2026/03/19
ⒸLinda Hung-Hom
今、香港映画の記録を次々と塗り替えながらヒット街道をまっしぐらに走り、「モンスター作品」と称されるヒット映画があります。それは本誌でも以前取り上げた賀歳片(旧正月映画)の『夜王』(英題:The Night King)。現在も記録は伸び続けているのですが、3月中旬現在、その輝かしい記録はざっと以下の通り:
🏆香港製作映画として歴代第5位の興行収入
🏆香港製作映画の第一週興行収入 No.1
🏆香港映画 最速で興行収入HK$5,000万突破
🏆旧正月映画の初日興行収入 No.1
🏆旧正月映画の単日興行収入 No.1
(出典: Edko Films Ltd. 上記の記録は全て香港における記録)
そして、驚くべきはこの『夜王』、3年前にやはり型破りの大ヒットを記録した賀歳片と同じ監督の手によるものなんです。その作品は『毒舌弁護人〜正義への戦い〜』(原題:『毒舌大狀』、英題:A Guilty Conscience)。こちらの作品も当時の興行記録を更新し、最終的に香港映画史上初の興収HK$1億突破を達成。当時の香港史上最も興行収入の高い香港映画となり、さらに第42回香港電影金像奨(香港アカデミー賞)で最優秀作品賞を受賞、という型破りな作品です。
この2本のメガヒット作品を監督したのがジャック・ン(吳煒倫)監督。連続ヒット作品を作った経緯や日本についてのお話を伺いました。
Courtesy of Edko Films Limited
ジャック・ン(吳煒倫)監督
香港演藝學院(HKAPA)で映画作りを学び、卒業後は脚本家として映画界でキャリアを築く。ダンテ・ラム(林超賢)監督の作品『ビースト・ストーカー/証人』(原題:証人)、『密告・者』(原題:綫人)、『激戦 ハート・オブ・ファイト』(原題:逆戰)など数々のヒット作を生み出し、香港電影金像獎ノミネートも数多く受ける。2023年、香港映画史上、数々の記録を打ち立てた超級ヒット作品『毒舌弁護人〜正義への戦い〜』は監督処女作。
大監督なのに、驚くほどカジュアルに「こんにちは~」と笑顔で会場に現れたジャック・ン監督。第一印象は、とにかく穏やか。大ヒット作の監督という肩書とは裏腹に、腰が低く、話しかけやすい雰囲気をまとっていました。緊張していた取材陣の空気を、自然にやわらげてしまうような落ち着いた声で語ってくれました。
『夜王』の大成功おめでとうございます。まず、この作品を手がけることになったきっかけを教えてください。
『毒舌弁護人〜正義への戦い〜』(以下、『毒舌』)の撮影後の打ち上げで、その場にいた誰かに続編はあるのか聞かれたんです。で、僕は「法廷映画の脚本を書くのは時間がかかって大変だから、ナイトクラブの話にでもしようかな」と冗談で答えたんですよ。そうしたら主演のダヨ・ウォン(黄子華)をはじめその場の全員が大興奮! その話で盛り上がりました。
そしてその後、新作について考えていた時にふと、このアイディアを思い出したんです。そこで1980、90年代のナイトクラブで働いていた女性たちを取材してみたところ、2012年ごろのチムサーチョイ・イースト(尖東)が今の香港の状況にとっても良く似ていることが分かりました。その時に映画の題材になりえると感じました。
ダヨ・ウォン Courtesy of Edko Films Limited
バブル期のチムサーチョイ・イーストは一大歓楽街として知られていて、ネオンきらめく華やかなエリアだったそうですね。2012年にはその勢いも落ちていたと想像しますが、どんなところがインスピレーションになったんですか?
2012年という年は、尖東にあった2軒の大型ナイトクラブがクローズした年なんです。お金が儲かりっぱなしの繁栄した時代には戻れない、かといって前途には何も見えないという状況。その「行き場のなさ」が今の香港ととてもよく似ていると思ったんです。だからわたしはその年代のナイトクラブを描いた作品を作れば、現代の香港人の共感を得ることができると確信し、題材に選んだんです。
ⒸLinda Hung-Hom
前作『毒舌』が歴史的な大ヒットとなりました。大きな成功のあとで新作に取りかかる際に、心境の変化やプレッシャーはありましたか?
