2023/08/20

Tasting Table Japan Premium

「Hong Kong LEI – Cover Story」は、香港でがんばる人をご紹介するシリーズ企画です。当記事は、健康と食の安全をお届けする Tasting Table Japan Premium より当企画への賛同と協賛をいただき制作しています。


「日本酒の凄さをもっと知らせたい」

SSI:日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会
WSET: Wine and Sprit Education Trust
SSA:Sake Sommelier Association
IWC:International Wine Challenge

<目次>
<香港初の国際唎酒師コースを導入>
<チャゲアスがきっかけで、日本語を猛勉強>
<教育してきた成果を実感しています>
<ベニー・リーさんへの三つの質問>


<香港初の国際唎酒師コースを導入>

今、香港では日本酒がアツい。財務省貿易統計によると、香港への日本酒輸出額2012年は13億円。そこから年々上昇を続け、2022年には71億円と、過去10年でなんと5倍の伸び。国別輸出額を見ても、中国、アメリカに続き、一都市である香港が3位につけているのだ*。

元気いっぱいの香港日本酒業界。ここに、彼を知らない人はいない!と言われるほど名の通った人物がいる。今回ご紹介するベニー・リーさんだ。現在、香港ワインアカデミーにて日本酒学講師を務めているベニーさん。彼は日本の認定機関であるSSIによる「国際唎酒師」コース、及び世界最大の酒類教育機関であるWSETの「酒レベルアワード」コース(ともに中国語版)を教えている。

唎酒師と言うのは、最も歴史の長い日本酒ソムリエ資格の名称。SSIによれば、この資格を取るには「日本酒の作り方や歴史、料理との相性、味わいや香りの特徴、予算などに基づいてお客様にアドバイスができる」ようになる必要がある。そして、国際唎酒師とはその外国版**。実はこのコースを2014年に香港に導入し、香港で初の国際唎酒師コースを指導するSSI酒学講師となったのが、ベニーさんなのだ。まさに香港における日本酒教育の先駆者と言えるだろう。

授業中のベニーさん。

「香港は日本の次に日本酒が安く買える土地。そして今は日本酒をおいているレストランや店がとても増えて、買い求めやすくなっていますね」と話すベニーさん。

日本酒界での彼の活躍は講師業にとどまらず、活動範囲も香港だけにとどまらない。毎年ロンドンで開催される権威あるIWCの酒ジャッジとして名を連ね、また国際的に抜群の知名度を誇る『獺祭』のオフィシャルトレーナーとして、香港、台湾、中国でプロモーション活動および卸業者やリテールへの研修を行う。

「亞洲清酒大賞Oriental Sake Awards 2023 」。出品された356本の日本酒から大賞を決める。ベニーさんは審査員として2日に渡り110本もの日本酒を試飲した。

* 2012年香港への日本酒輸出額(農林水産物・食品 輸出支援プラットフォーム 香港)

2022年香港への日本酒輸出額及び国別輸出額(日本酒造組合中央会)

**SSIのサイトより引用

<チャゲアスがきっかけで、日本語を猛勉強>

ベニーさんが日本酒の世界に入ったのは、そもそも日本語・日本文化に通じていたことがきっかけだった。では何故、日本語を始めたのかと言う問いに「日本のポップカルチャーが溢れていた香港での中学生時代、僕CHAGE and ASKAが大好きで。すごくいいなぁ、って。それで日本語勉強したいなと思ったんです」と白い歯を覗かせる。

中日辞書を片手に、漢字の読み方をローマ字で書き留めながら大好きなJ-popを一生懸命歌っていたベニー少年。謙遜しながらも「語学の成績はトップ5だった」という彼はその後、名門香港中文大学に進学、日本研究学科生となる。在学中は交換留学生として東京の上智大学で日本人学生達との「飲みゅニケーション」等も交えながら、さらに日本語に磨きをかけていった。

