2024/11/09
香港の秋、大人も子どもも心が踊り満たされる素晴らしいイベントをご紹介しようと思います。
(1)
Asia+Festival 2024
焼酎、泡盛フェスティバル2024
(2)
「Voice of The Walls」 写真展
映画『トワイライト・ウォリアーズ 決戦! 九龍城砦』セット展示
(3)
MTR創立45周年記念 ホンハム駅で引退した車両展示と
100点以上の鉄道工芸品を公開 2024年年末まで
(4)
年末年始、家族で心が豊かになるエンターテイメント
「Cheers」シリーズ 2025年3月まで
(5)
芸術の秋にふさわしいこの秋「絶対」行くべき展示会3選!
香港にはたくさんの美術館や博物館、ギャラリーなどがありますが、香港在住の方はもちろん、観光で来港の方にも、アート大好きなHong Kong LEI 編集者がこの秋激しくお勧めする展示会を3つご紹介します。筆者が唸った、ちょっと私的感情の圧が強め(笑)の見解も含めてお勧めさせていただきます。
今回ご紹介する独断の第3位は!
▶︎香港藝術館:HKMoA(Hong Kong Museum of Art )の「呉冠中(Wu Guanzhong)黒・白・灰(Between Black & White)」
スターフェリーの尖沙咀ピアから歩いてすぐのところにある60年以上の歴史を誇る香港で一番古い美術館、香港藝術館(通称HKMoA)。5年前の2019年に大規模な改修工事から再オープンして以来、落ち着いた雰囲気と渋く個性的な企画展で香港のアート好きを魅了しています。現在は館内全てを期間限定で無料開放しているので、家族全員で足を運べる美術館です。(2025年年明けに始まる特別展が開催されると有料になることが予想されます)館内は落ち着いた雰囲気と巨大すぎない展示室で、ちょっと時間ができた時にフラっと寄ってみるのに最適です。現在開催中の展示会で筆者が最もおすすめするのが、「呉冠中(Wu Guanzhong)黒・白・灰(Between Black & White)」。
perspective (2001) 呉氏の言葉「黒と白のブロックの組み合わせは、抽象的な美の領域を切り開いた。建物そのものの具象的なディテールはもはや重要ではなくなったので、わたしは次第に自分自身の建物群を作り上げていった」
呉氏(1919-2010) は、20世紀の中国と西洋のアートを融合させた中国美術界の巨匠として中国および国際的に名を馳せた人物。香港と深い関わりを持ち、香港で数多くの展覧会を開催し、さまざまなアートイベントにも積極的に参加し、香港の都市風景を題材にした作品も多く残しました。彼が寄付したコレクションは450点もあり、現在HKMoAは、呉氏の作品の最大かつ多様なコレクションを所蔵する重要な美術館となっています。
呉氏の作品には沢山の油絵も発表されていますが、今回はタイトル通り、「黒と白と灰色」の世界が展示室に広がります。鑑賞者はミニマムの黒と灰色の筆の流れだけで、情緒や季節感をも感じることができたり、どこか素朴で懐かしい思いが込み上げてくる感覚が出てきたり、はたまた黒から白までの無限のバリエーションに刺激を受けたりするかもしれません。シンプルでまっすぐな筆の運びは、中国の墨絵とはまた違う大胆さと自由さを兼ね備え、モダンで洗練された美しさを見ることができます。絵画の見方や受け取り方は人それぞれ、ぜひ絵を見て感じる自分の素直な気持ちをしっかり味わいながら眺めてみてください。
Matchmaking on a wall(1999) 呉氏の言葉「淡い白い壁はとても魅力的だ。芸術的才能を発揮し、颯爽としたインクのストロークで感情を表現できるからだ。しかし、清潔な壁がツタやその他の匍匐性植物に占領されていることがよくある。壁を自由自在に横切る蔦は、わたしに驚きと後悔と抑止力という複雑な感情を与える素晴らしい絵を形成している」
画家、呉氏(1919-2010)亡き後は、息子Wu Keyu氏によるHK$100億の寄付で呉冠中スポンサーシップを発表。アーティストの過去30年間に制作された作品を発表する場以外にもチャイニーズアートを支援する場として2024年3月にギャラリーを開設しました。
(1期目の内覧)
Bringing back the souls(2007) 呉氏の言葉「黒は死と喪の象徴と考えられているからこそ、視覚的な刺激の頂点になりうる。具象芸術から抽象芸術へと移行するにつれて、黒と白はさらに重要な意味を持つようなった」
