2023/12/28
前回のコラムでは、香港で開催された「第8回アジア家族療法学会」に出席した話と共に、個人の心理的な問題を扱う際に、家族全体にアプローチする、「家族療法」という心理療法があることをご紹介しました。今回の後編では、パネリストとして、わたしがアジア家族療法学会のワークショップで発表した内容について触れたいと思います。
この「第8回アジア家族療法学会」が香港で開催されるにあたり、日本からも数名の家族療法の専門家が香港にいらっしゃいました。ご縁があって、日本の家族療法の専門家から、日本の家族と香港の家族の比較検討ができないかとのことで、少人数のワークショップにお声掛けを頂き、パネリストとして参加させて頂くことになりました。題して、「香港の家族を知り、日本の家族を知る」。発表に際し、まず、日本の家族と香港の家族、一体、どんなところが一緒で、どんなところが違うのかを探ってみることにしました。2つの家族を一番良く知っているのは誰かを考えた時、パートナーが日本人であったり、香港人であったりする方々に話を聞くのが一番良いのではと思い、数名にインタビュー形式でお話を伺ってみることに。また、わたし自身がクリニックでお会いする、香港人+日本人家庭で起こりがちな葛藤についても発表に加えました。今回は日本人から見た香港人の特徴と、香港人+日本人家庭で起こりやすい葛藤についてまとめてみます。
【香港人の特徴】
―物事ははっきりと、曖昧は「OK」に取られることもある
―人とのBoundaryが曖昧で、パーソナルスペースが近い
―生産性があるか否かが重要で合理的なため、人によっては言われた仕事しかしない
―お金は消費するか投資に使うことが多い
―ジェンダーによる役割が日本よりも平等
―時は金なり:仕事は早いがたまに雑
―香港人のおばちゃんと大阪のおばちゃんの親和性が高い:キラキラや柄物が大好き、どれだけディスカウントで買ったかの話題が好き等
【香港家庭の特徴】
―家族単位が大きい:「あなたの家族について教えて下さい」との質問に対し、人によっては叔父、叔母、姪、甥についての回答もある。家族旅行も大人数
―家族の集まりが頻繁:週に1回、飲茶会
―旧正月、中秋月、冬至、父の日、母の日など、家族行事として絶対に外せない日がある
―結婚するまでは親と同居し、子どもが生まれるタイミングで3世代同居が多い
―別居であればスープが冷めない距離
―子どもは「宝宝」と呼ぶように、家族の宝だと思っている
―未だ残る男子絶対主義(個人的価値観によるところが大きい)
―ヘルパーが居るため、子ども(16歳以下)を一人にしてはいけない
―教育熱が高い(個人的価値観によるところが大きい)
このように書き出してみると、古くから残る日本の田舎の価値観に近い部分が多いことに気が付きます。また、お金に対する価値観も、お金を貯蓄することが多く、お金儲けの話やお給料の話をすることが憚られる日本とは違うようです。パーソナルスペースの近さは、ヘルパーとの同居や限られた住宅スペースでの生活環境が関係していそうです。
ここからは、香港人+日本人家庭で起こりがちな葛藤を紹介していきたいと思います。
【夫が香港人の場合:日本人妻の葛藤】
―頻繁な家族との食事会が心理的に負担:会話が分からない
―義母から孫が見たい、男の子が見たいと言われる
―何か決定する際、風水が絡む
―気が付くと義母が家に入った形跡がある
―家事・育児への労いが無い
―携帯ばかり見ている:株価の頻繁なチェック
【夫が日本人の場合:香港人妻の葛藤】
―義母から孫が見たいと言われる
―義母の夫への過干渉:小さい子どものように扱う
―ワークライフバランスが保てない:気が付くと自分の家事・育児の負担が増えている
上記の内容からは、どちらの文化であっても、義母からの孫が見たいとのプレッシャーや夫婦への干渉が、日本人妻、香港人妻の心理的葛藤に繋がっていることが分かります。また、何か決め事をする際に風水を利用するというのは、文化の違いによりそうです。
今回は残念ながら、香港人妻、日本人妻と生活している夫側の意見を聞くことが出来ませんでしたが、夫側からの視点も非常に興味深いです。このコラムを読んで下さっている方の中にも、「我が家もそうだわー」と共感して下さる方がいるかもしれません。香港で心理療法をする際、こうした文化・歴史的背景や生活状況に基づいた物事に対する価値観を知っているかいないかで、家族の葛藤をどう捉えるかという視点も変わってきます。ご自身だけではなく、他の家族について知ることが、解決策を探る助けになることもあります。ぜひ、家族の中で何か問題が起こった時、一人で抱え込まず、色々な視点から検討するためにも、カウンセリングを利用してみては如何でしょうか。
河合 まり絵
臨床心理士。日本ではスクールカウンセラーとして、不登校児童や別室登校児童、発達に偏りのある児童への心理的サポートや、精神科クリニックで、パニック障害、PTSD、うつ病、摂食障害などの個別カウンセリングを実施。リワーク外来では、精神疾患などで休職中の患者に対し集団療法を、また、復職後の企業内フォローアップ・カウンセリングを実施。刑務所内では、グループ矯正教育をするなど、教育、医療、産業、司法の分野で臨床経験を積む。香港に移住してからは、3児の子育てに追われるも、縁あって精神科クリニックに復職。
OT & P Healthcare/ Mind WorX Clinic
MindWorXはOT and P Healthcareが運営する精神科専門のクリニックです。
中環駅(セントラル)から徒歩2分の場所に位置しており、簡単な日本語を話せる医師と、日本人の臨床心理士が在籍しておりますので、薬の処方と共にカウンセリングを並行して受けることが可能です。投薬はしたくないけれど、カウンセリングを受けたいという方もご相談下さい。
以下のようなことでお困りの方は、是非、一度、ご相談下さい。
・夜、なかなか眠りにつけない、または、朝、早くに目が覚めてしまいすっきりしない
・不安や心配な気持ちがいつも頭を離れない
・過度に食べ過ぎてしまう、または、食欲がない
・子育てに疲れている
・コロナ禍でストレスが溜まっている
・夫や妻、パートナーや他者との関係に悩んでいる など
初回予約の際に日本語でのサポートが必要な方は、marie.kawai@otandp.comにemail を頂ければ、日本語での対応が可能です。
Mind WorX Clinic
OT&P – Internationally Accredited Medical Clinics in Hong Kong (otandp.com)
6/F Century Square, 1 D’Aguilar Street, Central, HK
中環徳己立街1號世紀廣場6樓
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