1999年、日本の上智大学に交換留学していた当時の写真。サークル『AMITY』の仲間と一緒に。

大学卒業後は得意の日本語を活かし、当時香港を賑わせていた日本芸能ニュースの記者として活躍。しかし「時と共にだんだんね、香港の人が日本のニュースに興味をもたなくなってきちゃって……マスコミの仕事に将来が見えなくなってきた」。そんなある日、香港ワインアカデミーを発足した幼馴染が日本通のベニーさんに「日本酒の勉強をして日本酒の講師にならないか」と声をかけた。2011年、マスコミ業界で10年勤めた後のことだ。

元来「勉強は好き。わからなかったことが、パッとわかるようになるあの感じ。霧が晴れるような。新しい知識は役に立つし」という彼は、日本酒に対しても貪欲に知識を吸収していく。その年、すぐに最初の資格を取得し講師として指導を始め、その後も、唎酒師などの日本酒資格を次々と取得していった。

<教育してきた成果を実感しています>

今年で日本酒学講師となって12年目。なぜこの世界に突き進んでいったのか。「もちろん、始めは単純に日本酒がおいしいと思った。飲んでホッとしてリラックスする。そして話しやすくなる」。すると「そのうち、日本酒をきっかけに出会った人との友情や日本酒関係のビジネスチャンスが意外なところからたくさん訪れてきて」。日本酒がベニーさんをどんどん日本酒の世界に引き込んでいったようだ。

「あとは日本酒の凄さ。たとえばペアリングのしやすさもその一つ。日本酒にはUMAMIが含まれるので世界中の料理とペアリングしやすいんですよ」と言ってから「でもそれはみんな知っていること。僕が思うよくできた日本酒は、味が複雑なのに軽いこと! 味が複雑なのに軽いって、矛盾して聞こえるでしょう? でもあるんです。これが僕が思う日本酒の凄さ」と続けた。ただ、これを理解できるようになるには相当の日本酒のテイスティング経験を積む必要があるそうだ。

だからこそ講師として日々奮闘しているわけだが、講師の仕事についての想いも語ってくれた。「レッスン初日。日本酒に関して知識がない人、間違った知識を持った人がくる。ところが僕が教えることで、彼らを今までと違った新しい世界に導くことができるわけですね。教えた後に彼らが自分の好きな日本酒のスタイルがパッとわかった時の顔。これを見るのが嬉しい。その生徒さんたちの顔を見た時の僕の満足感!」

2014年以来、彼が教える学校から卒業した国際唎酒師は千人以上になるという。昨今の香港での日本酒人気については、「教育してきた成果が実感として持てるようになってきました」とニコニコして語る。

教え始めた当初は、日本酒と焼酎の違いさえわかってもらえないこともあった。だが今は「正しい保存・提供の仕方、合う料理等の知識を持った日本酒のプロが和食レストランなら必ずいるようになって。その上、一般の人でも知識を持っている人が多くなっている」。そして「この変化を大変ありがたく思っています」と言うベニーさん。日本酒学を牽引し、日本酒の魅力を香港に伝えてきた彼こそが、この変化を起こした一人であることに間違いはないだろう。

最後に自身の今後について聞くと「もっと酒蔵ツアーがしたいですね。(前述した)凄い日本酒って想像できないほどの細心の注意を払って作っている。そして運も必要。微生物がいっぱい関わっていますから。それらが全て噛み合った時『凄い』日本酒ができる」。そういう工程をぜひ見てもらい、もっともっと日本酒のことを知ってもらいたいそうだ。

香港で、日本酒への愛を日々注ぎ続けるベニーさん。これからも日本酒伝道師として益々のご活躍を!乾杯!

2023年3月、神戸酒心館にて清酒醸造体験に立ち会うベニーさん(右)。ベニーさん自身がツアーを企画した。

<ベニー・リーさんへの三つの質問>

Q1 香港にあるお気に入りのレストランを教えてください。
「京おでん・マサ」。出汁がめちゃめちゃうまいです。

Q2  週末は何をしていますか?
家族と一緒。子どもが生まれる前は妻と映画を見たり、あと山登りも好きでしたけれど。山登りは3歳の娘がもう少し大きくなったら連れていこうかな!

Q3  座右の銘を教えてください
『勿忘初心、方得始終』。初心を忘れずにいれば、最後には必ず成功する!

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