呉氏のユニークな筆運びと色彩美に浸り、白と黒の相互作用から呼び起こされる無限の情熱とイマジネーションを肌で感じてみましょう。現在行われている展示会は3月から始まった第1期目が終了して、2期目。前回よりは油絵や色が多めの作品も加わっていますので、前回見た人もぜひ2期目の作品も楽しんでみてください。
そして、HKMoAは現在(2024年秋)無料で入場できますので、ちょっと静かに素晴らしい香港島の景色を眺めながら休憩したい方には、最高のスポットもありますよ。最上階には小さな子どもを遊ばせられるスペースもあります。興味ある人はぜひチェックしてみてください。
第2位は、M+のI.M.Pei:Life Is Architecture (人生とは建築)
パリのグラン・ルーヴルの近代化、香港の中国銀行タワー、ドーハのイスラム美術館、日本のMIHO美術館など70年以上に渡って取り組んだI.M.Pei(1917–2019)氏の知名度の高いプロジェクトを含めた初の本格的な回顧展です。これらの有名なプロジェクトは、建築史と大衆文化における彼の業績と地位を確固たるものにしました。この回顧展では、300点以上の展示品が紹介されていますが、その多くは初公開のものです。ペイの生涯と作品を6つの分野に焦点を当て、彼のユニークな活動を紹介するだけでなく、彼の建築プロジェクトを社会的、文化的、伝記的な軌跡と対話させ、建築とは何かを問うてきます。
I. M. Pei outside John F. Kennedy Presidential Library and Museum, Dorchester, Massachusetts 1979 © Ted Dully/The Boston Globe via Getty Images
今回の回顧展の中で、展示会で展示されているのは彼が取り組んだプロジェクトだけではなく、彼自身のインタビュー動画や写真など。どの写真も楽しそうに生き生きと仕事をしている印象的なペイを見ることができます。
では6つのセクションを簡単にご紹介しながら彼の偉業を垣間見てみましょう。
- (1)『ペイの異文化の基盤 』ペイの生い立ちと建築教育が、文化を超え、彼の能力の基礎をいかに形成したかを紹介しています。
Photo: Dan Leung Image courtesy of M+, Hong Kong
- (2)『不動産と都市再開発』ニューヨークの不動産デベロッパー、Webb & Knapp の一員として、あまり知られていないペイのキャリアの一端を紹介。1960年代のアメリカにおける複合用途計画、住宅、都市再生プロジェクト、そしてその後の国境を越えたプロジェクトなどから彼の貢献を探ります。
Interior view of living room of an apartment unit, Kips Bay Plaza (1957–1962), New York 2021 Commissioned by M+, 2021 © Naho Kubota /Interior view of living room of an apartment unit in Kips Bay Plaza
Kips Bay Plazaは、1950年代から60年代のニューヨークの再開発を象徴するモダニズム建築で、住居と商業施設を融合させた設計が特徴です。地域の活性化に寄与し、都市計画の新しいアプローチを示す重要なランドマークとして評価されています。
Photo: Dan Leung Image courtesy of M+, Hong Kong
I. M. Pei explaining his proposal for Oklahoma City’s new downtown to a city official with a presentation model ca.1964 © The Oklahoman – USA TODAY NETWORK
写真は、オクラホマシティの新ダウンタウンの提案について、市の担当者にプレゼン模型を使って説明しているペイ。彼は建物のデザインを検討する際に模型を積極的に使用しました。模型は、形状、スケール、光の取り込み方を視覚化するための重要なツールです。そして、クライアントや関係者とのコミュニケーションにおいても必要不可欠でした。説得する上で、具体的な形状を示すことで、彼のビジョンを共有しやすくしたのです。ペイの代表作であるルーヴルのピラミッドやジョン・F・ケネディ図書館など、彼の建築スタイルや理念を反映した模型が多く存在します。回顧展ではたくさんの模型も見ることができます。
