2023/08/08


今回ご紹介するところ

赤鱲角新村天后宮
大蠔灣天后廟(未訪問)
衙前圍村天后宮


LEI読者の皆様、こんにちは。香港の天后廟を巡る日本人ことやんまです。このコラムも12回目の連載、すなわち一周年となりました。記念すべき1回目の連載では、わたしがどうして天后廟を巡ることにしたのかを、油麻地の天后廟を例に挙げて紹介しました。その括りとして次のようなことを書いています。

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そもそも天后信仰は10世紀以降に福建省で始まったとされています。(中略)ところが、発祥の地であるはずの中国本土よりも香港や台湾の方が実は圧倒的に残存数が多いんです。そう、中国本土では文化大革命で壊滅してしまったのでした。信仰色が薄れ、観光名所としての需要だけが残っている大陸の媽祖廟と違い、香港や台湾の天后廟はその思想をしっかりと今に伝えています。(中略)こうした視点で捉えることが正しいのかどうかはさておき、今の政治事情を鑑みても、天后廟ほど香港を象徴できるものってないんじゃないかと感じています。デモを知らない新参者のわたしが見つけた香港らしさ、そしてこれをSNSでたくさんの人に知ってもらいたいと思うようになったわけです。

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TwitterやYoutube、instagramはもちろん、Hong Kong LEIでの12回にわたる連載を通して香港中の特色ある天后廟を紹介してきました。ひとつひとつの廟がその地域にしっかりと信仰を根付かせ、時にはそこに住む人々を結びつける機能を果たし、他者を惹きつけ、地域を盛り上げてきたことを感じ取っていただけたなら嬉しい限りです。それをもっと俯瞰して「香港」というひとつの地域で捉えるならば、天后廟をはじめとした数多くの廟を受け入れられる自由で寛大な宗教観の存在こそ、香港を香港たらしめるものだとわたしは確信しています。

しかし、それがひどく脅かされている現実にも目を向けなくてはなりません。天后廟を巡り続ける中で見つけた現実を今回は敢えて取り上げてみたいと思います。

皆様は赤鱲角(Chek Lap Kok)という場所をご存知でしょうか? そう、今の香港空港がある場所ですね。香港空港は赤鱲角島を土台とした埋め立てによって完成しました。この島はかつて2.8平方キロメートルと香港でも大きい部類に入るような島であり、珠江や南シナ海へ向かう漁師たちが集う村がいくつもあったそうです。その過程で天后信仰が伝わり、島を代表する廟が1823年に建てられました。しかし、空港建設のために赤鱲角村は対岸のランタオ島に移転を余儀なくされ、天后廟も移されました。実は空港の敷地内に旧赤鱲角村を紹介する史跡(古窯公園)がひっそりとあることはあまり知られていません。

空港建設による弊害を受けた村は対岸のランタオ島にもあります。その一つが大蠔灣(Tai Ho Wan)という場所です。埋め立てにより漁業が衰退し、村の生活や周辺環境が激変したそうです。以前、この村にある天后廟を訪問しようとしたのですが、村の入口が封鎖されていて先に進めませんでした。そこには部外者の立ち入りを拒む張り紙や、さらなる開発に反対する横断幕が掲げられていて、ひどく考えさせられる一日になったのを今でも覚えています。いつの時代でもどの場所でも、開発の裏で虐げられる人々や環境があることを忘れてはいけませんね。

香港といえば住宅事情の解消も課題のひとつに挙げられており、内地の再開発に取り組む動きが活発になっています。そういった中で、九龍地区に唯一残っていた圍村である衙前圍村(Nga Tsin Wai Tsuen)がいよいよ取り壊されることになりました。

圍村(Walled Village)とは敵襲から村を守るために周囲を石壁や水路で囲む、客家人の伝統的な集住形態です。香港にはその名残を残す村がいくつも存在していますが、そのほとんどが新界と呼ばれる中国との国境近くにあります。なので、九龍に残っていた衙前圍村の存在は極めて貴重でした。その中心に建てられている天后廟は1700年代に創建された廟。おそらく別の場所に移されるのでしょうが、”圍村をまっすぐ進むと天后廟がある”という光景はもう永遠に見ることができません。このような内地の再開発は新界でも増えていくでしょうから、第二、第三の衙前圍村が出てきてもおかしくないでしょう。

今も香港はめざましい発展を遂げており、中国政府の後押しも受けて、深圳や広東省との間で巨大な経済圏を形成しようとしています。他の地域と共同していくということは均質化されてしまうということ、つまり多くの人にとっての「香港」が失われていくことを意味します。新参者のわたしがこう思うのですから、昔から香港を知っている方はより強くそれを実感しているのではないでしょうか。

今ではSNSに取り上げたわたしの写真や動画がこの時代の確かな記録として残り続けてくれたら……と願うようになりました。そしてこの一年間、わたしのコラムを読んでくださった皆様の記憶に残していただければ幸いです。ご愛読ありがとうございました。これからも香港を愛し、そして天后廟を巡り続けていきたいと思います。

 

今回取り上げた天后廟はわたしのYoutubeでも紹介しています。


やんま
2020年10月から出張で香港入り。仕事の傍らになんとなく始めた天后廟巡りにハマり、その魅力をSNSで発信するようになる。やんまは小学生時代のあだ名から。


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