人に事情を訴えたら、警察が彼女たちを保良局に連れて行き、保良局が日本大使館に通報して帰国できたそうです。「保良局百年史略」によれば、明治時代から大正時代にかけて、このような事は毎月あったそうです。そして、1898年6月17日、保良局は外務省を通じて記念品と感謝状をもらうこととなりました。

展示物を見ながら、背筋が寒くなります。からゆきさんの苦しみと悲しみは昔のことではありません。発展途上国女性の地位などはいまでも注視すべきことだと思います。

 

*保良局歴史博物館に参観する場合は、直接「香港銅鑼灣禮頓道66號」に行くといいです。入り口のスタッフに「Museum Visit」を言ったら、案内してくれます。簡単な手続きが終わったら無料で参観できます。

*博物館のJayson Leung館長(写真下)は日本語ができます。LEI読者の皆様のご来館は大歓迎だとおっしゃっていました。

 


キリ
日本語教師で旅行作家。唎酒師と観光ガイド資格。特に日本が大好きで年に10回以上は訪れる。著書に『Kiri的東瀛文化觀察手帳』(2017)、『日本一人旅』(2019)、『爐峰櫻語』(2022)がある。香港の誠品商務三聯などの書店で購入可能。
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