- (3)『アートと市民のかたち』ペイの美術館設計と、アーティストたちとの頻繁なコラボレーションを紹介。市民空間としての美術館、アートと建築が共存する重要性、同時代の現代アートとの深いつながりや信念を示します。
Interior view of Cour Puget of the Richelieu wing, Grand Louvre (1983–1993), Paris 2021 Commissioned by M+, 2021 © Giovanna Silva
ペイは、ルーブル美術館の歴史的な伝統を尊重しつつ、現代的な要素を取り入れたデザインを設計しました。大きなガラス屋根が特徴で、自然光が豊かに差し込み、内部空間を明るく照らします。これにより、作品の鑑賞環境が向上しています。しかしながら自然光の導入には、作品の劣化や展示環境の不均一さに対する懸念があり賛否両論がありました。しかし、ガラス屋根の設計によって光の管理が工夫され、作品への影響を最小限に抑えたことで、今では明るく開放的な空間が評価されています。反発を乗り越えた結果、成功したデザインとされています。
またペイの建築は、モダニズムと伝統的要素の融合が特徴です。鋭いライン、幾何学的形状、自然光の利用が見られ、空間の美しさを追求しました。ルーヴルのピラミッドやジョン・F・ケネディ図書館、MIHO美術館など、彼の主要な建築物は、視覚的インパクトとともに、インスタレーションとしての要素を持つといえます。
- (4)『権力、政治、パトロネージ』技術的な卓越性、独創的な問題解決力、クライアントのニーズへ理解能力を備えたペイ。そのキャリアを通じてルーブルの近代化計画など絶大な支持と賛否両論を巻き起こしたプロジェクトを紹介。いかに信頼されるに至ったかを明らかにします。
Paul Stevenson Oles (illustrator) I. M. Pei & Partners Rendering of the pyramid entrance on Cour Napoléon in the daytime, Grand Louvre (1983–1993), Paris 1984 pencil on paper Photo: M+, Hong Kong, digitised with permission © Pei Cobb Freed & Partners
ルーヴル美術館の入口に設置されたガラスのピラミッドを中心に、モダンなデザインが強調されています。昼間の光を活かした描写があり、ピラミッドのガラス面が太陽光を受けて輝く様子が描かれています。このスケッチは、ペイとパートナーが提案するピラミッドの導入が歴史的なルーヴル美術館に与える影響を示し、ピラミッドのデザインを視覚的に表現することで、コンセプトを明確化しました。
I. M. Pei with Jacqueline Kennedy Onassis and guests at Fragrant Hill Hotel’s opening 1982 Photo: © Liu Heung Shing
1982年、中国の北京市郊外に位置し、自然に囲まれた美しいロケーションにあるフレグラントヒル・ホテルの開業式典には、ジャクリーン・ケネディ・オナシスの姿がありました。彼女の参加は、国際的な文化交流を促進する意義を持ちました。彼女はペイのデザインや理念に魅力を感じていたと言われており、アメリカと中国の友好関係を強調する場にもなりました。彼女の存在は、イベントに対する注目を高め、国際的な理解を深める重要な役割を果たしました。
- (5)『素材と構造の革新』特にコンクリート、石材、ガラス、スチールなどの素材や工法におけるペイと彼のチームの一貫した創意工夫を紹介。
I. M. Pei and French president François Mitterrand inspecting a glass sample for the Louvre pyramid 1987 © Marc Riboud/Fonds Marc Riboud au MNAAG/Magnum Photos