プレッシャーは当然ありました。第一作の映画が良かったことで、みんな次作の興行成績にも期待してくれていたと思います。脚本を書いている時から撮影、ポスプロまでずっと、まるで1本のワイヤーの上を綱渡りしているような心境が続いていました。
『毒舌』の主要スタッフが再集結しています。このチームで再び撮ることの意義は何でしたか?
まずスタッフについては、僕は自分のチームとやるのが好きなんです。彼らは僕が何も言わなくても、僕のやりたいことを分かってくれるんですよ! 出演者については『毒舌』で楽しく仕事ができたこともあって同じキャストを使いました。ダヨ・ウォンも僕と同じ思いを持っていたようです。『夜王』に新しく迎えたメンバーはもいますよ。まず、主演のサミー・チェン(鄭秀文)。実は僕の中学時代からの憧れのアイドルなんです(笑)。ずっと一緒に仕事がしたいと熱望していたんですが、脚本家時代にはアクション映画ばかり扱っていたので、なかなか実現できませんでした。ついにチャンス到来という訳です。
サミー・チェン Courtesy of Edko Films Limited
ヨン・ワイロン(楊偉倫)も新しく起用した俳優です。以前、彼が出演した舞台劇を見た時に、彼が舞台に現れた瞬間、それだけでお客さんが笑ったのを見て、すごくパワーがあるなと感じ、次の作品には絶対出演して欲しいと思っていました。彼はコミカルな役からシリアスな役までこなしますし、バンドをやっていたこともあります。多芸多才な人ですね。
ヨン・ワイロン Courtesy of Edko Films Limited
監督は日本映画にも関心をお持ちだとお聞きしました。将来的に、日本の俳優や映画監督との国際的なコラボレーションを検討されることはありますか?
事前にいただいた質問票にあった質問ですね。答えを用意してましたよ(笑)! まず、俳優なら菅田将暉さんと仕事がしたいです。彼は善人役から悪役まで、演技の幅の広い俳優だと思います。具体的なアイディアはまだないんですが、僕は、もうめちゃくちゃ彼とやりたいなと思ってるんです。
ⒸLinda Hung-Hom
あと、日本の監督や作品についての質問がありましたけど、その答えもちゃんと準備してありますよ(笑)。日本の映画でエンドロールが終わるまで座席から立てないほどショックを受けた作品が二つあります。1作目は森田芳光監督の『それから』(1985)。もう1本は北野武監督の『HANA-BI』(1997年)。北野監督の映画は全部見ましたが、この作品が一番好きです。
『夜王』が日本で上映されるとしたら、日本の観客にこの作品のどんな部分を特にみてほしいと感じていますか?
「情義」、つまり人情と義理ですね。それは1980年代の多くの香港映画が伝えてきたメッセージなんですが、それ以降、誰も言っていなかったことなんです。『夜王』を撮る時には、その「情義」を盛り込みたいと思ったんです。
メインではない役どころながら、抜群の存在感を見せた「葵芳」ことフランチェスカ(ケイ・チョイ/蔡蕙琪)。彼女の出演シーンも義理人情を深く感じさせるものだ。Courtesy of Edko Films Limited
僕は日本が大好きなんです。今の政治やら経済やらの外的要因をできるだけ早く振り払えたらいいなと思います。日本の映画界の方たちととても交流したいし、お互い映画という芸術においてもっと深く交流できたらいなという気持ちでいっぱいです。それから僕自身前は日本に毎年最低1回は行ってたんですが、『夜王』で忙しかったので、しばらく日本に行っていません。もう、早く「帰りたい」ですよ(笑)。
後記
大ヒットを連発し、2作品目にして既に香港映画界を代表する存在のジャック・ン監督。心から映画を愛し、国境を越えて作品を作ってみたいと語っている姿に、いつか日本の映画人と手を組んだ作品を作ってくれるに違いないと確信しました。楽しみに待ちたいと思います!
取材・文 紅磡リンダ(編集部)
通訳・翻訳 大澤真木子
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