ルーヴル美術館のピラミッドに使用するガラスのサンプルを検査するペイとフランソワ・ミッテラン仏大統領。ペイは、ガラスを積極的に使用し、透明性や光の取り入れ方を常に重視しました。代表作のルーヴル美術館のピラミッドでは、ガラスと金属を組み合わせた構造が、周囲の景観と調和しながらも現代的な印象を与えています。しかしながら、ルーヴル美術館は歴史的な建物であり、伝統的なフランスの美術館のイメージを持つため、市民からは、モダンなガラスのピラミッドがこの歴史的な文脈にそぐわない、美術館の威厳を損なう、周囲の建物や都市景観と調和しない、また、外国人建築家によるデザインが自国の文化を侵害するという感情が生まれ、国内のアーティストや建築家からの反発も起こり、ペイは厳しい苦境に立たされました。しかし建設後、時間が経つにつれて、当初の反発が薄れ、多くの人々がピラミッドの美しさや意義を理解し始めました。特に観光名所としての人気が高まり、ポジティブな印象が広がり、最終的には、彼の作品は国際的に評価され、ルーヴル美術館の象徴的な存在となりました。
Photo: Lok Cheng Image courtesy of M+, Hong Kong
- (6)『デザインによる歴史の再解釈』近代建築をさまざまな歴史、伝統、生活様式、特に生まれ故郷に関連させるというペイの長年の関心を検証します。近代建築のエッセンス紹介。
Photo: Lok Cheng Image courtesy of M+, Hong Kong
The Central Hall’s framed views of the garden’s key features including the stone landscape, Suzhou Museum (2000–2006), Suzhou 2021 Commissioned by M+, 2021 © Tian Fangfang
ペイが設計した蘇州博物館の中央ホールは、庭の重要な特徴をフレームで捉えることで、歴史を見直しています。伝統的な庭園デザインを現代的な視点で融合し、自然石や木材を用いた素材選定が地域の文化を反映。中央ホールから見える庭は、観る者に新たな視点を提供し、文化的アイデンティティを再評価する機会を作ります。この空間は、訪問者が歴史的景観を能動的に体験する場となっています。
今回の大規模な回顧展を通して、ペイがどれほどまでの偉業を、どのような手段で成し得たか、また彼の人柄が与えた社会的な影響など、展示会を出る頃には皆さんも理解していただけるはずです。早足で見ても半日はかかる中身の濃い展示会。会期は2025年1月5日まで。今年必ず訪れていただきたいです。
第1位は、M+の「Guo Pei:Fashioning Imagination」2025年4月6日まで
Installation view of Guo Pei: Fashioning Imagination, 2024 Photo: Wilson Lam Image courtesy of M+, Hong Kong
中国で最も有名なクチュールアーティストのひとり、郭培:Guo Pei(グオ・ペイ)氏。彼女は中国の第一世代のコンテンポラリー・ファッションデザイナーであり、中国の歴史的な職人技と世界的視野を持ったインスピレーション、西洋のテーラリング、そして19世紀のヨーロッパで生まれた高級服飾であるオートクチュールを融合した唯一無二の作品を生み出しています。Hong Kong LEI編集者が選ぶ第1位は、今最もホットで既成概念を打ち崩されるパワフルなこの展示会です。
郭培 Guo Pei, Photo: Winnie Yeung @ Visual Voices Image Courtesy of M+, Hong Kong
グオ・ペイ氏は1967年中国生まれ。この30年間、クチュール・アートを通じて美を表現してきました。彼女の名を決定的に世界に知らしめたのが、歌手のRihanna (リアーナ) が2015年のニューヨークメトロポリタン美術館のガラで着用した美しい刺繍で彩られた25キロの黄色いガウン「The Yellow Queen」。女性の自信と強さを表現しました。
The Yellow Queen(左)(2009) Photo: Dan Leung Image courtesy of M+, Hong Kong
M+で展示されているのはグオの合計44着のオートクチュールドレス。回顧展とも言えるほどの作品の充実さではあるものの、今回の展示ではあえて年代順に考察できるようには構成しておらず、「The Joy of Life (命の歓び)」「New Tales from the East (東洋の新しい物語)」「Transcending Space (空間を超えて)」「Ethereal Mythologies (神話のエーテル)」「On Dreams and Reality (夢と現実の上で)」という5つの構成になっています。またM+の所蔵品から、彼女の創造性とテーマやメッセージ、制作のコンセプトなどが共鳴できるような作品を並べ対話形式をとることで、鑑賞する側に理解と共感が生まれます。視覚的美術館だけあって、キーになる作品はQRコードをスキャンし、展示作品の目の前で実際モデルが着て歩いている動画などを見れる仕掛けに。そもそも機能性を重視したドレスとは真逆のところに立つ作品、実際着用して動いているモデルを見ると、不思議な感動を覚えます。
The Qing-hua Porcelain (2009) Photo: Dan Leung Image courtesy of M+, Hong Kong
「New Tales from the East (東洋の新しい物語)」では、異なる文化や時代の王室のドレスを再構築し、女性のエンパワーメントと感情の強さを表現しています。象徴的なガウン「The Qing-hua Porcelain」(写真左)と磁器で作ったヘッドドレスは、東西世界貿易において中国文化の重要な製品である明・清時代の磁器の壺と扇子に敬意を表しています。グオは、陶磁器の破片やひび割れ釉(貫入)など、歴史的なデザインや品々を、驚くほど複雑なドレスとして蘇らせました。そして対になるM+の所蔵品は、まるで洋服を纏ったか、皮が剥けたかのような花瓶「破片」。
Julie & Jesse Fragment(s) (prototype) 2012 M+, Hong Kong. Gift of Julie Progin and Jesse McLin, 2015 © 2012, Julie Progin & Jesse Mc Lin Image courtesy of M+, Hong Kong
彼女の作品を、ファッションとしてではなく、ドレス彫刻のような視覚的芸術作品として見せる今回の展示会。それだけでなく、これらの作品を中国の急速な経済発展、物質的な喜びと技術的な高さの追求、そして見せたいという普遍的な欲求を映し出す鏡として捉えているそうです。
Garden of Soul collection (2015) Photo: Wilson Lam Image courtesy of M+, Hong Kong セクション「The Joy of Life (命の歓び)」より
Garden of Soul collection (2015) Photo: Lok Cheng Image courtesy of M+, Hong Kong セクション「The Joy of Life (命の歓び)」より
入場したそばから圧倒されるのは作品の存在感。これをファッションと捉えるか、アートと捉えるか、彫刻と捉えるか、いずれにせよ、彼女の作品は、洋服とはこうあるべきという既成概念を打ち破る、無限にほとばしる創造力に満ち溢れています。しかも前だけ向いて伝統に果敢に立ち向かう覚悟や気迫すら感じます。思わず自分の生き方を振り返ってみたくなる。そんな作品の数々です。
Legend Collection(2017), Photo: Wilson Lam Image courtesy of M+, Hong Kong
建築はグオ・ペイの大きなインスピレーションのひとつです。彼女は建築を「歴史を超越した芸術」としてとらえ、ファッションを人体を包み込む動く建築として構築しているそう。1990年代後半に初めてヨーロッパを旅したとき、彼女は特にバロックとゴシックの教会にインスピレーションを受けました。多くの美術館を訪れ、東洋と西洋のテキスタイルにおける歴史的な刺繍のモチーフや技法について学びました。この体験は彼女に、より緻密な職人技を掘り下げ、新たな美学を発見するインスピレーションにもなりました。この探求が、オートクチュールコレクション「レジェンド 」や「ラ・アーキテクチャー」に活かされています。「Transcending Space (空間を超えて)」のセクションに展示された作品(写真上右)は、スイスのザンクトガレン大聖堂の天井のフレスコ画とペイントされた内装からインスピレーションを受けました。
Okanoue Toshiko Maiden(1951) M+, Hong Kong © OKANOUE Toshiko Image courtesy of M+, Hong Kong
M+の選んだ作品は、フォトコラージュニストのOkanoue Toshiko(岡上淑子)の代表的な作品の一つ「Maiden(少女)」。ヨーロッパ発祥の、日本にも影響を及ぼした夢や無意識、幻想の世界を探求することを目的としたシュルレアリスムがみられ、洗練された美意識と幻想的なイマジネーションがグオの作品とも通じているようにも見えます。
The Gold Boat Elysium collection(2018):Photo: Dan Leung Image courtesy of M+, Hong Kong
「Ethereal Mythologies (神話のエーテル)」では、グオが自然や神話からインスピレーションを受けたElysium(楽園)のような幻想的で美しさが強調される作品が展示されています。The Gold Boat(写真)は、ターンテーブルに展示されていて、360度ゆっくりと回ることで立体的に鑑賞できるだけでなく、精密に設置された照明によりドレスの美しい影を作り出し、それをもが全てグオの作品と言えます。スカート部分は竹でできたカゴを二つ合わせてできており、ドライフラワーや乾燥した小枝を装飾に使うことで、命のサイクルを表わしています。
The Legend Collection (2017) Photo: Lok Cheng Image courtesy of M+, Hong Kong
当時86歳だったスーパーモデル、カルメン・デロリフィチェがランフェイで2人の若い男性を両手に従えて登場した赤いドレス。神々しさが際立っていました。後ろに見えるのは渋谷パルコのポスター「西洋は東洋を着こなせるか」(1979年)石岡瑛子氏によるもの。
Samsara collection(2006), Photo: Dan Leung Image courtesy of M+, Hong Kong
グオ初のオートクチュール作品である記念碑的なガウン「The Magnificent Gold」(2006年)。19世紀の西洋宮廷衣装のシルエットを中国刺繍で際立たせ、彼女独自の美学と異なる文化形態やモチーフを融合させました。生と再生のサイクルである「Samsara(輪廻)」コレクションのひとつであり、グオが体当たりで、意を決して取り組んだものです。「The Magnificent Gold」には、M+からオノヨーコの「Apple」(リンゴ)が選出され展示されています。かじった後のあるこのリンゴは、自己表現や創造性を促すものであり、個人が自由に自分を表現することができる。そんなメッセージを示しています。
Yoko Ono Apple(1966/1988) bronze M+, Hong Kong © Yoko Ono Photo: Timon Wehrli Image courtesy of M+, Hong Kong
今回の展示会で、わたしたち鑑賞者は、グオ・ペイ氏の素晴らしい作品に心を動かされ、M+の所蔵品による対話形式からのメッセージでさらに心を揺すぶられます。グオの特別展を見るには、特別展の入場料が必要になります。ただしロビーに1点だけ作品が展示されているので、ぜひ機会があれば間近でご覧ください。
今回の「GUO PEI:Fashioning Imagination」 のキュレーションを務めたのは建築部門主任学芸員である日本人の横山いくこ氏。この展示ではグオの真骨頂である視覚的にインパクトのあるドレスを360度見れるようにするために創意工夫をこらしたとのこと。正面から見るだけでなく、違う角度から見ることによって、さらにグオのイマジネーションに驚き、楽しんでいただけるはず。M+で唯一の日本人学芸員がキュレートした素晴らしい展示会にぜひ足を運んで、肌で感じて欲しいと思います。2025年4月6日まで。
M+建築部門主任学芸員 横山いくこ氏
M+への行き方は色々ありますが、MTRで訪れる方は、ELEMENTSの中を通って行く方法が一番簡単です。行き方はこちらをご覧ください。
詳細はM+のWebサイトをご覧ください。
https://www.mplus.org.hk/
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